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業界初の上場企業代表が語る eスポーツの10年とこれから 谷田優也 GLOE

谷田優也 GLOE

2015年、eスポーツイベント運営等を手掛けるウェルプレイドを創業した谷田優也氏。同社は競合他社との合併などを経て、22年にeスポーツ銘柄で初めて東証グロース市場へ上場した。谷田氏の見てきた10年は、日本eスポーツ業界急成長の軌跡そのものだ。聞き手=小林千華 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2025年4月号「『ゲーム』を超えるeスポーツ」特集より)

谷田優也 GLOE代表のプロフィール

谷田優也 GLOE
谷田優也 GLOE代表
たにだ・ゆうや 1982年、東京都生まれ。IPコンテンツプロデューサーなどを経て、2015年11月にGLOEの前身となるウェルプレイドを設立。21年2月、RIZeSTとの合併を経て、ウェルプレイド・ライゼストの代表に就任。22年、東証グロース市場へ上場。24年、GLOEに商号変更。

プレーヤーが輝く「土台」を自分たちでつくる

―― 谷田さんは2015年、GLOEの前身となるウェルプレイドを創業。21年、同じくeスポーツ業界でイベントや大会などを手掛けてきたRIZeST社と合併し、現在のGLOEとなっています。22年にはeスポーツ銘柄として初の上場も果たしました。

谷田 eスポーツという分野に注目を集める手段のひとつとして、以前から上場は意識していました。eスポーツの価値を知らない人に伝えるのは簡単ではないですが、企業が上場することの価値はみんなが知っている。だったら、eスポーツ業界から上場企業が出れば、みんなに「eスポーツってすごい」と分かってもらえるんじゃないかという思いがありました。

 そんな中18年に「eスポーツ」が流行語大賞トップ10に入賞するなど、知名度がぐっと上がって市場の熱量が増してきました。その熱が冷めないうちに上場できたことはよかったと思います。

 僕は当社の前身であるウェルプレイドを15年に創業しました。それまでゲームメーカーで勤務していて、海外と日本でゲームプレーヤーを取り巻く環境が全く異なることにモヤモヤしていました。

 例えば、15年にアメリカで行われた「Dota 2」というタイトルの公式世界大会では、賞金総額が約1843万ドル、当時の日本円で約22億円でした。その頃の日本では景品表示法などの規制もあり、100万円もらえる大会すらなかったし、年収1千万円稼ぐプレーヤーもいなかった。プロでもゲーム1本で暮らしていける状況ではありませんでした。

 僕は優秀なプレーヤーたちにすごく心を震わされた経験があって、「アスリートやアーティストと同じように人を感動させる彼らが、なぜゲームで稼ぐことができないのか」との思いを抱いていた。そんな環境を変えたいと思ったことが起業の理由です。

―― 具体的にどう環境を変えようとしたのでしょうか。

谷田 やはり、プレーヤーが稼げないことが一番の課題でした。今でこそ珍しくありませんが、給与制を採用しているプロチームも15年1月までは日本にありませんでした。

 プレーヤーが稼げる環境をつくるため、最初は自分たちでチームを立ち上げるべきかとも思いましたが、そもそも彼らの活躍の場をつくる、彼らに予算を使ってくれる企業を増やすことからやっていくべきだと思い直したんです。

 まずは誰に向けて働きかければいいか。僕らはゲーム畑にいた人間ばかりで起業したので、業界でどういうことに予算が使われているのか理解していました。特に15年頃はソシャゲ(主にSNS上で提供されるオンラインゲーム)全盛期だったこともあり、スマホゲームにマーケティング予算が多く割かれる時代でした。家庭用ゲーム機などでするゲームはソフトの初動売り上げが命ですが、スマホゲームは売り上げや課金状況を常に計れるので、そこから予算が出されやすい。そこでまずはスマホゲームの競技シーンの理解を得られれば、持続可能なマーケティング予算を提供してもらえると考えました。

 最初に協力してもらえたのが、「クラッシュ・ロワイヤル」などを提供するフィンランドの企業、スーパーセルさんです。当時モバイルゲームのグローバル売り上げ1位でした。彼らとプロリーグを立ち上げたり、その中で日本一を決める大会を開催したりして、「モバゲー売り上げ世界一の企業が、日本のウェルプレイドと何かやってるな」と注目していただける状況ができました。

 ここから派生して国内外のいろいろな企業とつながりをつくっていくことで、eスポーツシーンの土台を固めていきました。

―― 「土台」ですか。

谷田 僕らが当時心がけていたのは、ゲームのおもしろい・おもしろくないをつくるのはゲーム会社ですが、僕らはゲームの外側に、人々がゲームをやり続ける理由をつくるんだということ。ゲームを楽しむための場をつくる、今のゲームシーンを取り巻く環境を変える。これがeスポーツを採用すべき理由なんだと世間に知らしめていくつもりでした。

 当時まで、国内のゲーム会社でeスポーツ事業を手掛けているところはほとんどなかったのですが、僕らとスーパーセルさんが組む前後で一気に増えた体感があるので、少なからず影響できたかなと思っています。

ゲームがゲームを超えた そのきっかけがeスポーツ

―― 今後サウジアラビアで「オリンピックeスポーツゲームズ」開催が予定されています。GLOEとして関わる計画はあるのでしょうか。

谷田 まだ進行中のことが多数ある中で明言はできないのですが、「eスポーツがオリンピック競技になること」を願って活動してきた僕らとして、「オリンピックeスポーツゲームズ」が盛り上がる一助になれればと考えています。

―― このオリンピック開催について、日本のeスポーツ界を10年間見てきた谷田さんはどう考えますか。

谷田 定期開催となると、プレーヤーにも、初回が終わればまた次の代表選手に選ばれるように頑張るエネルギーが生まれますよね。世代交代・若返りへの熱が高まっていくんじゃないかと考えています。

 そうなれば例えば中学、高校などでもプレーヤーを支援する動きも強まるかもしれないですし、若い人から業界の活性化がぐっと進むのではないかと期待しています。

―― GLOEとして今後どんなことに挑戦していきますか。

谷田 今年はまず、高齢者事業で結果を出せるようアプローチしていきたいです。認知機能の維持にゲームがどう有効か、高齢者施設にゲームやeスポーツを導入することの意義について、実証実験などを通して検証していきます。

 ゲームやeスポーツの可能性は本当にいろいろな方向にあって、僕らはその領域でビジネスをする中でのトップ企業であり続けたい思いがあります。ありとあらゆるノウハウを持つeスポーツ総合商社として、世界中から一番相談され続ける企業を目指します。

―― 本特集のタイトルは「『ゲーム』を超えるeスポーツ」です。谷田さんがこのタイトルを聞いて連想されることはありますか。

谷田 ゲームが暇つぶしの道具ではなくなった。この壁を最初に壊したのがeスポーツだと思います。ゲームでお金が稼げるとか、部活で大会に出て勝てるとか、周りからも評価される結果を得られるものになってきたと。人々を熱狂させ、「ゲームを超えさせた」のがまさにeスポーツだと思います。