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建設現場の画像をAIが判定し施工品質の飛躍的な向上へ 斉藤恵子 ギアヌーヴ

ギアヌーヴ 取締役社長 斉藤恵子

ギアヌーヴのAI-JUCQR(AI自動画像判定システム)は、大和ハウス工業、住友林業ホームテックで採用され、住宅の施工状態の画像をAI判定できるのが特徴だ。一貫して現場が使いやすい画像システムを構築してきた同社の歩みについて、斉藤恵子社長に話を聞いた。(雑誌『経済界』2025年12月号より)

斉藤恵子 ギアヌーヴのプロフィール

ギアヌーヴ 取締役社長 斉藤恵子
ギアヌーヴ 取締役社長 斉藤恵子 さいとう けいこ

AIと人間の目で精度を高め施工不良を見逃さない

建設現場では1人の現場監督が複数の現場を管理しており、すべての現場に張り付いて施工状況をチェックできるわけではない。そのため、作業員が撮影する施工写真で現場をチェックしてきたが、写真の仕上がりにばらつきがあり、施工状態の良否を判断するのに時間がかかっていた。

同社のAI-JUCQRは、作業員が撮影・送信する際にAIが画像の可否を判定する。結果を即座に通知し、NG判定の場合は施工の見直しと再撮影を要求するシステムになっている。

「作業員は現場に配備されたタブレットで見本ガイドを見ながら撮影でき、複雑な設定や操作は不要です。使用者のITリテラシーに左右されず、基準を満たさない施工を見逃すことなく工程を進められます」と斉藤社長は話す。

現場ごとに専用タブレットを設置することで、どの現場のどのタブレットから送信されたデータかを正確に管理できる点も特徴だ。

「個人所有のスマホやタブレット使用時に起こりがちなデータ紛失、転用、欠損といったインシデントが発生せず、競合システムに見られない自社の強みになっています」

AI判定に頼らず、一級建築士など有資格者による検証チームを立ち上げ、判定画像の再チェックを徹底している。AIと人間による判定を併用し、不一致が生じた場合は理由を分析してAIを再学習させるプロセスを繰り返してきた。こうして施工品質の向上を実現している。

「一見すると作業員側にメリットがあるシステムに見られがちですが、AIでNGが出た際に作業員自らが施工を是正する教育ツールとしての役割も果たしています。作業員が元請側の監督から是正指導を受けずとも適切な施工ができるようになり、これは元請側の大きなメリットです」

クライアントである大和ハウス工業とは2019年から運用上の課題を密に連携しながら開発を進めてきた。住宅では50項目、集合住宅では100項目でAI判定が可能となっており、今後はさらに拡大していく予定だ。

物流やアパレル業界にも遠隔管理技術は役立つ

ギアヌーヴは、もともと三洋電機の社内ベンチャー第1号として設立された会社だ。カメラによる遠隔画像転送技術を基盤とし、八木宏憲代表が株式を買い取る形で独立を果たした。

斉藤社長は09年に社員として入社し、16年に取締役社長に就任した。全国の建設現場に赴き、カメラの使い方をサポートしてきた。「これまで6千人以上の現場の声を聞いてきました。現場管理の困り事を肌で感じてきた経験が、システムを使いやすくする大きな力になっています。システムが採用されたら終わりではなく、創業の母社である三洋電機の社是『ひとびとになくてはならない存在でありたい』を目指し、本当に現場で使っていただける商品やサービスを考案・提供していきます」

また、AI自動画像判定システムがあれば、かつて日本を揺るがした構造計算偽装のような事件を防ぐことができるはずだと考える。

「日本の建築技術は世界一と言われているので、AI判定画像システムで課題を解決し、建築業界をより良くしていくことに貢献したいです」

同社では新たな事業として、建設現場向けの入退場管理システムの開発も進めている。建設現場では日ごとの請負作業が多く、作業員の勤怠管理が曖昧になりがちだ。そこで、RFIDチップを装着したヘルメットとゲートリーダーを組み合わせ、作業員の正確な入退場時間を記録し、勤怠管理の透明性を高めるシステムを構築している。

「このシステムは国交省が推奨する建設キャリアアップシステム(CCUS)と連携し、作業員の勤怠データをCCUSのデータベースと結び付け、現場に来るだけで勤怠データが取れることを目指しています。建設業界全体の働き方改革にも役立つと考えています」

また、画像による遠隔管理技術は建設業界に留まらず、他業界へも応用可能だ。

「物流業界ではトラックの積荷(鉄のロールなど)が法令通りに固定されているかを確認する固縛点検の遠隔管理に活用され、アパレル業界での採用実績もあります。リアルタイム確認や遠隔確認が必要なあらゆる業界で当社の技術が応用可能です」

人手不足や高齢化が進む中、AIは365日24時間働いてくれる。

「ベテランの知見をAIに学習させておくことは未来への投資です。弊社のプラットフォームを活用し、品質向上や作業効率化、人手不足の解消に役立てていただけるとうれしいです」

設立2003年1月
資本金8,375万円
本社東京都港区
事業内容デジタル画像管理システムの開発・保守・運用、通信機能用途向けアプリケーション開発
https://www.gearnouve.com/