埼玉大学のベンチャー企業第1号として誕生した社会調査研究センター(SSRC)。世論調査や選挙調査の設計から実施、集計、解析まで行っており、研究者としての研究実績と調査ノウハウが生かされている。埼玉大学名誉教授も務める松本正生社長に話を聞いた。(雑誌『経済界』2025年5月号「注目企業」特集より)

「大学に世論調査の拠点を」研究者の夢が形になった
世論調査や社会調査を手掛ける社会調査研究センター。大手メディアを中心としたクライアントの要請を受けて世論調査を毎月実施しているほか、選挙の際は情勢調査も行う。衆議院選挙であれば小選挙区ごとに調査を行うが、競うように選挙予測を発信する全国紙やテレビ局キー局から個別に委託を受けることになる。そのため2024年10月の衆議院選挙の際は、全国289選挙区を対象に24万~25万人規模の調査を6回も実施したほどだ。
なぜこれほど大規模かつ精度の高い調査を実施できるのか、その成り立ちを知れば納得できるはずだ。
同社は埼玉大学発のベンチャー企業第1号として20年に誕生し、同大学構内に本社を置いている。社長の松本氏は同大学名誉教授を務める研究者で、それが同社の強みの源泉となっている。政治学を専門とする松本氏は有権者の政治意識や投票行動について長年研究しており、そこで欠かせないのが調査だ。
「米国では大統領選挙の際、州単位で調査が行われ、その拠点となる大学が州ごとにあります。しかし、日本では自前で調査を行う大学がありませんでした。私は埼玉大学経済学部の教授だった頃からメディアと共同で調査を行っており、『自前で精度の高い調査を実施し、社会に情報を発信する大学があってもいいのではないか』と考えたのです」
社会の要請から生まれた埼玉大学発ベンチャー
10年、松本氏の研究業績や調査実績を元に埼玉大学社会調査研究センターが発足。その後、松本氏の退官に当たり、メディアから「埼玉大学社会調査研究センターを母体に、世論調査を行う会社をつくってほしい」という要望が寄せられた。
「かつてはメディアが自前で世論調査を行っていました。その後、世論調査は面接調査から電話調査へ変化しましたが、オペレーションセンターやオペレーターを自前で保有することはできないので、外部委託するようになりました。しかし今は固定電話が減り、知らない番号からの電話は出ないお宅がほとんど。それは携帯電話も同じです」
大学発ベンチャーとして社会調査研究センターが誕生したのは20年。固定電話と携帯電話が有力な調査ツールでなくなる中、NTTドコモと共同でスマートフォンを使った最先端調査ツール「d‐SURVEY」を開発。これはNTTドコモのdポイントクラブ会員を対象に調査を行うものだ。同クラブにはドコモユーザー以外の会員もおり、その数は7千万人強に上る。
「d‐SURVEYを使った調査の設計は独自に行っています。『いつ・どのタイミングで・誰を対象に・何人に・どんな設問を・配信するか』という設計が一番重要で、われわれのノウハウが生きる部分です」
例えば、衆議院選挙では都道府県ごとに有権者数は異なるが、質問表(調査票)を大量配信するだけでは回答者の地域や年代が偏ってしまう。それを防ぐために各都道府県の人口構成に応じて質問表を送る必要がある。回答者が国全体や該当地域の縮図になるよう、調査を設計するのだ。
「dポイントクラブ会員は1人につき1アカウントですから、ランダムサンプリングが可能です。しかも7千万人と母集団が大きく、その地域の縮図となる調査ができます」
信頼度の高い世論調査は人や世界をつなぐ公共財

d‐SURVEYを使った調査としては、毎月実施する世論調査のほか選挙の際の情勢調査などがある。
「世論調査は社会の公共財です。フェイクニュースが増えた今、有権者の意識や態度に関する客観的な情報を確保する必要があります。それには二つの要件が必要です。信用に値する調査方法であることと、『ここの調査なら』と回答してもらえるような安心できるパートナーと組んで調査を行うことです。今はオールドメディアしか見ない人の世界、SNSしか信じない人の世界が存在するパラレルワールドのような時代。だからこそ、客観的な調査結果と情報を提供することで、二つの世界をつなぐことができるかもしれないと考えています」
世論調査を通じて社会に貢献する社会調査研究センター。4月に基金(SSRC起業奨学金)を立ち上げ、埼玉大学の学生・大学院生による起業や特許取得を支援するなど、収益の社会還元にも取り組んでいる。
「今は設立時の想定よりも多くの大手メディアから委託を受け、選挙の時はお断りせざるを得ないほど受注があります。世論調査や選挙調査は社会的責任を負っていますから、調査の精度を保ち事業を継続していかなければと思っています」
d‐SURVEYは世論調査や選挙調査に限らず、マーケティングでの活用にも期待がかかる。企業側からも、社会全体の動向を把握したいというニーズが高まっている。
「弊社は今、ファーストステージを終え、次のステージを模索しています。世論調査や社会調査だけでなく、企業のマーケティング調査などにも携わってみたい。『こんな調査はできますか?』とご相談いただくことで見えてくるものもあるはず。さまざまなクライアント様と一緒に調査を実施できたらいいですね」
確かな研究実績を土台にした精度の高い調査方法。その真価は、情報が溢れるこの時代にますます発揮されていくことだろう。
会社概要 英語社名 Social Survey Research Center(SSRC) 設立 2020年4月 本社 埼玉県さいたま市桜区 事業内容 世論調査や選挙調査の設計、実施、集計、解析 https://ssrc.jp/ |