ゲストは、神仏等の日本文化を広めつつ人や企業をつなぐ「神社仏閣オンライン」を運営する河村英昌さん。現在は他に、会社員として働く傍ら、1260年創建の京都伏見・大光寺の副住職も務めます。河村さんはこれら事業を通じて、「寺社が地域を盛り上げる存在になれれば」と話します。聞き手&似顔絵=佐藤有美、構成=大澤義幸 photo=森田 裕(雑誌『経済界』2025年4月号より)
河村英昌 神社仏閣オンライン代表取締役、大光寺副住職のプロフィール

かわむら・ひであき 1993年、京都市生まれ。京都大学法学部卒業。浄土宗藤澤山大光寺副住職。2016年にNTTドコモに入社し勤務する傍ら、仏教の情報を発信するブログやYouTube等を立ち上げる。20年「神社仏閣オンライン」を法人化。
副住職、起業家、会社員。三足の草鞋を履いて活動中

佐藤 今日は河村さんが副住職を務める京都伏見の大光寺に来ています。のどかな良いところですね。760年以上の歴史を持つ古刹ですが、住職はお父さまがされているとのことで、若い息子が後継ぎとしてそばにいてくれるのは安心ですね。
河村 ありがとうございます。父は以前、大学で教鞭を執っていたこともありますが、今はお寺一本でやっています。父が健在でいるおかげで、ありがたいことに私は会社に勤めたり、起業したり、やりたいことをやらせてもらっています。
佐藤 会社ではどんな仕事をされているのですか。
河村 NTTドコモに新卒入社し、広報関係のデジタルマーケティングや動画制作を経験しました。今はNTTコミュニケーションズに出向して法人営業をしています。フレックス勤務やリモート勤務の制度があるのでそれを利用し、朝7時に出勤して15時半に仕事を終え、大光寺での仕事をしつつ、「神社仏閣オンライン」の運営をしています。
佐藤 三足の草鞋を履かれていて、スケジュール管理やメンタルセルフケアが大変そうですね。
河村 会社員は働く時間が決まっているので、時間帯によって立場と仕事が変わることさえ整理できていれば両立は難しくはありません。メンタルも安定しています。
佐藤 また起業家としては、学生の頃に「神社仏閣オンライン」の元となるブログなどを立ち上げて運営されてきたそうですね。
河村 はい。実はその前から宗派を超えたお坊さんたちが創るフリーペーパー『フリースタイルな僧侶たち』に参加し、お坊さんが普段縁のない美容室やカフェに冊子を置いてもらうなどして、世に仏教を伝え、関心を持ってもらう取り組みをしていました。その活動を通して、企業から「こんなことを一緒にできないか」とご相談を頂く機会があり、お寺の関係人口である檀家さんも減っていく中、新しい関係性の構築に向け、頂いたお声は拾っていかなければならないと漠然と感じていました。
佐藤 若い頃から精力的な活動をされてきたんですね。
河村 はい。その後コロナ禍となり、お寺が情報発信等をしていく上で、私の動画制作等の知見が役立てばと思い、「神社仏閣オンライン」を始めました。そうして新しい関係が少しずつできていくうちに、再び企業から「こんなことを一緒にやりたい。法人化してくれた方が取引しやすい」という声が増えたので、法人化に踏み切りました。現在は神社仏閣のコラボ商品やイベント企画を立てて、それを企業に卸しています。この事業を通じて、日本文化や神仏に関心を持ってもらい、またお坊さんや神主さんは楽しそうだな、なりたいなと思う人を増やすことも目的としています。
社会といかに協同できるかも。「神社仏閣オンライン」の使命
佐藤 河村さんはご結婚されていて2人目のお子さんが産まれたそうですね。私生活も含めると、四足の草鞋になりそうな多忙さですが、奥さまは応援してくれていますか。
河村 妻は健康にだけ気を付けてくれればいいと言ってくれます。疎かになりがちな家事や育児も、叱咤激励を受けながら分担しています。
佐藤 昔のお坊さんは一人で厳しい修行をして節制生活をしているイメージがありましたが、今は一般的な家庭の生活をされていますよね。
河村 大きなお寺は別ですが、私の世代では他に仕事を持ち、盆暮れなど繁忙期にお寺を手伝うという方が多いですね。古き良き文化ややり方は残しつつ、時代に取り残されないよう守破離を実践していければという気持ちで過ごしています。
佐藤 会社の経営と同じですね。「神社仏閣オンライン」について近々で新しい動きはありますか。
河村 昨年末からうぶごえ(本社・東京都渋谷区、岡田一男代表)と、SOCIAL TEMPLE(本社・山梨県中央市、近藤玄純代表)と、弊社の3社共同で、寺社に特化したクラウドファンディング「現代の寺社勧進プロジェクト」を始めています。寺社の運営・発展に向けてPRやイベント企画・運営等をサポートします。一つのプロジェクトに対してクラファンをかけ、寄付ではない形で寺社の収入につながる新しい手段とできればと考えています。
佐藤 奇麗事ばかりでは寺社は存続できませんしね。河村さんが今後やりたいことや将来の目標は。
河村 まず今年中に「神社仏閣オンライン」のYouTubeチャンネル登録数1万人超えを目指します。2つ目に、個人で始めた事業ですが、創業から5年経ちさらなる事業拡大に向けて仕組み化を進め、併せて採用も行いながら仕事を任せていきたいですね。3つ目に、お坊さんや神主さんと気軽に話したり、勉強ができるオンラインサロンをつくる。最後に、大光寺で昨年11月9日を「いい耳の日」と定めて「耳祭」を催しましたが、こうした地域と共に行うイベントの仕込みをしていきます。寺社が地域を盛り上げるヒーロー的存在として認知される社会になればいいですね。
佐藤 日本には古来、神仏習合の考え方もあります。皆で協力し合って地域を盛り上げていきたいですね。
河村 そうですね。「神社仏閣オンライン」はそうした壁や垣根を超え、社会といかに協同できるかもミッションだと思っています。
