経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

名古屋商工会議所の取り組み 中部経済の課題と未来像 嶋尾 正 名古屋商工会議所

嶋尾 正 名古屋商工会議所 会頭

(雑誌『経済界』2025年11月号より)

嶋尾 正 名古屋商工会議所のプロフィール

名古屋は、世界に誇るモノづくり産業の集積地として、長年にわたり日本経済をけん引しています。

足元の経済状況は、企業の積極的な設備投資や円安傾向も相まって緩やかな回復基調が続いていますが、先行きについては国際情勢の複雑化や物価高などにより、不確実性が高まっています。とりわけ、米国の関税措置は、輸出企業の多い当地に多大な影響を及ぼす恐れがあり、今後の動向を注視する必要があります。

また、物価の高騰や人手不足は一段と深刻化しています。中小企業では価格転嫁が十分に進んでおらず、人材を確保・維持するために収益を伴わない「防衛的な賃上げ」を余儀なくされるケースも多く、依然として厳しい経営環境に曝されています。

こうした状況の中で、経済の好循環を創出していくためには、地域経済の屋台骨ともいえる中小企業の「稼ぐ力」の強化が不可欠です。中小企業の適正な価格転嫁やDXなどを活用した生産性の向上、新たな付加価値の創出、さらには販路の多角化など、企業の前向きな挑戦を後押しすることが重要だと考えています。

価格転嫁については、今年5月に下請取引の公正化と下請事業者の利益保護を目的とする改正下請法が成立しましたが、取引価格の適正化を一過性の対応にとどめるのではなく、商習慣として定着させていくことが大変重要です。本所といたしましては、引き続きパートナーシップ構築宣言の推進に取り組むとともに、社会全体の理解促進と行動変容を国や関係先へ働きかけてまいります。

また、DX・生産性向上については、国や自治体に対して投資への補助や税制優遇を要望しているほか、先進的な企業の事例紹介や実践的なワークショップを開催し、取り組みの裾野の拡大にも努めております。さらに、メッセナゴヤをはじめとする商談会・展示会の開催により、新たな出会い・交流の場を創出し、販路拡大やビジネスマッチングの機会提供にも一層力を注いでまいります。

このように、中小企業が新たな挑戦に踏み出しやすい環境を整え、経済基盤を強化する一方で、都市としての機能や交流環境を整備し、地域全体の魅力と活力、競争力を底上げしていくことも重要です。

当地では、リニア中央新幹線の開業を控え、名古屋駅周辺の再開発をはじめ、ジブリパークの開園、ラグジュアリーホテルの開業、さらにはスポーツや音楽などの大規模イベントに対応可能なIGアリーナの開業など、国内外から人を呼び込み、受け入れるためのハード整備が進んでいます。

しかしながら、海外における当地の認知度は未だ十分とはいえず、今後はシティプロモーションを強化し、地域の魅力を積極的に海外へ発信していくことが求められます。中部国際空港の国際線拡充を含め、引き続き官民一体となって、グローバルな都市ブランドの構築に取り組みます。

2026年のアジア・アジアパラ競技大会、27年のアジア開発銀行(ADB)総会、28年の技能五輪国際大会など、今後予定されている国際的なイベントは、当地の魅力を国内外に発信する絶好の機会です。「訪れて良かった」「また来たい」と思っていただける、歩いて楽しい都市づくりを地域一丸となって推進し、産業力という強みを維持しながら都市としての魅力を高めてまいります。