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かつてのライバル対決で明暗分けたパナソニックとソニー

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2018年3月に創業100年を迎えたパナソニック。記念すべき年を好業績で飾りたいところだったが、中間決算は減益となった。一方、よく比較されるソニーは、過去最高益を記録。利益率はパナソニックの2倍以上を誇る。なぜここまで両社の差は開いてしまったのか。文=関 慎夫

テスラ車大増産で車載用電池の投資が収穫期に入るパナソニック

8万3500台――これは2018年7―9月の3カ月間における電気自動車(EV)メーカー、テスラの販売台数だ。注目すべきはその伸び方で、4―6月の4万740台から倍増した。これは主力車種である「モデル3」が量産体制に入ったことを意味している。

半年前まで、テスラの前途には暗雲が立ち込めていた。テスラ3に搭載するリチウムイオン電池ユニットの製造がボトルネックとなり、生産台数を増やすことができなかったためだ。

モデル3は16年7月に発売を開始したが、その時点で予約が50万台を超えるほどの人気を集めた。しかし製造が軌道に乗らず、この間、赤字を垂れ流し続けた。そのためテスラは資金ショートするとの観測さえ流れていた。

ところが6月最終週に当面の目標としていた週5千台をクリアし、量産体制に入ったことで販売台数も急増。CEOのイーロン・マスク氏がテスラの上場廃止を示唆して市場に反発されるなどの混乱もあったが、モデル3の製造・販売は好調で、19年にテスラは黒字化する可能性が高い。テスラは中国での製造を検討するなど、さらなる拡大を目指しており、自動車市場そのものを席巻する勢いだ。

ガソリンで動くクルマの最重要部品はエンジンだが、EVの場合はモーターでなくバッテリーで、それによって性能が左右される。そしてテスラ車のバッテリーを一手に引き受けているのがパナソニックだ。

とりわけモデル3のバッテリーに関しては、テスラと合弁で巨大バッテリー工場、メガファクトリーをつくり、納品している。その投資額は約6千億円で、そのうちパナソニックの負担は1500億~2千億円といわれる。これまではその負担がのしかかり、パナソニックの収益を圧迫していたが、モデル3の量産により、いよいよ収穫期に突入した。

営業利益率が思うように伸びないパナソニックの誤算

津賀一宏・パナソニック社長

津賀一宏・パナソニック社長

10月末に発表した中間決算からもそのことは明らかで、車載電池を担当するエナジー部門の売上高は前年比33%増と大きく伸びた。営業損益こそ立ち上げ費用がかさんだため73億円の赤字だったが、通期では、売上高7880億円(前年同期比40%増)、営業利益221億円(同100%増)を見込んでいる。

津賀一宏・パナソニック社長は、この2年間、会見を開くたびに決まってテスラの現状を聞かれていただけに、「テスラとはようやく歩調が合いつつある」と胸をなでおろす。あとは果実を刈り取るばかりである。

テスラ向けバッテリーの寄与を当て込んで、パナソニックは通期の決算を、売上高が前期比4.0%増の8兆3千億円、営業利益は同11.7%増の4250億円と見込む。中間決算では営業損益が前年比1%減だったことを考えると、業績は下期に大きく改善すると予測している。

問題は、テスラ向けバッテリーが利益を上げるようになっても、営業利益率が4.9%と思ったように上がってこないことだ。

決算で比較するかつてのライバル、ソニーとパナソニックの違い

これは、ソニーの決算と比較するとよく分かる。

ソニーの中間決算は、売上高が前年比6%増の4兆1364億円、営業利益は同20%増の4345億円となった。通期では売上高8兆7千億円、営業利益8700億円と最高益も見込む。その利益率は10%とパナソニックよりはるかに高い。

パナソニックとソニー、昔はテレビやビデオなどで覇権を争ったこともあり、よくライバル視されたが、今ではパナソニックがB2Bへとシフトしたこともあって、事業領域が大きく異なる会社になった。

それでも、日本を代表するエレクトロニクスメーカーであり、リーマンショック後の経営危機を乗り越えてきた会社同士である。それなのに、なぜこれほどまでに利益率が違ってしまったのか。

