経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

地方創生の新しいモデルを全国へ 「食と産業」が軸の地域再生戦略 立花哲也 アクアイグニス

アクアイグニス 代表取締役 立花哲也 たちばな・てつや

癒しと食がテーマの複合温泉リゾート施設「アクアイグニス」。ラテン語の水と火を対置させた名称だ。こだわりの食やアートに触れる大型商業施設「VISON(ヴィソン)」と、独自のコンセプトで地方創生に取り組む立花哲也代表に地域と連携した新しいビジネスモデルについて話を聞いた。

立花哲也 アクアイグニスのプロフィール

アクアイグニス 代表取締役 立花哲也 たちばな・てつや
アクアイグニス 代表取締役 立花哲也 たちばな・てつや

三重の何もなかった場所に年間350万人が集まる 

 三重県菰野町に温泉宿、イチゴハウス、人気パティシエ・料理人のお店を集めた複合温泉リゾート施設「アクアイグニス」がオープンしたのは13年前。パティスリー「モンサンクレール」の辻口博啓氏、イタリアン「アル・ケッチァーノ」の奥田政行氏、和食「賛否両論」の笠原将弘氏という業界のビッグネームの飲食店を擁し、年間100万人を集客することに成功した。

 さらに2021年には三重県多気町に「VISON」をオープン。サンセバスチャンの人気バルを招致し、日本各地の美味が集結。自然が感じられるホテルに宿泊でき、1日では回り切れないほどの大規模施設となっている。こちらの年間の来場者は350万人だ。

 もともと何もなかった場所にこれだけ集客することに成功した秘訣はなんだったのだろうか。

 「地方のショッピングモールは、ナショナルチェーン店が入り、個性がなくなってしまっています。でも地域が変わると味噌も醤油も違う。獲れる農産物も活躍している企業も違う。その地域特有の食材や産業に注目し、東京の人気店と掛け合わせ、地方創生のきっかけになればいいと考えました」

 一方で、インバウンドが少ないことはこれからの課題だ。

 「三重県はインバウンド数が全国で43位です。もともと伊勢神宮があり、国内の観光客で十分だと、海外の観光客にアピールしてこなかったという面もあります。ただ国内の観光客にこれだけ来ていただいているので、コロナ禍も乗り越えられ、インバウンドに頼らない安定した経営ができているとも言えます」

地元企業や自治体と連携し新しいブランディングを展開

大型商業施設「VISON(ヴィソン)」
大型商業施設「VISON(ヴィソン)」

 アクアイグニスは、埼玉県・吉川美南、関西空港、仙台、淡路島にもオープンし、複合温泉リゾートとしてのビジネスモデルを継承している。

 また、昨年11月には福井の酒蔵・黒龍と連携したオーベルジュも開業。広島県廿日市や静岡県小山町での大型プロジェクト、関東圏2カ所、北陸エリア2カ所、九州でも複数箇所で計画が動いている。

 「これからはVISON、アクアイグニス、オーベルジュの大中小3つのモデルを組み合わせながら全国展開していきます」

 各地での展開は必ず地元企業との連携で進めている同社。VISONでは三重発祥のイオンや三重に工場があるロート製薬など約20社が出資。福井では前田建設工業の創業地という縁で連携している。

 「全国展開の条件は、地元行政の協力、地場企業の存在、そして若手でお店を出したい人や料理をしたい人がいることの3つです。前向きな自治体、企業、人材、そして良い立地があれば、どこででもできますが、そういう条件が揃っているところはそれほど多くないのが現実です」

 今後は食以外の地域産業との連携も視野に入れているという。たとえば広島のプロジェクトでは、デザインされた工業製品など「産業が観光になってもいい」と考えている。

 「産業体験施設は各地にありますが、そこだけでできることは限られます。たとえば包丁のミュージアムなら、単体ではなく、食材を切ることからつながる、農園、レストラン、器などと組み合わせることで体験価値を高めていけるはずです」

デジタルとの融合で地域課題を解決

 アクアイグニスやVISONでは、地域課題の解決としてDXにも取り組んでいる。少子高齢化・人口減が進む地方で、これらの施設が観光客だけでなく、地域の人のよりどころになることが目標だ。

 「たとえばVISONのある多気町は人口1万3千人に対し、ドクターが2人しかいません。そこで8万人のドクターがいる、ウェブの遠隔診療クリニックで対応するなど、デジタル田園都市国家構想の取り組みをスタートしています」

 各施設で働く地域の人たちの満足度も大切だ。都会から地方に戻る人材の受け皿としての役割も担いたいという。

 「外から来た人が楽しめるのはもちろん、働く人たちもワクワクしてほしい。給料がいいといった面だけでなく、ここで働くことにプライドを持ってもらい、好きな仕事だと思えるような職場にしたいです。地方でもクリエイティブな才能を持った方がいるので、活躍の場を作ることも重視しています」

 アクアイグニスというブランドでの展開にもこだわりはない。

 「その場所に合ったネーミングとブランディングができるほうがユニーク。これまでのチェーン店とは逆のことをして、地方特有の伝統的なものを残していきたいですね」

 アクアイグニスの戦略は、地方創生の新たな可能性を示している。 

会社概要
設 立:2012年6月
資本金:9,000万円
所在地:三重県三重郡菰野町
従業員:370人
事業内容:温泉リゾート事業、飲食事業、宿泊事業、体験型プログラム、ウェルネスプログラム
HP:https://aquaignis.jp/