文=小林千華(雑誌『経済界』2025年4月号「『ゲーム』を超えるeスポーツ」特集より)
「ぷよぷよ」もeスポーツにゲームを通した教育も届ける
eスポーツの人気タイトルの中には、「大乱闘スマッシュブラザーズ」(任天堂)、「ストリートファイター」シリーズ(カプコン)をはじめ、日本のゲームメーカーが手掛けるものもある。海外でも大規模で高額賞金の大会が多く開催され、「ストリートファイター6」は昨年の「eスポーツワールドカップ」種目にも採用された。
一方、日本eスポーツ連合の早川英樹会長は、「eスポーツを通した共生社会への取り組みも日本は目指していくべき」と話している。実際に日本のゲームメーカーの取り組みを見ると、興行の規模を大きくして盛り上げる以外にも、プレーヤーの裾野を広げる方法があることが分かる。その事例のひとつが、家庭用ゲーム、スマホゲームなどを数多く手掛けるセガのeスポーツ事業だ。
同社は2018年、アクションパズルゲーム「ぷよぷよ」のeスポーツタイトル版「ぷよぷよeスポーツ」を発売した。ぷよぷよシリーズプロデューサーの細山田水紀氏によると、同社は「ぷよぷよeスポーツ」というゲームタイトルを、主にeスポーツ軸、エデュテイメント(教育×娯楽)軸の2つの方向性で展開する。
eスポーツ軸での展開が始まったのは19年。茨城国体の文化プログラムとして全国都道府県対抗eスポーツ選手権が開催され、競技タイトルに「ぷよぷよeスポーツ」が採用された。当時セガHD社長・JeSU初代会長だった岡村秀樹氏の後押しもあってのことだった。
「ぷよぷよの全国大会はそれまでにもありましたが、全都道府県でやるのは難しかったところ、国やJeSUの旗振りがあって実現できました。単にソフトを売るための宣伝費だけではできない規模の大会でしたが、ここからeスポーツ競技としての展開が始まりました」(細山田氏)
現在は、プレーヤーのレベルをルーキー、アマチュア、プロの3段階に分け、それぞれの大会運営も行う。ぷよぷよには性的・暴力的な表現がなく、誰でも遊びやすいことから、ルーキー、アマチュアの大会には幼い子どもや親子の参加も多い。「ぷよぷよeスポーツ」のソフトも50万本以上売り上げている。
eスポーツ推進室長の五十嵐勝氏によれば、24年度にぷよぷよが採用された許諾大会は1800件ほど。近年は、海外からも参加可能な公式国際大会も開催している。
一方エデュテイメント軸では、プログラミング教材などの提供、学校やイベントでのプログラミング講座の企画・運営、高校eスポーツ部の活動支援などを行う。
特に、20年にリリースしたプログラミング教材「ぷよぷよプログラミング」が、ぷよぷよを通じたエデュテイメントの活路を開いた。近年小・中・高でのプログラミング授業が必修化され、データサイエンスを学ぶ学校も増えている。「実際のゲームを作り出す教材や、プロのeスポーツプレーヤーによる『ぷよぷよプログラミング』講座によって、楽しい学びを提供できている」と五十嵐氏は語る。
eスポーツ展開で得た知見が開発のヒントに
年齢、性別、障害の有無などに関係なく楽しめるのがeスポーツ。「ぷよぷよeスポーツ」の展開を通じてセガが目指すのは、サステナブルな社会実現だ。高齢者施設や障害者施設への導入も進み、ゲーム開発の面でも学びがあったという。
「eスポーツとして展開するようになってから、プレーヤーの属性がぐっと広がりました。それによってわれわれも幅広いニーズに気付くことができ、色覚多様性への対応、ゲームスピードの調整機能搭載などの対応も一気に進んだんです」(細山田氏)
eスポーツ事業の推進が、ゲームメーカーとしての格を上げた好事例だろう。より多くの人がeスポーツの良さを知るきっかけを日本ならではの形でつくることも、ゲーム大国としての使命だ。