国内屈指の難関校の灘中学校。2024年度の合格率は2・78倍。その合格に「最も近い塾」として知られるのが浜学園だ。累計合格者数は3296人。売上高は21年連続で増加している。昨年創業65年を迎えた同社に、他塾との違いや戦略を聞いた。(雑誌『経済界』2025年3月号「関西経済、新時代!」特集より)
65年の伝統が育む教育力 講師陣のスキルの高さが強み
関西を中心に全国に55教室、海外・FC含むグループ累計で186教室を構える浜学園。1959年の創業以来、塾業界の草分け的存在として関西を牽引してきた。ライバルがひしめく激戦の中、売上高は21年間右肩上がりの成長を継続。安定した経営基盤を築き上げている。
65年にわたり安定経営を継続できている理由を、社長の竹森勝俊氏は「講師陣のスキルの高さにある」と断言する。同社は一流の講師を生み出すために、「講師三軍制」を採っている。採用テストに合格した段階が三軍、准講師(テスト実施業務)が二軍、厳しい研修過程を経て講師登用試験に合格した講師を一軍とし、1年間で浜学園の講師になれるのは、30人に1人という狭き門だ。講師になった後も、2カ月に一度生徒にアンケートを実施し、「授業の分かりやすさ」を確認。回答は点数化され、評価が一定程度を越えなければ担当講師の変更もあり得る。加えて、講師はそれぞれ1教科に特化した「専任制」だ。低、中、高学年、基礎、上位層など細分化され、授業のクオリティを担保し続けるチェック体制がある。
また親世代だけでなくシニア世代にも浸透しているブランド力と、各種模擬試験も塾生を含めた受験生が多く信頼度が高いことも浜学園の強みだ。65年間蓄積したデータを元につくられた、合格に導くためのノウハウもアドバンテージとなっている。
先端技術で進化を遂げる新しい教育サービス
他社に先駆けてデジタル系サービスも駆使しており、2024年2月からは、大学の総合型選抜入試の要素が加わりつつある中学受験の傾向を先取り。オンデマンドの「非認知スキル向上カリキュラム」を幼児から小学生全員に導入した。「課題解決、プレゼン、コミュニケーション能力などにつながる、体系的にまとめられたプログラムです。中学受験業界唯一の取り組みであり、これまでの学力を含めた認知能力に加え、非認知能力も育てることで、社会課題へ挑める人材の育成を目指しています」と竹森社長は力を込める。
一方、教育の未来のために、大学や異業種企業とのプロジェクトも推進。その一つが藤田医科大学公認ベンチャー・バイオシスラボとの腸活と食育の融合プロジェクトだ。
「日本の受験は冬季で、受験日にお子さんが風邪を引いたりお腹が痛くなることが頻繁にあります。腸の健康は免疫力を高め胃腸を強くするだけでなく、受験に大切なメンタルやアレルギー疾患とも相関があると言われており、心身の健康を支える取り組みとしてスタートしました」
現在は、プレバイオティクス「オリゴ糖」を使用した製品のモニター提供や、子供の学習と腸内環境の変化状況のモニタリング、腸活の啓発イベントなどに取り組んでいる。
もう一つは、大阪大学大学院人間科学研究科と行っているクローズドAIを用いた「デジタルクローン」の研究だ。広く情報を収集するオープンAIに対して、クローズドAIとは、特定の個人のデータだけをインプットする。将来的な労働人口減少を見据え、教職員や専門家の知見を蓄積し、デジタル上にクローンをつくる仕組み。教育サービスに寄与する実装を目指す。
100年企業へと向かう「継承と革新」の成長戦略
幼児教育にも注力している。高い思考力と社会性を育てる「はまキッズ」と、子どもの学びの基盤となる右脳開発で、記憶力や集中力を伸ばす「HEGL(へーグル)」。異なる二つの教室の運営を通じて、幼児期からの理想的な教育も実施。24年にはグラングリーン大阪に「はまキッズオルパスクラブα」も開校。「はまキッズ」のメソッドをベースに、自然との触れ合いイベントや、身体を動かすさまざまなプログラムを実施していく予定だ。
今年はこれまで「駿台・浜学園」としていたブランドを「浜学園」に改名し、関東での拡大を狙う。特に算数の展開に力を入れる方針だ。理系科目の入試難度は西高東低と言われており、「算数の浜」と異名を持つほど、算数のレベルは高いそうだ。「25年2月に六本木で算数特化型教室を新設。関東での認知度を上げていきたい」と竹森社長は狙いを話す。
卒塾生のコミュニティ形成にも意欲的だ。浜学園の卒塾生には、宇宙飛行士、自治体首長、ベストセラー作家、医師、弁護士、起業家など、社会で活躍している人が多い。「浜学園サミット」として、こうした卒塾生と現役の教職員、塾生、保護者との交流機会を創出。浜学園に愛着を持ってもらうとともに、社会に貢献し変革をもたらす「学習塾のアルムナイコミュニティ」の確立を目指す。
学習塾の経営だけにとどまらず、多彩な展開で成長を続ける浜学園。竹森社長は、「最上の学びで、社会の伸びしろに挑む力を育てる」というミッションを今一度社内で徹底し、100周年を見据えて、「継承と革新」の経営を続けていく考えだ。
会社概要 創 業 1959年4月 資 本 金 5億5,000万円(グループ計) 売 上 高 130億円(グループ計) 本 社 兵庫県西宮市 従業員数 492人 事業内容 教育・塾事業、出版事業 https://www.hamagakuen.co.jp |