経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

高齢者配食&見守りで社会貢献 健康食で「医療費削減」を目指す 髙橋 洋 シニアライフクリエイト

シニアライフ髙橋氏

高齢者向け配食サービスを通じて健康寿命の延伸を目指すシニアライフクリエイト。手渡しが原則の「宅配クック123」は配食とともに独居高齢者の「見守り」という重要な役目を担う。髙橋代表は「医療費削減にも貢献できる」として超高齢化社会の課題に挑む。(雑誌『経済界』2025年5月号「注目企業」特集より)

シニアライフクリエイト 代表取締役 たかはし ひろし 髙橋 洋
シニアライフクリエイト 代表取締役 たかはし ひろし 髙橋 洋

デイも介護保険もない時代に「食」で介護や病気を防ぐ

髙橋代表がシニアライフクリエイトを立ち上げたのは1999年。まだ介護保険の施行前でデイサービス等もない時代に、当時手伝っていた弁当店が病院を退院した高齢者への配食を手掛けていたのがきっかけだ。後にその店を承継したが、手間のかかる高齢者向けの調理は課題だった。

「ご高齢者は揚げ物ばかりだと残しがちですので、根菜料理などが中心となりますが、5種類の総菜を作るのに一つの鍋を1人が担当する5人がかりの調理だと、年金受給額のみで生計を立てているご高齢者に安価で提供できません。工場に頼んでも『製造数量が少ない』と断られたので、『ならばフランチャイズ展開しよう』とこの事業を始めました」

2000年前後はまだ高齢者向け専門の宅配弁当が珍しかった時代で、仕出し屋が個別の要望に応じていた程度。手を挙げるフランチャイズオーナーは順調に増え、2~3年間で約100店舗まで拡大した。

「通常の小売店は営業初日の売り上げが一番高いものですが、配食事業は開店初日が一番低い。お客さまは病院や地域の民生委員、ケアマネージャーからの紹介で地道に増やしていきます。地域の方からは『この地域での出店を待っていた』と喜ばれることもあります」

調理は高齢者でも食べやすいよう肉を一口サイズにしたり、パサパサしている卯の花は豆乳を加えてしっとりさせるなど工夫を凝らしている。近年は「幸(しあわせ)たんぱく食」を開発。食べ残さない量で20g以上のたんぱく質を摂取することで、後期高齢者の健康寿命延伸に取り組んでいる。山田実・筑波大学教授監修の下で行った調査では、「幸たんぱく食」を摂取した高齢者は摂取しない高齢者と比較して身体機能の低下が鈍化する傾向が見られた。

「医食同源と言われるように、食べることで治せなくても介護や病気の重度化を防ぐことは可能です。喫食者と非喫食者のデータエビデンスがもっと集まれば、高齢者配食サービスへの支援も夢ではありません。仮に持病を悪化させ医療費や介護費用に年間数百万円かかるとして、それを栄養価の高いお弁当の定期的な喫食で防ぐことができれば、社会保障費の削減につながります。高齢者は家計に苦しむ人も少なくないので、生活エネルギー費や食材費が高騰する中、国や地方自治体の予防施策で費用を気にせず健康的なお弁当を喫食できることが望ましいです」

配達時には見守りも欠かさない。フランチャイズの従業員研修では、認知症に対する受け答えや利用者が倒れていた場合などの対応を学ぶ。

「例えば配達したはずのお客さまに『届いてない』と言われれば『今からすぐに届けます』と伝えるのが基本で、認知症のお客さまを否定しないことが大切です。お客さまの容態が危険であれば家族、ケアマネージャー、警察など状況に応じた一次、二次、三次の対応をレクチャーしています。これらは全て無料のサービスとして提供しています」

離島や過疎地の出店にも注力。自治体との連携で黒字化を

徳島県と地方創生の実現に向けた連携協定を締結(左:後藤田正純・徳島県知事、右:髙橋代表)
徳島県と地方創生の実現に向けた連携協定を締結(左:後藤田正純・徳島県知事、右:髙橋代表)

配食のほか、高齢者施設向け食材供給サービスの「特助くん」や高齢者コミュニティサロン「昭和浪漫倶楽部」の運営など、高齢者向け関連事業を幅広く手掛ける。

「厨房施設のないデイサービスや、調理に人材を投入できない施設では、調理済み食材卸サービスが求められます。また、配食サービスだけでは自宅に引きこもりがちの『孤食』となってしまいます。元気で健康的に過ごしてもらうためには運動、栄養、社会参加などのバランスが重要で、その一環として昭和浪漫倶楽部を始めています。現在は当社管理栄養士による栄養講話などを行っています」

「宅配クック123」のフランチャイズは現在、全国に約360店舗。北は礼文島から南は宮古島まで月間310万食超を高齢者に届けている。離島や山間部など、非効率性により大手企業の手が届きにくい過疎地域への出店にも力を注いでいる。

「フランチャイズオーナーは地元の法人や家族経営、薬局など多種多様です。医療機関が運営すれば地元住民の健康状態を把握することにも役立ちます。必ずしも収益性が高い事業ではありませんが、社会貢献意識の高いオーナーも多く、中には都市部のオーナーがその収益を活用し、離島や山間部の限界集落に出店することも。能登半島地震の被災者のため、七尾市から珠洲市まで配達をしながら往復約300㎞も走行しているオーナーもいるほどです。こうした過疎地は配食数が少ないので、早期の黒字化は難しいのですが、小豆島や高知県の土佐清水市に直営店を出店し、地元自治体や医療機関と包括連携協定を結んでサービスをパッケージ化した運営を進めています」

髙橋代表の願いは「生まれた場所で、最後まで元気に過ごしてもらいたい」。将来、高齢者配食が保険適用される日が来るかもしれない。 

会社概要
設立 1999年12月
資本金 5,000万円
売上高 140億3,000万円(2024年2月期)
本社 東京都港区
従業員数 110人
事業内容 高齢者専門宅配弁当サービス、高齢者施設向け食材卸、高齢者向けコミュニティサロンの運営
https://slc-123.co.jp/