仙台空港が完全民営化されてから2カ月余りがたった。運営しているのは、東急電鉄などが設立した「仙台国際空港」だ。民営化のメリットを生かして空港ビルの機能性を拡充し、就航路線を増やすことができるか。「東北のゲートウエー」を掲げる仙台空港の挑戦が始まっている。文=ジャーナリスト/泉田義彦
効率的な一体経営が民営化のメリット
「この仙台国際空港が愛される空港になり、(東日本大震災からの)復興が加速することを期待する」
7月1日に空港内で行われた記念式典で、石井啓一国土交通相は国内で初めての取り組みにこう期待を寄せた。
仙台空港はこの日、国管理空港として初めて完全民営化された。運営会社である仙台国際空港は、東急電鉄、前田建設工業、豊田通商など7社グループが設立した特定目的会社だ。昨年行われた入札では三菱地所などの企業グループを下して運営権を獲得した。
今年2月にターミナルビルの運営と物販、航空貨物の取り扱い業務を開始し、7月からは滑走路の維持や着陸料の収受などの業務を担う。
民営化のメリットはずばり、空港の「効率的な一体経営」にほかならない。
国は黒字が多い空港ビルなどの非航空事業と、赤字体質の航空系事業を一体的に運営することで活性化させ、着陸料の引き下げや路線拡充につなげるシナリオを描いており、今回の仙台空港だけでなく、高松空港や福岡空港などもいずれ民営化される方針だ。
ただ、民間にすべてを任せてしまうと、不採算の場合に事業撤退する恐れもある。このため、国は空港の民営化について、施設の所有権とは別に運営権を設定し、民間企業に管理運営を委託する「コンセッション方式」が採用された。管制業務は引き続き国が担っている。
航空系事業で黒字を確保できているのは羽田など一部の空港にとどまる。もちろん、仙台も赤字だった。だが、仙台空港は今回の民営化に関して、全社で2018年度の黒字化を見込んでいる。仙台国際空港の岩井卓也社長は「路線拡充による増収、施設管理などのコスト削減で黒字転換を実現する」と意気込んでいる。
では、どうやって稼ぐのだろうか。
空港の収入は大きく分けて、①着陸料収入②商業収入③貨物手数料の3つだ。
このうち①の着陸料は、国管理空港では機材の重さによって全国一律に定められていた。だが、民営化されると運営会社が料金を自由に設定できるようになる。仙台空港はさっそくこのメリットを生かした。
民営化2日前の6月29日、台湾の格安航空会社(LCC)「タイガーエア台湾」の定期便が就航したのだ。仙台空港にとっては初の国際線LCC。もちろん、就航に向けた交渉の「カード」になったのは着陸料の引き下げだった。
また、LCC向けに、使用料のかからないボーディングブリッジ(搭乗橋)のない簡易搭乗口を設置することも計画しており、今後も国内外の都市と仙台を結ぶ路線の拡充に積極的に取り組む考えだ。
また、②の商業収入については、旅客ターミナルビルの飲食店や土産物店からの実入りを増やすため、10月からビルの大幅改修に着手。搭乗直前まで買い物や飲食を楽しめるように、保安検査場を通ったあとの制限エリア内の店舗を拡充する。
③の貨物手数料についても貨物取扱量を増やすため、地元の水産加工会社や農家などに働きかけて、航空便による輸出拡大をもくろんでいる。
仙台国際空港はこうした取り組みの積み重ねによって、30年後の空港の利用客を現在の1・7倍にあたる550万人に増やすとしている。
他空港の無料化で失われる強み
政府が掲げる成長戦略の中でも、非常に重要な政策の一つである空港の民営化。だが、国が最近打ち出した空港にかかわる政策について、仙台空港の関係者は「一喜一憂」する事態となっている。
「喜」は、国交省が17年度税制改正要望に、航空機が到着して入国審査に入るまでの「入国エリア」にも免税店を設置できるよう盛り込むことを決めたことだ。海外ではアジアの空港を中心に入国エリアに設置するケースが増えており、商業収入のアップが見込める。宮城県も「空港の活性化につながる」と期待感を示す。
一方で「憂」は、同じ国交省が訪日客の誘致に積極的な地方空港を対象に、国際線の着陸料を最大3年間無料にする方針を表明したことだ。民営化によって着陸料を自由に設定できるようになったことは、仙台空港の最大の「武器」だったはず。それなのにほかの空港が無料となれば、その武器が事実上無力化されてしまう。そのため空港関係者から「経営努力が飛んでしまう。仙台空港が不利になる」と怨嗟の声が上がる。
しかも今回、仙台空港は支援対象から外れた。民営化を推進した宮城県の村井嘉浩知事も「これでは民営化の意味が薄れるのではないか」と懸念を示している。
仙台空港は何らかの政策的対応を求めていく考えだが、高松空港のように今後の民営化を模索する動きに水を差さないためにも、国には一定の配慮が求められることになりそうだ。
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