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「すこやかなる美」を軸に人生100年時代を支える企業へ 三谷千里 伸栄商事 

伸栄商事 三谷千里

化粧品会社として美と健康に関する商品の企画開発から物流までグループ経営で一貫して行う伸栄商事。2013年に創業家二代目として社長に就任した三谷千里氏は、「すこやかなる美の創造」を理念に掲げ、健康経営にも力を注いでいる。(雑誌『経済界』2025年3月号「関西経済、新時代!」特集より)

伸栄商事 三谷千里
伸栄商事 三谷千里

創業者と二代目の想いが紡ぎ出した企業理念

 「女性は歳を重ねれば重ねるほど、自分を磨いて美しく輝いていくんだよ」

 創業家二代目として社長を務める千里氏は、創業者である父・三谷隆一氏の言葉で、人生観が大きく変わり、経営者として歩むきっかけとなったと振り返る。

 伸栄商事が設立されたのは1982年。婦人会や自治体の集まりでアイデア雑貨をカタログ販売する事業からスタートし、87年には生協の販路を新たに開拓。その後、オリジナル化粧品の開発に着手し、事業を順調に拡大していった。千里氏は一般企業で総務人事業務を経験後、95年に伸栄商事に入社。経理の知識を深めたが、その後の出産を機に子育てに専念していた。

 ある時、「10年かけて会社の体制をつくっていくから、女性社長として会社を引き継いでほしい」と隆一氏に言われ、2011年4月、後継者として再入社し、経営を学び始める。しかし、同年12月に隆一氏は交通事故で急逝。

 「悲しみと混乱の中、父が亡くなった翌年、設立30周年の節目として社史を制作しました。その過程で、父が社員や取引先を家族のように大切にしていたことをあらためて知りました。私は父の背中を見て育ち、小さい頃から家業を身近に感じてきました。だからこそ私が父の想いを継ぎ、社員の皆さんが楽しく居心地よく、やりがいのある仕事ができる会社にしていきたいと思ったのです」

 創業者の想いを知り、会社を引き継ぐ決心をした千里氏は、13年に社長に就任。隆一氏から受け継いだ信念と自身の経験から、企業理念として掲げる「すこやかなる美の創造」という言葉を紡ぎだした。

 「私たちが考える『すこやかなる美』とは、心身ともに健康で、歳を重ねるほどに輝きを増していくこと。外見の美しさだけでなく、人生をより豊かにするお手伝いをしたいと考えています」

 この理念を反映し、化粧品、健康食品、日用雑貨など、美と健康をサポートする幅広い商品カテゴリーを展開。品揃えを着実に強化していったことで、コロナ禍も堅調な売り上げを維持した。

 また、高品質な商品を提供し続けていることも、伸栄商事の大きな強みだ。生協独自の厳しい品質基準をクリアする商品は、生協との間で長年にわたって培われた強い信頼関係の証と言える。特に2年の歳月をかけて開発された洗顔石鹸「薬用エルベナソープ」は、24年に発売25周年を迎え、累計販売個数は900万個を超える看板商品だ。きめ細かい泡立ちと洗い上がりの良さを特長とし、生分解性にも優れるこの石鹸は、子どもから大人まで幅広い世代に愛されるロングセラー。23年には環境負荷を低減したパッケージにリニューアルするなど、SDGs経営にも積極的に取り組んでいる。

理念を体現するための健康経営と働き方改革

 「すこやかなる美」は商品やサービスだけでなく、社内の環境づくりにも反映されている。例えば、社員の心身の健康をサポートするために、オフィス内にコンディショニングスペースを設け、業務時間内でも自由にストレッチやトレーニングができるようにした。

 また、千里氏自身の子育て経験も踏まえ、時間単位での有給休暇制度、時差出勤制度、小学3年生まで取得可能な時短勤務制度など、社員一人一人のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方も積極的に支援。こういった働き方改革や健康経営の取り組みが評価され、23年、24年と2年連続で「健康経営優良法人」に認定されている。

 さらに、「すこやかなる美」を社員自らが体験し学ぶための場として、「Chisato CLASSE(チサトクラッセ)」と題した独自の人財育成プログラムを14年から展開。「人生をより豊かに美しく輝かせてほしい」という千里氏の想いの下、メイクレッスンやフラワーコラージュ、茶道など各分野の専門家を講師に招き、毎年開催している。

 「さまざまな取り組みを通じて、最近は企業理念が社員にかなり浸透してきたと実感しています。新卒採用を5年以上続けていますが、理念に共感して入社する人が増えていることもうれしく思います」

心身の健康と豊かな人生をこれからも支え続ける

 社員がいきいきと働ける環境づくりに力を注いできた千里氏。その根底にあるのは、企業理念を自ら体現できる組織を目指すという意志だけでなく、「働く人たちを幸せにしたい」「入って良かったと思える会社にしたい」と強く願う気持ちだ。

 社員の幸せ、そして一人一人の「すこやかなる美」を支えることが、会社の成長、ひいては社会貢献にもつながる。そんな信念の下、伸栄商事は100年企業を目指して歩みを進めている。次世代リーダーの育成に力を入れ、多様な人材が活躍できる環境を整え、SDGsへの取り組みや社会貢献活動にもより一層力を入れる。

 「人生100年時代と言われる今、これからはもっと多くの方に『すこやかなる美』を伝えていきたいですね。心身ともにすこやかに、人生をより豊かにするお手伝いができればと思っています」とやわらかく微笑む千里氏。伸栄商事の挑戦はこれからも続いていく。 

会社概要
設  立 1982年1月
資 本 金 8,000万円
売 上 高 109億円(2024年3月期・グループ合計)
本  社 大阪市淀川区
従業員数 134人(2024年4月1日現在・グループ合計)
事業内容 化粧品・健康食品・日用品雑貨の企画開発、製造および販売
https://shineigroup.com