アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手=古賀寛明 Photo=山内信也 (『経済界』2019年9月号より転載)
塩澤賢一・アサヒビール社長プロフィール
営業出身社長のミッションはビール市場の活性化
―― この3月に社長就任されましたが、社長になる予感のようなものはありましたか。
塩澤 いやぁ、全くありませんでした。1月末にこの吾妻橋の本社に呼ばれまして、なんとなく人事案件だとは思いましたから、ひょっとしてホールディングスの役員とかになるのかなと思いました。しかし、それはそれで海外事業を考えると、言葉の問題がありますので、まいったなぁと(笑)。戦々恐々と本社に来ましたら、ビールの社長ということでしたから、本当に驚きましたよ。
―― 営業畑が長かったそうですね。
塩澤 そうですね。ほとんどビールの営業しかやっていませんね。5、6年前の一時期だけ、経営企画本部長として人事、経営企画を管掌していましたが、基本的にはずっと営業畑を歩んできました。
営業でも、コンビニや量販店の担当ではなく、飲食店さんや飲食店に納めている酒屋さんといった業務用営業の分野を長く担当していました。シェアの商売というよりもゼロか100の積み重ねの営業でした。営業に関して言えば、それなりの自信はあります。
―― 抱負として若者需要の開拓を挙げています。
塩澤 ご存じだとは思いますが、ビールはもとよりアルコール飲料全体の需要が低迷しています。そのなかでも、ビールの落ち込みが激しいのです。では、ビールの需要がどこに行ったのかと考えると、他のお酒である缶チューハイやハイボールなどに流れています。
そこで落ちてしまったビール市場を再び活性化していくためにも、いまのメインターゲットである高い年齢層の人たちではなく、これからお酒に入ってくる若い人たちの入り口をつくり、ビールを楽しんでもらうことで、そのまま長いお客さまになっていただこうと考え、若者需要を取り込もうとしています。
スーパードライは発売開始から今年で32年たちます。スタート時からのファンの方も多くいらしゃいますが、だいたい60代以上へとご高齢になってきており、消費量も少しずつ減っていきます。
そう考えると、30代、40代が次のボリュームゾーンと考えられますが、子育ての時期など経済的な理由からなかなかビールに手を出しにくいということもあります。そうした理由もまた、若者をターゲットにする狙いの一つです。
―― 具体的な施策としては。
塩澤 2つの商品がありまして、「スーパードライ ザ・クール」という若者向けの商品を4月頭から発売しています。小瓶のビールですが、瓶のまま飲んでもらおうといった提案をしています。
瓶のまま飲むというスタイルはこれまでも無かったわけじゃありませんが日本ではあまり浸透していません。でも、ダーツバーやスポーツバーなどの立ち飲みスタイルのお店であれば合うと思いますから、少しかっこよさも強調して売り出しています。味に関しても、若者は苦みを敬遠しますから、苦みを抑えた味になっています。
社内的にはもうひとつのスーパードライと呼ばれる「アサヒスーパードライ 瞬冷辛口」も若者向けに押している商品です。アルコール度数も5.5%とちょっと高めで、「ポラリス」という希少なポップで冷涼感を出しています。過去2年、限定で販売していたのですが、若者層がビールの入り口として飲み初め、そのままスーパードライへと流れているデータもありますから、2つの商品を若者向けと考え、提案している最中です。
スポーツイベントのビール需要に期待
―― 今年の夏のビール市場は期待できそうでしょうか。
塩澤 先日の長期予報では7、8月は平年並みとのことですから期待しています。昨年は7月、8月が暑過ぎました。
35℃を超えると、昼によけいに水分を摂るものですから、水腹になってしまいますし、夜も暑いのでなかなか外出しようとは思いません。その結果、まっすぐに家に帰ってしまいます。ですから、寒いよりはいいんですが、暑過ぎるのも困りものです。ですから、だいたい32℃くらいが適温ですね。
―― 9月には日本各地でラグビーのワールドカップが開催されますね。
塩澤 すごく期待しているんですよ(笑)。欧州やオセアニアの方々はとにかく飲むらしく、しかもビールを飲むのだそうです。
ある話では、1日平均1.7リットル飲むそうですからね。40万人くらいが日本に来られて、平均滞在日数も2週間。しかも、ワールドカップはお祭りですから、お酒も朝から飲みます(笑)。スポンサーではありませんが、スーパードライは欧州でもオーストラリアでも販売していますから馴染みがあると思いますので、期待しています。
―― 東京オリンピックの方は公式スポンサーですね。
塩澤 こちらは、ゴールドパートナーですし、5年前から準備をしています。世界中からお客さまが来られるので、単に売り上げだけで考えるのでなく、世界の人たちに知ってもらうようにしたいと思っています。
アサヒグループとしても欧州のビール会社を買収して「Pilsner Urquell(ピルスナー・アルケル)」、「Peroni(ペローニ)」、そして「スーパードライ」の3つをセットにプレミアムブランドとして売ろうと考えています。そのためにも「日本のナンバーワンビールはこれだ」と飲んで帰っていただきたいですね。
―― 理想の社長像として、どなたかをモデルにされていますか。
塩澤 特にはいません。自分が誰かになろうと思ってもなれませんから、自分の個性を出していくしかないと思っています。
自分の強みでもある、部下をはじめとした人の話をちゃんと聞く、きちんと相談して決める、といった自分のスタイルでやっていきたいですね。
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