化学品商社の新ケミカル商事は2004年の発足以来、売上高が急拡大している。M&Aを武器に成長してきたが、今年は海外でのハラルビジネスと環境・リサイクル事業を2大テーマにさらなる発展を目指している。
マレーシアと日本でハラルビジネスを探索
新ケミカル商事が発足した当時、売上高は246億円だった。それから約10年を経過した現在、2015年度の売上高は600億円まで伸びている。時に大きなヒット商品が生まれる製造業と違い、商社は基本、流通マージンを糧としているので急激に規模が大きくなることは珍しい。しかし同社は積極的にM&Aを繰り返して業容を拡大。前期は目立って大きなM&A案件こそなかったものの、積み上げた売上高は600億円まで増えた。
もともとの親会社が新日鉄住金化学なので信用力が高く、手堅い商売を行ってきた。それが06年に、北九州市に本社を置く日豊ホールディングスが新しい親会社となり、この時が現在の新生「新ケミカル商事」の誕生と言っていいだろう。
同社を率いる上田哲則社長は「基礎素材を堅実に販売するのが当社の使命です。16年度の売上高は、現状で650億円前後がほぼ見えているので、700億円を目指します」と語る。
16年度は中期経営計画「NCT─26」の3年目を迎えるが、上田社長は「今までは従来路線の延長線上でやってこれましたが、これからはそうはいきません」と、16年度は大きく2つをテーマに掲げた。その2つとは「海外事業」と「環境・リサイクル事業」の大幅なテコ入れで、これを起爆剤に3年後には1千億円の大台乗せを視野に入れている。
まずは海外事業であるが、その目玉と期待しているのが「ハラル」関連のビジネスだ。近年、ハラルビジネスというキーワードを耳にすることが増えてきたが、これは簡単にいえばイスラム教徒(ムスリム)向けに商品やサービスを提供する商売だ。ムスリム向けには例えば、イスラム教で禁じられている豚肉や酒類を原材料や生産・流通のプロセスに一切使用していないことを「認証」されないと流通できない仕組みだが、この分野への参入は容易ではない。
同社も今、研究を重ねているところだが、実はムスリムが多いマレーシアで鶏糞処理バイオマスプラント事業が動き出している。鶏糞を燃焼させて発電させるプラントを数機、売り込むプロジェクトだ。
「環境対策上からも大変注目されており、既に覚書も締結しています。今年は本契約を結んでプラントの建設に着手する見込みです」(上田氏)
鶏肉を大量に利用しているマレーシアでこのプロジェクトが成功すれば、その波及効果は同国のみならず他のイスラム諸国へも広がる可能性がある。
またその関連で、メードインジャパンの食品を求める国々やインバウンドをターゲットとするハラル工業団地を国内に建設する構想も浮上している。
「ムスリム向けに食品や化粧品などを製造する工業団地ですが、相当大掛かりものになりそうです。ゆくゆくは、ここがアジア向けのハラル製品の供給基地になるかもしれません」(同)
同社は企業誘致など、プロジェクト全体のコーディネーターを担う考えであり、東京オリンピックの開催を前にハラルビジネスが花開けば、大きな収益源になるだろう。
環境リサイクルの目玉は樹脂と食品残さ
また、環境・リサイクル事業では、樹脂・廃液・食品残さを対象としている。家電などで使用されている樹脂製品のリサイクルは、古くから行われてきたが、同社はこれを香港で本格的に事業化する。メーカーに一定のリサイクル品の利用義務が課されたこともあり、これを破砕してペレット状にして、再利用する。
食品残さは、有機肥料として再活用する。「全国にある産業廃棄物の回収業者から食品残さを買って有機肥料に加工して販売する仕事ですが、当社はJA様をはじめとして全国に販売ルートを持っているのが強みです。産業廃棄物会社は中小企業が多いので、必要なら資金繰りのお手伝いもします。農業はTPP締結で前途を悲観している農業従事者の方も多いですが、有機肥料を使って有機栽培した作物は値段も上がるし、輸出も可能になるので、有望な産業に生まれ変わるでしょう」(同)
化学品の流通をメーンとしながら多角的に経営する中で、同社には分社化による持ち株会社化の構想がある。
「3年後には売上高1千億円を達成したいので、必要なら組織も変えるし、中途のキャリア採用も積極的に進めます」
こう語る上田社長の目線の先には、既に目標達成の確信があるようだ。
新ケミカル商事株式会社
- 設立/2004年8月
- 資本金/4億円
- 売上高/約600億円
- 従業員/約200人 事業内容/化学品、肥料、建材などの販売
- 会社ホームページ/http://www.nctcl.co.jp/