経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

次世代駐車場はキャッシュレス 頭角現す新・プラットフォーマー 舩本俊隆 プラグテック

プラグテック 代表取締役CEO ふなもと としたか 舩本俊隆

「駐車場で駐車券や精算機を利用するのは当たり前」ではなくなるかもしれない。車のナンバーをカメラで読み取り、決済情報と紐づければ煩雑な手間は一切なくなる。スタートアップのプラグテックは次世代駐車場の新たなプラットフォーマーとして頭角を現す。(雑誌『経済界』2025年5月号「注目企業」特集より)

プラグテック 代表取締役CEO ふなもと としたか 舩本俊隆
プラグテック 代表取締役CEO ふなもと としたか 舩本俊隆

車のナンバーとカード情報を紐づけて各地で実証実験

グーグル出身の舩本代表が有志と共にプラグテックを立ち上げたのは2022年。プラットフォーム構築やマーケティングに長年携わり、大手商社と共に北欧の駐車場事業に関わったことも。コロナ禍で事業は中断したものの、国内駐車場のアナログな手続きに不便を感じていた。

「私が利用する都心のテニス場の駐車場は現金決済のみでしたが、普段は現金を持ち歩かないのでコンビニのATMに駆け込むこともありました。駐車券の確認など駐車場ビジネスはDX化が遅れている分野であることは間違いありません」

プラットフォームビジネスを得意とする舩本代表はグーグルから独立。昨年は三井不動産やゆうちょ銀行、三井住友銀行グループなどのベンチャーキャピタルの出資を受けて、次世代ソフトウェア型駐車場サービスの「Lott」(ロット)の開発を加速させている。仕組みは至ってシンプルなもの。AIを搭載したカメラで車の入出庫を管理。ナンバープレートを読み取り、クラウドベースでクレジットカードなどの決済情報と紐づけて支払いを行う。

完全に実現すれば精算機や輪止めのフラップ板などの初期投資や現金の集金も不要になるほか、出入口渋滞の解消、さらには不正利用の防止にも役立つ。

「イメージは高速道路のETCサービスの駐車場版です。ナンバーを読み取るので専用クレジットカードを用意したり、カードを専用読み取り機に差し込む必要もありません。事業者側、利用者側の双方に大きなメリットがあります」

プラグテックではソフトウェアだけではなく、カメラや専用精算機などハードウェアの企画・設計・開発も行っている。精算機不要の駐車場の仕組みを提供することは可能でも、いきなり全ての利用者に受け入れてもらうことは難しい。

「事業成長の方向性は確実ですが根強い現金主義の日本にあっては『現金取扱不可』の完全キャッシュレス駐車場にすれば、売り上げが低下してしまいます。特に地方やシニア世代はまだ現金主義です。そこでクレジットカードと紐づけた決済管理はあくまでオプションとして用意し、支払い方法が選べる仕組みを計画しています。ドライバーは必ずしも車の所有者とは限りませんし、レンタカーやカーシェアリングなどもあります。そうした場合にも対応するためさまざまな利用方法を提供できることが大切です」

昨年からは千葉や福岡など各地で「Lott」の実証実験を始めた。千葉では三井不動産リアルティが運営する「三井のリパーク」で、福岡ではJR九州レンタカー&パーキングが運営する「JQパークス」で実運用を通して、さまざまな改善を加えている。いずれも駅近くにある数十台規模の駐車場で、学習データを蓄積して認識精度を高める。

「昨年の実証実験の車室数は100台を超えました。利用者の声としてはクレジットカードと紐づけて便利になったという方もいれば、ゲートの場所に精算機を置いていないので、出庫に戸惑われる方も少なからずいます。過渡期には必ず発生するユーザー行動ですが、慣れてもらえるようになるまで、しっかりとしたフォローが必要だと感じています」

レンタカーやカーシェアでインバウンドの利用増に期待

舩本代表が期待を寄せているのが訪日客による利用だ。インバウンドが過去最高を記録する中、レンタカー利用による移動も増えており、精算機を使わない駐車場決済は需要拡大が見込まれている。

「先日、栃木・日光を訪れたのですが、訪日客ばかりで、しかも彼らはレンタカーの『わナンバー』を運転して移動しています。こうしたレンタカーサービスやカーシェアリングサービスと『Lott』を連携させておけば、ゆくゆくはレンタカー、カーシェア利用料金と移動時の駐車場利用料金をセットにして請求することも可能になり、利便性が高まります」

今年1月には東京・六本木でプラグテック、エコロシティ、ミネベアミツミ、Hakobune、サイプレイスの5社共同プロジェクトとして環境に配慮した持続可能な都市の実現に向けた次世代パーキング「EcoloPark+」(エコロパークプラス)の実証実験をスタートした。

全国約4800拠点もの「エコロパーク」を運営するエコロシティが主導する次世代パーキングで、プラグテックの完全キャッシュレス、ミネベアミツミの駐車場機器、HakobuneのEVカーシェア、サイプレイスのデジタルサイネージなど各社のサービスを融合させた。

「これまで追い付いていなかったハードウェアの量産体制も来年 には整う予定で、これからは実証実験を繰り返してソフトウェアの完成度を高めつつ、『Lott』の導入駐車場を増やしていきます。駐車場は国内500万台超とも言われており、われわれの目標は30年に50万台超の規模にすると同時に上場を果たすことです。自動運転開発やライドシェアも広がっていく中で、その受け皿となる駐車場のあり方、ビッグデータ活用やポイント連携などに大きな可能性を感じています」

精算機、駐車券、輪止め、ゲートがなく、「停めるだけ」で一切の手続きが完了する「未来の駐車場」の実現は、もうそこまで近付いてきている。 

会社概要
設立 2022年8月
本社 東京都千代田区
従業員数 10人
事業内容 駐車場プラットフォームサービス
https://pragtech.jp/