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世界と戦う覚悟と人材教育投資 鳥取発IT企業が開拓する未来 坂本 哲 アクシスITパートナーズ

アクシスITパートナーズ 坂本 哲

鳥取県に本社を置くアクシスITパートナーズ。安定した経営基盤と豊富な教育リソースを持ち、山陰地方のIT企業として初めて上場を果たし、全国から注目を浴びている。鍵となるのは、世界で戦う覚悟と人材への教育投資。地方企業躍進の光明がここにある。(雑誌『経済界』2025年9月号より)

坂本 哲 アクシスITパートナーズのプロフィール

アクシスITパートナーズ 坂本 哲
アクシスITパートナーズ 代表取締役CEO 坂本 哲 さかもと さとる

東京一極集中のIT企業 地方から一石を投じる

「場所なんか関係ない。地方にいても、世界と戦える企業は育てていける」

今から9年前、ある動画チャンネルのインタビューに、アクシスITパートナーズ代表の坂本氏は出演した。インタビュアーからの「なぜ地方で?」という問いに対し、眼光鋭く強い思いを訴えた同氏。2013年9月、坂本氏は首都圏から鳥取県に移住し、アクシスITパートナーズの前身である株式会社アクシスの代表に就任。先代から会社を託された際、「世界で戦える200人規模のITシステム企業を目指す」と心に決め、事業に取り組んできた。現在、社員数は当時の約3・6倍となり、売上高は5倍以上の34億円を見据える。今でも創業時の思いは変わっていない。

「『地方企業だから東京にはかなわない』という方がいますが、そんなことはない。世界を見れば、ローカルから名を上げた企業は数多くあります。東京だからすごい、という漠然としたイメージで尻込みをしていては戦いには勝てません。本当に東京へ行ったのか、勝負をしたのか。本気で狙いに行く姿勢が大事です」

IT企業の多くは都心に一極集中しており、地方に拠点を構える企業は多くない。あってもメーカーの代理店や、地元の行政案件や中小企業へのソリューション販売が中心という企業がほとんどで、首都圏を相手に戦えるIT企業はわずかしかない。そんな中、同社は激戦区の第一線で戦い続けてきた。

「弊社の事業領域は『建築』『脱炭素』『企業・自治体』の3つ。それぞれの領域において、DXのパートナーとして『次世代スマートシティ』の実現を目指しています。顧客の9割以上が首都圏の企業ですから、求められる仕事はとてもハイレベル。そうした環境のため、地方企業ながら都心の企業に引けを取らない技術や人材が揃っています」

全国から若者が集うように反対の中で進めた人材投資

同社はいかにして東京、ひいては世界と肩を並べる企業に成長してきたのか。坂本氏はこれまでの取り組みを次のように振り返る。

「弊社の新入社員は約6割が情報系以外の学部出身者のため、教育・研修専門の部署を設置し、新人教育に力を入れてきました。『鳥取ITアカデミー』という学校のような環境を社内に設けたんです。研修の流れとしては、入社して半年ほどでITの基礎を学び、次の半年で現場へ出てOJT研修を行う。これにより入社1年後にはエンジニアとして成長し、本配属できるという形です」

教育・研修の導入に当たっては、周りはもちろん先代からも強い反発があったそうだ。しかし、坂本氏は未来の成長に向け、人材への投資は欠かせないとの思いで断行した。

「当時は2千万円超の人材への教育投資をできる財政状況ではありませんでした。しかし、私は先代と『世界で戦える200人規模のITシステム企業を育てる』と約束したのです。教育環境を整え、優秀な人材を増やし、売り上げを上げる。そのために投資は不可欠でした」

この坂本氏の英断は、結果としてIT技術者を目指す若者が全国から集まる成果を生んだ。

高い意欲を持つ優秀な若者が同社に集まるのには、もう一つ大きな理由がある。それが仕事環境の良さだ。

「弊社ではBPO事業にも取り組んでおり、東京の顧客企業に社員が常駐してプロジェクトを進めています。そこで関係強化からのアップセルやクロスセル展開が生まれるだけでなく、最先端の仕事に触れる機会を社員に提供することになります。地方からIT人材が流出する要因の一つとして、キャリア形成の悩みがありますが、弊社では東京の企業と同様の仕事環境を用意することで、その課題を乗り越えてきました」

充実した教育・研修システムと、地方にいながら最先端の仕事に触れる環境。世界で戦える人材が集まる同社の背景には、坂本氏の目指すビジョンと覚悟があった。

人・地域・社会の未来を情熱で変えていく

東京、そして世界と戦える企業を育てるため。坂本氏の話から見えてきたのは、世界で戦う覚悟と人材への教育投資だ。IT企業が都心に一極集中する現状を変えるべく、地方企業に対してメッセージを送る。

「正直、先方からすれば弊社が地方企業かどうかはどうでもいいんです。現場に来て求める仕事をしてくれればそれでいいんですよ。千葉や横浜の企業は良くて、鳥取の企業は駄目なんてことはありません。お客さまに満足いただけるクオリティの仕事ができていれば、地方企業も引け目を感じることはないんです」

その言葉は、同社のこれまでの成長という実績が伴っており、決して絵に描いた餅ではない。

「弊社だけでなく、地方から全国や世界で戦えるIT企業が出てくれば、今の一極集中の構図も変わると思います。それがゆくゆくは地方のITリテラシーの向上につながり、地方創生へと至ればうれしいですね。弊社のミッションにも明記していますが、人・地域・社会の未来を『情熱で変える』べく、今後も成長を続けていきます」

強い覚悟を持って第一線で戦ってきた同社の背中を追い、先人の開拓した道を進む企業が全国から出てくる未来を思うと心が躍る。 

設立●1993年9月
資本金●7億8,118万6,000円 (資本準備金を含む)
売上高●33億円(2024年8月期・連結)
本社●鳥取県鳥取市
従業員数●175人(2025年4月1日時点)
事業内容●DX推進コンサルティング、ビジネス・プロセス・アウトソーシング、システム・インテグレーション、ネットワーク・インテグレーション、エネルギーマネジメントシステムの設計・開発、ネットワーク環境の統合管理の設計・構築、超地域密着型プラットフォームの開発・運用他
https://www.t-axis.co.jp/