ゲストは、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督「万引き家族」の製作・配給などを手掛けるティー ワイ リミテッド会長(ギャガ会長兼社長CEO)の依田巽さん。「映画好きでなければこの仕事はできない」と話す依田さんから、「万引き家族」の話を中心に伺いました。
依田巽・ティー ワイ リミテッド会長プロフィール
依田巽・ティー ワイ リミテッド会長が語る映画の魅力
世界中の人々に響いた映画「万引き家族」
佐藤 御社の応接室に、私の父・正忠の書を飾っていただいてありがとうございます。
依田 こちらこそお父様のご存命中は四半世紀にわたりお世話になり、感謝しています。来年7回忌ですね。
佐藤 早いですね。さて本題に入りますが、ギャガで配給されている是枝裕和監督の映画「万引き家族」を観ました。第71回カンヌ国際映画祭で「パルムドール」を受賞されたのは、日本人監督としては21年ぶりだそうですね。世界的に話題になった一方で、実際にあった年金不正受給事件を題材にしており、「日本の恥を世界にさらすな」との批判も聞かれました。
依田 有美社長はご覧になって率直にどう感じました?
佐藤 感動したというよりは、仕事とは、家族とは何か、なぜ社会的弱者を救えないのかなどを深く考えさせられました。是枝監督の独特の感性で撮られた映画ですね。
依田 そうですね。是枝監督はドキュメンタリー番組のディレクター経験から、時代や社会の表裏を見抜いて問題提起することに非常に長けています。この映画はフジテレビ・ギャガ・AOI Pro.で製作委員会を組み、ギャガが配給・宣伝・海外販売等を担当しています。
「万引き」という不正行為や社会の陰でひっそり暮らすアウトローな人たちを描いた作品が、海外で受け入れられるのか不安もありました。しかし蓋を開ければ、審査委員長のケイト・ブランシェット氏はじめ、満場一致でパルムドールに決まり、世界中で普遍的に受け入れられる映画だと実証されました。
佐藤 どんなところが世界の人々に受け入れられたのでしょう?
依田 カンヌ国際映画祭では150もの国と地域の映画人が集まりますが、発展途上国も多く「万引き家族」で描かれるような家庭や社会問題は当たり前の現実なんです。それで共感を得られたというのもあると思います。中国では実写邦画の歴代最高興行収入を記録し、アメリカでも11月に公開されています。
投資効率の悪い映画事業に取り組む理由
佐藤 そうですよね。昔は東京でも山谷辺りは女性1人で歩かないようにと言われましたが、現代の街並みにもその面影はありますよね。家族が住むあの古い一軒家はどこで撮られたんですか?
依田 家があったのは足立区です。コンクリートの住宅やビルが建ち並ぶ一角に古家がポツンと残っており、スタジオで再現しました。映画で印象に残る俳優さんはいましたか?
佐藤 主演の安藤サクラさんの生々しさが圧巻でしたね。
依田 ケイト・ブランシェット氏も、「私が将来こんな演技をしたら、彼女のまねだと思ってください」と話していましたよ。私としては、樹木希林さんが浜辺に座り、遠くを見据えて唇の動きだけで「ありがとう」と呟く場面は、死を予感させる、ご本人の魂の言葉だったのではと。永遠に忘れられないシーンですね。
佐藤 是枝監督との出会いは?
依田 2011年、是枝監督の「奇跡」という映画でギャガが製作委員会に入り配給等を手掛けたのを機に、その後6作品連続でご一緒しています。私たちは是枝監督の真摯な映画製作の姿勢に胸を打たれ、監督も私たちの姿勢を気に入ってくれた。仕事を通じて築き上げた関係ですね。
佐藤 素敵ですね。製作期間はどのくらいかかるものですか?
依田 最低2年、最長20年、企画構想に10年かかるものもあります。
佐藤 随分長いですね。
依田 この仕事を続けられるのは皆、映画が好きだから。映画を事業化するのが私たちの仕事ですが、投資効率だけを考えたら映画はリスクが大きいから作らないほうがいい。リターンがなければ、労も報われない。それでも映画に携わりたい、ギャガの映画を世界中の人々に見てほしい。映画が生きがいなんです。
依田巽・ティー ワイ リミテッド会長の夢とは
佐藤 最近は映画館も贅沢かつ快適な空間になっています。チャンスは人の集まるところに生まれますが、その意味では、映画館が一役買っている面もありそうですね。
依田 今年開業したTOHOシネマズ日比谷は映画に集中できる造りです。東京一極集中の是非に議論はありますが、やはりすごい。六本木ヒルズが完成型かと思ったら、東京ミッドタウン、渋谷ヒカリエ、日比谷と続き、新宿の再開発も進んでいます。東京五輪の時には「世界が注目する東京」になりますよ。
佐藤 時代が変わるたびに取り残されていく気がしますが、同時に新しい時代を生きる刺激もありますよね。依田さんの今後の目標は?
依田 まず今の仕事を若い世代に引き継ぐことに専念したい。その後は妻と海外旅行したいです。
佐藤 どこに行かれるのですか?
依田 船で50日かけて世界一周を。妻は「夢物語よ」と言います。私は死ぬまで現役のつもりですが、50日くらい留守でもいいでしょう。3年後には実現したいですね。
似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=佐藤元樹
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan