世に数多ある有害物質。その中でも石綿(アスベスト)の有害性はトップレベルだ。近年の法改正では専門家の調査・分析、そして結果報告が義務付けられた。現場作業者の命を脅かす有害物質。危険な現場で戦う専門業者である都分析代表の福田賢司氏に聞いた。(雑誌『経済界』2025年3月号「関西経済、新時代!」特集より)
改革進む法制度と増える需要 石綿と闘う専門家集団
2021年4月、大気汚染防止法が改正され、建築物の解体や改修、リフォームなどの工事において、石綿の含有の有無を調査し、結果を記録する義務が設けられた。その後も法改正は進み、23年10月以降は、アスベストの事前調査や分析サンプルの採取は資格者による実施が義務付けられた。都分析は、これらの環境調査分析事業を手掛けるスペシャリストだ。代表取締役の福田氏は、以前よりこの動向に注目していた。
「13年に国交省により、建築物における石綿の調査を行うことができる『建築物石綿含有建材調査者』の制度が創設されました。現在25万人ほどがいるとされていますが、知識だけでなく、実際に現地調査・含有分析ができる人材は数少ないものです。私は当初よりこの調査・分析に特化した事業をやりたいと考えていました」
都分析は、グループ会社に環境分析・調査事業を手掛けるサン・テクノスを持ち、福田氏は創業家一族として、若い頃から同社で経験を積み、仕事の腕を磨いてきた。近年は一般社団法人建築物石綿含有建材調査者協会(ASA)が実施する上級石綿調査者の試験にも合格。近畿圏初の資格取得者となった。
数だけ見ると専門家は増え、充実しているように見える。しかし、近年は建築物石綿含有建材調査者資格が形骸化しており、福田氏は強い危機感と憂いを抱いている。
「本当の意味で現場を任せられる調査者は数えるほどしかいません。誰でも取得できる資格となり、本来の目的から遠ざかっている現状に、強い問題意識を感じています。最近は石綿調査のプロフェッショナル集団として大企業からセミナーのご依頼やアドバイスを求められるようになってきたので、啓発・啓蒙を通して私たちの理念や技術を専門家の方々に伝え、石綿問題の解決につなげていきたいと考えています」
石綿で失った身近な職人 安心・安全の現場を目指して
福田氏が石綿問題に強い課題意識を持ち、都分析を立ち上げた背景には、過去の喪失体験が関係している。現場で親しくしていた職人が亡くなったのだ。
「原因は石綿関係の可能性が高いと考えています。当時、職人はまだ30代という若さでしたが、現場で会う度に体調が悪化しているのです。職人気質だったので、『石綿なんか大したことない』と仰っていましたが、気付いたら入院しており、職人仲間から訃報を聞かされました」
これ以外に福田氏が関わっていない現場でも、職人が次々と倒れていった。石綿は解体や改修(リフォームを含む)時に飛散するため、その特性上、現場にいる集団全員に害を及ぼす。数ある発がん性物質の中でもトップレベルの危険度だ。
「身近な方々が体調を崩し、亡くなっていく現実を前に、何とかしたいとの思いが強くなりました。昔から化学が好きで、専門学校では環境(応用)分析化学について学んでいたため、それらを生かした仕事をしたいと都分析を立ち上げました」
国は45年に石綿含有率が基準値を超える建築物をゼロにしたい考えだが、専門人材が足りていないのが現状だ。石綿含有率が基準値を上回る06年8月31日以前に着工された建築物は今なお多く残っており、劣化が進んでいる。そのため、今後、解体・改修の需要はますます増えていくことが予想される。大きなビルとなれば、解体には数カ月以上かかるものもあり、一現場での作業コストが高いのも懸念点の一つだ。
「今後の需要に対応するためには、正確に現地調査ができる専門家が必要です。現状はまだまだ追いついておらず、一人前になるまでには現場での経験を含め少なくとも5年はかかる。早急に人材育成に取り組む必要があります」
求められる現状への対応 業界全体で盛り上がる機運
これまで建築物に限った話を進めてきたが、26年1月1日には新たに特定工作物が規制対象となる予定で、工作物石綿事前調査者の資格が必須となる。工作物の定義は広く、地下鉄駅の壁や天井、電線、ホテルなどの建物の地下ダクトやボイラー、分電盤、プラントや船舶も対象となる。もちろん、工場内にある製造機械もそうだ。例を挙げるときりがないほどのものが石綿を含んでいる可能性があり、廃棄にもコストがかかる。これと同時に、適切に調査・分析、処理ができる専門家のニーズも爆発的に増加する見込みだ。
こうした危機的状況を前に、手をこまねいているばかりではない。福田氏をはじめ業界関係者たちは既に対応に向けて動き始めている。
「石綿の代替品は次々に市場に出てきており、ロックウールやグラスウールを使用したものが増えています。現在石綿の製造はもちろん、流通についても厳しく取り締まられており、今後新しく建つ建築物に関しては心配ないでしょう」
専門人材の育成についても、明るいニュースはある。全国各地では専門人材育成の機運が生まれている。都分析も石綿分析のプロフェッショナルとして、先述の啓発・啓蒙活動に加え、人材育成に取り組んでいく。
これまで数多くの現場に立ち会い、調査・分析を行ってきた都分析。自社だけでなく、業界全体の成長と、安心・安全な環境を目指し、有害物質との闘いの日々は続く。
会社概要 設 立 2020年11月 資 本 金 600万円 売 上 高 2億円 本 社 大阪市都島区 従業員数 20人(外部委託含む) 事業内容 アスベスト調査・建材採取・分析 https://miyako-bunseki.co.jp/ |