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時代に合わせたビジネスの成果がSHIBUYA TSUTAYAの成功 髙橋誉則 カルチュア・コンビニエンス・クラブ

髙橋誉則 カルチュア・コンビニエンス・クラブ

2024年5月、SHIBUYA TSUTAYAリニューアルに成功したカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。音楽メディアおよび流通がこの10年で大きく変わる中、音楽小売からエンターテインメントを主軸に置く新たなビジネスモデルにシフトしている。創業40周年を迎えた今年、新時代への進化を加速させる。聞き手=武井保之 Photo=逢坂 聡(雑誌『経済界』2025年6月号より)

髙橋誉則 カルチュア・コンビニエンス・クラブのプロフィール

髙橋誉則 カルチュア・コンビニエンス・クラブ
髙橋誉則 カルチュア・コンビニエンス・クラブ社長兼CEO
たかはし・やすのり 1973年生まれ、東京都出身。97年大東文化大学経済学部卒業後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)入社。FC事業本部人事リーダーを経て、2006年に社内起業したCCCキャスティング社長に就任。CCC執行役員、TSUTAYA常務取締役などを歴任。18年より3年間の休職を経て、21年CCCグループに復帰。オープンデータ活用の事業会社Catalyst・Data・Partnersを設立し社長に就任。22年4月CCC副社長兼COO、22年10月CCCMKホールディングス社長兼CEO(現任)、23年4月CCC社長兼CEOに就任。

パッケージビジネスが縮小空間&体験価値に着目

カルチュア・コンビニエンス・クラブ
カルチュア・コンビニエンス・クラブ

―― 音楽流通がパッケージ(CD、DVD、ブルーレイなど)からデジタルへ大きく移り変わってきたこの10数年の取り組みを教えてください。

髙橋 そもそもCCCのフランチャイズビジネスのモデルは、販売もしくはレンタルで、音楽や映画などエンターテインメントパッケージを多くのお客さまに届けてきました。しかし、時代の趨勢の中で、スマートフォンの普及によってダウンロードやストリーミングといったデジタル流通が爆発的に進み、ビジネスモデルの転換を迫られました。

 パッケージビジネスがシュリンクしていく中で取り組んだことのひとつが、書店のイノベーションです。2003年には、スターバックスと書店がシームレスにつながる日本初のブック&カフェ、TSUTAYA T

OKYO ROPPONGI(現・六本木 蔦屋書店)をオープンしました。

 そして、一般的な書店とは異なる、空間&体験価値に着目した書店作りを15年ほど前から進めてきました。それが代官山 蔦屋書店です。

 お客さまの居心地の良さを追求する新しい書店の形を、ビジネスサイドのプロダクトアウトとして開発しています。

―― 新たな業態へシフトしていく中でのポリシーや、目指す会社の姿を教えてください。

髙橋 グループ全体として創業以来変わっていないのは、世界一の企画会社を目指すビジョンです。それはビジネスモデルもあれば、プラットフォーム上の企画もあります。それを掘り下げると、パッケージ販売やレンタルのTSUTAYAは、企画作品のひとつの位置付けになります。その販売形態にバリューがあるのではなく、それぞれの作品の世界観や価値観を時代に合わせていかにお客さまに提供していくかを、ビジネスの根源にしています。

 現在は販売やレンタルの事業からはシフトしています。われわれが目指すのは、ライフスタイルの提案です。その手段としてエンターテインメント商材があり、そのビジネスモデルは時代とともに変遷しています。

―― かつて日本最大の音楽小売店舗だったSHIBUYA TSUTAYAの24年ぶりのリニューアルは、取り組んできた業態シフトの象徴のように感じます。

髙橋 SHIBUYA TSUTAYAは、それまでのモノを売るビジネスから、そこにある体験価値をお客さまに最大限提供する形態へ振り切りました。渋谷スクランブル交差点の目の前のシンボリックな場所でCCCが新たに何をやるかは3年間議論をしてきました。その結果、「好きなもので、世界をつくれ。」をテーマに、たくさんの愛を背負ったカルチャーやIPが集まり、その愛を知る人たちが人種や国境、性別、世代を超えて出会う新しい文化の名所=聖地になることを掲げました。

 さまざまな体験価値を作っていくことで、期待以上の成果が生まれています。昨年5月のリニューアルオープンからまだ1年たちませんが、日ごとの来館者数はリニューアル前の2倍以上に増え、売り上げも非常に好調に推移しています。

 われわれがずっと寄り添って大事にしてきたIPやコンテンツを軸に、体験価値を提供する。それは、これまでのビジネスの方向性からまったくブレていません。

成功事例のエッセンスをいろいろな形にアレンジ

―― SHIBUYA TSUTAYAで実績を作った空間と体験のビジネスは、この先のCCCの柱になっていくのでしょうか。

髙橋 このフォーマットをそのままひとつのビジネスモデルにしようとは、まったく考えていません。これは渋谷固有のスタイルです。どこで何をやるかは、それぞれの立地の特性やロケーションの課題にもよります。ただ、成功事例としてのコンセプトやアイデアやエッセンスは、いろいろな形にアレンジして進めていくことはあるでしょう。