ソニーの収益を支えるのは、ゲーム&ネットワーク分野と半導体分野。中間決算における前者の利益率は17%、後者は16.8%と、ともに高い水準を記録した。

ゲーム機「プレイステーション4(PS4)」は発売から5年がすぎた。通常、これだけの時間が経過すると、ハード、ソフトともに販売に陰りがみられるものだが、PS4のソフト販売は拡大しており、ハードも予測よりも売れている。そのため、前世代機に比べ値下げ額も小さくすんでおり、それも収益に直結する。

さらには、有料会員制サービス「プレイステーションプラス」の会員も前期末で3400万人を超えた。そこからの収入も収益に貢献した。

収益の柱を育てたソニー、一方のパナソニックは?

ソニーは12年に平井一夫社長(現会長)が就任して以降、継続的に利益を上げるリカーリングビジネスに力を注いできた。それが実ったことになる。

さらに半導体は、イメージセンサー需要が高まったことで、収益を押し上げた。イメージセンサーはソニーが1970年代にビデオカメラを発売して以来、高い競争力を持ち続けている部品だ。それが、スマホ需要を取り込み、さらには自動車の自動運転用センサーとしてのニーズが後押しした。

ゲームにしてもイメージセンサーにしても、ソニーが収益の柱として時間をかけて育ててきたものだ。それが今、果実を結んでいる。

一方のパナソニック。同社にはアプライアンス(AP、家電)、エコソリューションズ(ES、住宅・照明等)、コネクティッドソリューションズ(CNS、B2B)、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS、自動車用部品等)の4つの事業領域があるが、利益率はAP4.4%、ES2.4%、CNS9.4%、AIS2.0%と、CNS以外は極めて低い。

CNSにしても売り上げ構成比は12.5%と4事業領域の中でもっとも小さいため、いくら利益率が高くても収益貢献度は小さい。

パナソニックとソニーの差を生んだ「稼ぐ事業」の有無

つまり今のパナソニックには、稼ぐ事業が見当たらない。これがソニーとの格差につながっている。

津賀社長が就任したのは、ソニーの平井氏と同じ12年。ソニーはパソコン事業から撤退し、テレビを別会社化した。パナソニックも、プラズマディスプレーやスマートフォンから撤退するなど構造改革を行ってきた。

にもかかわらず、結果を出せたソニーに比べパナソニックはいまだ道半ばだ。従来から強い分野に力を入れたソニーに対し、パナソニックは家電からB2Bに切り替えるなど、新しい事業領域をつくってきた。それがこの差になって表れた。

問題は、パナソニックの事業が、高収益を稼ぐまで開花するかどうか。

車載用電池はそのひとつだろう。恐らくこの分野は、テスラのモデル3の生産が軌道に乗ったこともあり、今後しばらくは収益を上げ続けるはずだ。しかしここにきて中国メーカーが猛烈な追い上げを見せている。

車載用電池は大きな設備投資を伴う装置産業。つまりかつて日本メーカーが圧倒的シェアを誇ったDRAMや液晶と同類だ。当面はEV市場が拡大するため需要はあるが、EVブームが一段落したあと、どうなるかは予断を許さない。

パナソニックは次の100年を何で稼ぐのか

津賀社長も「車載電池だけをつくっていればいいとは思っていない」と本音を語る。津賀社長はパナソニックを「くらしアップデート業」だと定義する。「人々の多様な価値観に合わせられる製品・サービスを提供し、暮らしをアップデートする会社」を目指すというのである。

この言葉からは、B2BもB2Cも関係なく、暮らしに役立つことならジャンルを問わないという意味だ。裏を返せば、「この商品・サービスで稼ぐ」というものがいまだ定まっていないとも受け取れる。

事実、津賀社長は「何が当たるかは分からない。だからいろんな水面下の活動を、他社以上にやっていく必要がある」とも語っている。

創業から101年目を迎えたパナソニック。最初の100年間は家電で企業を成長させてきた。これからの100年は何で稼ぐのか。今はまだ答えが見えない。

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