経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

一筋縄では生き残れないプロチーム経営の難しさ

文=小林千華 Photo=画像提供:吉本興業(雑誌『経済界』2025年4月号「『ゲーム』を超えるeスポーツ」特集より)

経営安定は難関 一般スポーツとの違いも

 プロeスポーツチームの経営を安定させることは至難の業だ。プロチームの倒産のニュースは、市場規模が急拡大している現在でも国内外でたびたび聞かれる。比較的新しいスポーツのため、まだ収益モデルが安定していないことが大きな理由だ。運営難によるM&Aや他社との提携の事例も少なくない。

 KADOKAWA Game Linkageが運営するプロチーム「FAV gaming」でGeneral Managerを務める目黒輔氏は、多くのチームが資金繰りに苦しむ現状について「投資とリターンがまだ見合っていない」と分析する。

 「プレーヤーのギャランティが高くなっていくことはプロeスポーツ業界として喜ばしい半面、スポンサーフィーなどのBtoB、グッズ販売などのBtoCがともに拡大していかないといけません。正直なところそこがまだまだ釣り合っていません」(目黒氏)

 プロeスポーツチームの収益モデルには、他のスポーツとは異なる点がある。主な違いは公式リーグ、公式大会のチケット収入の有無だ。

 一般的なスポーツチームにとっては大きな収入源であるチケット収入。プロ野球やプロサッカーでは、ホームゲームの運営をチームが自ら担当してチケット収入も受け取る。NPB球団の収入の内、チケット収入は3~4割程度と推測する声もある。

しかしeスポーツの場合、リーグや公式大会を運営するのは、ほとんどの場合業界団体やゲームメーカーなど。チケット収入も彼らのものになる。

 これについて目黒氏は、「一般的なプロスポーツの場合、『チームが有力選手を獲得、有力チームを生成することで、チケット収入が増える』といった投資効果を分かりやすく可視化できる。しかしeスポーツでは、そこを明確化する要素がまだ少ない」と指摘する。つまり、優秀なプレーヤーを獲得・育成しても、チームは大会参加から直接かつ安定的なリターンを得られない。

 そこでプロeスポーツチームの収入源は、スポンサーフィーに頼りがちになる。それでは外的環境に経営が大きく左右されるため、多くのチームが物販や企業とのタイアップ、イベント開催に注力する。近年はプレーヤーを、アイドルやタレントのように「推し活」として応援するファンが多く、サイン会や撮影会を行うチームも増えている。

 もうひとつ、目黒氏が指摘するのがストリーマー(配信者)の存在だ。氏は彼らのことを、チームの宣伝役として不可欠だと語る。

 「彼らの役目は大会に出場することではなく、日ごろのゲーム実況・配信などを通してファンと密なコミュニケーションを図り、ファンベースの底上げを担うことです。彼らの存在がチームの人気の指標になるくらい重要な要素です。人気トップチームのファンイベントでは、数万人が詰めかけます」(目黒氏)

 こうして各社が、eスポーツならではのビジネスを組み合わせることでしのぎを削っている。

生き残るためのカギは他社にない強みの模索

 プロチームにも、大きく分けて2種類ある。ひとつは企業が一事業として運営する「企業系チーム」。もうひとつはREJECT、ZETA DIVISIONのようにオーナーがゼロから立ち上げた「独立系チーム」だ。独立系チームなら、自社のビジネスで資金をつくるか、スポンサーフィー、外部からの資金調達などで収益化を目指していくしかない。それと比較すると、企業系チームの方が資金面では安定しやすい。

 横浜F・マリノスや読売ジャイアンツをはじめとするプロスポーツチーム、日本テレビ、Cygamesなども、eスポーツのプロチームを運営している。

 お笑い芸人、タレントなどのマネジメントで日本屈指の歴史を誇る吉本興業もそのひとつだ。同社は2018年から、プロeスポーツチーム「よしもとゲーミング」を運営。祖業の他にもテクノロジーの進歩やトレンドに合わせて、積極的に新規事業に取り組んでいる企業だ。彼ら企業系チームが生き残るためのカギは、「既存事業とのシナジーをいかに生み出すか」だ。

 吉本興業は18年当時、芸能事務所としては初めて業界に参入した。現在はよしもとゲーミング運営の他、eスポーツ事業として大会の企画運営、ゲームコンテンツの制作、そして興行のプロとしての側面から、パズルゲーム「パズドラ」のリーグ運営も行う。

 よしもとゲーミングの所属プレーヤー、ストリーマー、キャスターは総勢26人。「スプラトゥーン」で全国大会優勝経験を持つメロンさんや、同じくスプラトゥーンのプレーヤーとして知られる4人チーム・カラマリ、eスポーツキャスターのハメコ。さんが特に知られる。

 コンテンツビジネス本部の野間俊助氏は、eスポーツ事業における同社の強みは、「芸人とのコラボレーションが図れる点」と語る。「ゲームは若年層にも人気の高いコンテンツ。当社の既存のエンターテインメント事業との親和性も高い」との言葉通り、ゲームイベントや大会などの場面で芸人と連携できることは吉本興業ならではの強みだ。

 また、野間氏いわく「芸人の中にもゲーム好きは多い」。昨年12月にも、お笑いコンビ・マヂカルラブリーの野田クリスタルさんが総監督を務めるゲーム「スーパー野田ゲーMAKER」が発売されたばかりだ。eスポーツイベントでも、コアなファンが多く訪れるものなら競技に詳しい芸人を、そうでない人々が訪れるものならゲームやeスポーツの良さを伝えるのに適した芸人をと、ニーズに応じたキャスティングがしやすい。

 吉本興業グループのFANYゲームIP開発部の小坂哲久氏は、社員であると同時に、よしもとゲーミング所属のゲーマー「RAIN」としての顔も持つ。以前からプレーヤーとして活動しながら大会などの運営にも携わっていた縁で、「ゲーマー兼社員」として入社した。小坂氏は一プレーヤー目線でも、吉本興業ならではの「芸人とのコラボレーション」のメリットを感じていると語る。

 「プレーヤーには、ゲームは強くても、人前で話したりゲームの魅力を伝えたりすることは得意でない人もいます。イベントなどでそこを得意とする芸人さんを起用しやすいのはわれわれにとってもありがたかったですね」(小坂氏)

 一方、eスポーツ事業で培った知見が既存事業に生きた場面もある。

 「eスポーツの大会やイベントは、ずいぶん前からオンラインでも開催されていました。ですからコロナ禍、芸人やタレントのイベントが全てオンライン開催となった時、eスポーツ事業運営チームが持つノウハウのおかげで、比較的スムーズに対応できました」(野間氏)

 魅力的なeスポーツ市場をつくるためには、同じく魅力的なチームづくりが必要だ。競技面の強さだけに頼らないチームとしての魅力やコンテンツ力、既存事業とのシナジーなど、経済性とエンタメ性を両立する戦略が求められる。