 たとえば、大阪・道頓堀のTSUTAYA EBISUBASHIは、国内外で人気のエンターテインメントIPが集結するIP書店として、大阪仕様にカスタマイズして展開しています。全国の蔦屋書店やTSUTAYAでも、そういった空間価値を作るなかで、イベント体験も含めた成功事例の部分的な切り出しは行っていきます。

―― その新たなビジネスのノウハウは、すでに構築されているのでしょうか。

髙橋 確かにSHIBUYA TSUTAYAのリニューアルから得られたこともありますが、その成功の背景には、われわれが過去にやってきたビジネスのいろいろなエッセンスをその時代ごとに合わせて、複合的に適応させてきたことが根底にあります。あるひとつのバリューを掛け算したり、組み合わせたりして、新しい形として具現化している。それらのエッセンスは、SHIBUYA TSUTAYAにも注入されていますが、そこがすべてではない。次に生み出すビジネスモデルの部分的なコアになっていきます。

新たなビジネスと連携させるデータベースマーケティング

カルチュア・コンビニエンス・クラブ
カルチュア・コンビニエンス・クラブ

―― CCCの新たな業態へのシフトは今何割くらいの進捗でしょうか。

髙橋 スタートダッシュを切っているという意味では3〜4割でしょうか。ただ、新たなビジネスをスタートさせ、新しい市場を生み出すという観点では、まだまだ道半ばです。そこを短期間で駆け抜けたいですね。

 それと、グループ全体としては、データベースマーケティングが大きな要素として加わります。コアコンピタンスにVポイントがあり、空間&体験価値のビジネスを作っていくのと同時に、そのイノベーションを進めていかないといけない。このふたつをシームレスにつなげてビジネスにしている企業は多くない。その連動性を、グループの関係性を含めて意識し、ビジネス設定を進めているところです。

―― 創業時代から変わらないことと変わったことを教えてください。

髙橋 ライフスタイルを提案していくのが、われわれのビジネスコアです。それはこれまでもこれからも変わりません。一方、変化があるとすれば、時代の流れの中で組織の形は変わりますし、社員も入れ替わっていきます。そこから生み出す企画の在り方は変容していると思います。

 ただ、新陳代謝を繰り返していかないと組織はいずれダメになってしまう。そのひとつがパートナーシップ戦略です。SMBCグループとの決済基盤を含めたポイントマーケティング事業や、紀伊國屋書店や日販との出版流通における合弁企業など、必要に応じて組織形態を変容させています。

―― コロナ禍以降、新たな事業を拡大させていますが、現在の課題は。

髙橋 CCCグループでビジネスをしていく従業員は、もっとやんちゃでいい(笑)。企画会社なので、世の中にないものを企画して、既定路線とは一線を画する、人が理解できないようなことを社会に生み出していかないといけない。組織の枠にはまらないことにもっとチャレンジしてほしい。私が手綱を引かないといけないくらいが理想ですね(笑)。世の中に価値を出す力のある人が、たまたまCCCグループにいる。そんな集団にしていきたいです。

チャレンジを繰り返していく、べらぼうな40周年にしたい

―― 髙橋社長は休職されて3年間会社から離れ、復帰されてから社長に上り詰めています。仕事観をお聞きできますか。

髙橋 私は若い頃からワーカホリックで、没頭すると仕事にしか時間も頭も使わなくなってしまうんです。正直に言うと、生き方のバランスが悪かった。その中で、家庭の事情もあり、こんな生き方はよくないとパッと思いついて、パッと辞めたんです。1回振り切らないと、ズルズルと何も変わらない。思い切って家庭に入る決断をしました。

 人それぞれの仕事と生活の環境があります。大事なのは、100かゼロかではないということ。何かを得るためには、何かを捨てないといけない場面もある。私は大谷翔平選手のように、自分の目標をマンダラチャートにして、価値基準と優先順位を定めて、毎年更新しています。迷ったときには、そこに戻って決断しています。振り返れば、その3年間があったからこそ、今の自分があると思います

―― 今年は創業40周年の節目の年ですが、昨年からのSHIBUYA TSUTAYAの好業績のほか、NHK大河ドラマ『べらぼう』ではTSUTAYAの由来になった蔦屋重三郎が主人公になるなど、追い風が吹いています。

髙橋 べらぼうな年にしたいですね(笑)。チャレンジを繰り返して、新しいものをどんどん生み出していく。40周年だからこそ、置きにいくのではなく攻めの1年にしたいです。