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売り場の営業も担う化粧品卸メーカーと小売店の橋渡し役 池野賢吾 東京エーワン

東京エーワン 社長 池野賢吾

創業40年を数える化粧品卸の東京エーワン。取引先は大手ディスカウントストアや大手ドラッグストアなど4千店舗超に及ぶ。単なる流通にとどまらず、プロモーションやマーケティングなどの営業も任せられる化粧品卸として近年、急成長を遂げている。(雑誌『経済界』2025年12月号より)

池野賢吾 東京エーワンのプロフィール

売れる商品を社内で審査 ブームの火付け役に

池野社長は創業者の父から会社を引き継いだ3代目。化粧品卸として美容ディーラーから始まり、後に小売店向けにも参入。父と叔父の2代で大きく発展を遂げた。最大の強みはメーカーと小売店を結ぶマーケティング力だ。通常、中小の化粧品メーカーから新発売された商品は店頭へ並ぶ機会が少ない。限られた売り場では一定の回転が見込める「売れる商品」でなければならないからだ。そこで東京エーワンはメーカー各社から毎月、新商品を集めて社内審査し、通過したものをディスカウントストアの一部店舗でテストマーケティングしている。

「当社はただ商品を提供するのではなく、マーケティングやプロモーション、市場調査や価格分析まで行う『化粧品売り場の総合コンサルタント』のような存在です。化粧品メーカーは大手以外にも中小や新興が多く、いきなり新商品を全国チェーンで扱ってもらうことは難しい。そこを上手く調整するのがわれわれの役目です。毎月、約150品の新商品を審査し、売れる確率の高いものを選んで提供します。条件はさまざまですが、売れるにはポップの説明、価格、パッケージの3点が重要です。売れ行きが良ければ販売エリアを拡大できますし、良くなければメーカーにフィードバックして改善を促します」

メーカーからは発売前商品の評価を任されるほど信頼されており、小売店からも「棚は東京エーワンに任せておけば大丈夫」と太鼓判を押される。

「1本の棚には大体70商品ほど収まりますが、男性用も必要ですし、価格帯も幅広くそろえなければなりません。ラインナップの多さが重要で、2、3本の棚構成を単独で任されることもあります」

過去には、つけまつ毛が大学生・高校生を中心に全国で大ヒットし、ブームの火付け役となった。シャワーで洗い流せるカラーブリーチはハロウィーンイベントなどで広く利用された。

「ディスカウントストアでは売り場を調整しなければ売れません。メーカーが直販し『中抜き』されたこともありましたが、売れずに再び依頼されました。われわれには倉庫の出荷情報もあり、1カ月で数万点の商品のうち、何がどれだけ売れたかを詳細に分析しています。全国規模で配荷できる美容商材卸は少なく、メーカー・店舗・流通の情報を集められるのが最大の強みです」

SNSに注力し新商品をバズらせる

会社を継ぐ以前、池野社長はシステムエンジニア(SE)として国内外で経験を積んだ。外資系に転職したこともあり、社長就任後はデジタルマーケティングを推進し、SNSを通じて新商品を「バズらせる」ことに力を入れる。

「近年は、新商品を取り上げたSNSのフォロワー数を増やしたり、試供品を拡散させたりしてから小売店にPRする手法を取り入れています。フォロワーが多ければ商品提供を希望するメーカーも増え、バズった商品は高確率で店頭に置いてもらえます。売り方は多様化し、マス広告だけで売れる時代ではなくなりました」

急成長を遂げる東京エーワンもコロナ禍では業績が落ち込み、単月赤字が3カ月続いたことがある。池野社長はKPIマネジメントやアカウンタビリティを導入し、改善項目を挙げて営業担当を直接指導し、営業利益の回復を急いだ。

さすがに3カ月連続の赤字には焦り、翌月には黒字転換した。原因は営業成績ではなく、倉庫賃料やガソリン代の値上げにあったので、粗利率の低い商品の抑制や倉庫賃料の交渉など、さまざまな取り組みを行った。営業利益と報酬を紐づけたことも大きく、その後は大きな成長につながった。

次の目標は海外展開。国内市場が縮小する中、パートナーであるディスカウントストアやドラッグストアも海外展開を進めており、東京エーワンも動かざるを得ない。指をくわえて見ているわけにはいかない。

今年はバンコクへ視察に赴き、まるで90年代の日本のような活気を感じたという池野社長。現在は輸出品を事前調査できる体制づくりを進め、海外の日系小売店との取り引きを増やしている。

昨年度の売上高は約65億円。今期は70億円を見込み、従業員も50人から70人に拡大する計画だ。今年10月には発祥地の武蔵浦和を離れて池袋に本社を移転し、幹部候補10人を経営セミナーに参加させるなど社内体制の整備を急ぐ。

「ようやくエンジンをふかせる環境が整いました。これまでは父が作った基盤に甘えてきましたが、東京のビジネス環境は良い刺激になるでしょう。社員が成長し優秀な人材が加われば、会社はさらに大きくなります。売上高は3年以内に100億円、30年には150億円を目指します」

設立1986年3月
資本金1,340万円
売上高65億円
本社東京都豊島区
従業員数50人
事業内容化粧品卸
https://www.tokyo-eiwan.co.jp