経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「私がやらなければ誰がやる」その使命感でここまで来た―佐川八重子(桜ゴルフ代表取締役)

佐川八重子イラスト

ゲストは、日本の女性社長の先駆けとして、またゴルフ会員権ビジネスの草分けとして、昨年創業50周年を迎えた桜ゴルフ代表取締役の佐川八重子さん。憧れの女性社長の1人です。使命感を持ち、笑顔を絶やさず会社経営を持続させてきた半生と、この先の事業承継について伺いました。聞き手&似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=西畑孝則(『経済界』2021年12月号より加筆・転載)

佐川八重子氏プロフィール

佐川八重子(桜ゴルフ代表取締役)
(さがわ・やえこ)1944年千葉県生まれ。63年文化服装学院本科修了。東洋ゴルフ、日之出ゴルフを経て、70年桜ゴルフ創業。85年第10回経済界大賞フラワー賞、2020年日本棋院より第49回大倉喜七郎賞など受賞多数。ライフワークは女性起業家支援。

コロナ禍で三密を避けるゴルフ人気が再燃傾向

佐藤 昨今は若者のゴルフ離れが深刻で、ゴルフ人口も20年前と比べて半減しているそうですね。でも、このコロナ禍で、三密を避けて屋外でできるゴルフは人気再燃の兆しが見られます。近場のゴルフ場は予約もいっぱいですし。ゴルフ会員権事業を行う御社はいかがですか?

佐川 このような状況下ですが、仕事は順調です。出来高も2020年の1・5~2倍の勢いです。しかし、昨年の春は果たして事業を継続していくことができるのか心配していました。ですが、ゴルファーは巣ごもりの中、リタイア後の長い時間をどのように心豊かに過ごすかを考える貴重な時間だったと思われます。その結果、「予算を上乗せして良いものを買う」という風潮と、ワーケーションの浸透から「リゾートコースを買う」という新しい動きが見られました。

佐藤 今は男女ともに若手プロゴルファーが活躍していますし、ゴルフ人口がまた増えるといいですね。

道なき道を進んできた草分けとしての使命感

佐藤 御社は昨年創業50周年を迎えられました。おめでとうございます。佐川さんは女性社長が珍しかった時代にお一人で、ゴルフ会員権事業の草分けとして、会社を、産業を大きくしてこられました。失礼ながらお歳はいくつになられました?

佐川 77歳になりました。あと3年で80歳ですが、意外と続けられるものですね(笑)。仕事はやればやるほど大切なことに気付かされます。

佐藤 私も還暦ですし、会社をどうするかを考える日々です。父で創業者の正忠が73歳の時に私は会社を継ぎ、社長就任から20年たちました。佐川さんは事業承継については?

佐川 私が55歳の時、知人の紹介で45歳の男性を後継者候補として迎え入れたことがありますが、あまりにも承継を急かされたので取りやめにしました。私どもは創業20年目に女性だけで320億円を売り上げた会社です。リーマンショック、東日本大震災を経て売り上げが10分の1まで落ちましたが、無事50周年を迎えることができました。命懸けてつないできた大切な会社です。そうやすやすとは譲れません。

佐藤 ご苦労も多かったと思いますが、印象に残る出来事は?

佐川 創立10周年目に手掛けた新規ゴルフ場事業の進出と、事後処理でした。口には表すことのできない試練の日々を思い出します。共同経営者の背信行為により経営から撤退を余儀なくされ、約6億円の預託金の返済義務を負いました。会員は有名企業の重役の方ばかり。私どもは上場も考えていたので、汚点は残せないと14年かけて返済しました。

佐藤 14年、すごい。経営者はお金のことも人のこともすべて背負わなければなりませんよね。私は経営者の条件は、覚悟を持てるかどうかだと思っています。創業者の佐川さんは相当な覚悟をお持ちだったでしょうが、2代目の私は社長を押し付けられ、その後たくさんの出会いを通して覚悟が養われていきました。

佐川 2代目、3代目さんは創業者とはまた違う大変さがありますね。

佐藤 ありがとうございます。創業者を超えることはできないので、その思いを酌みながら、一方で時代に取り残されないよう若い世代に学びつつ、自分のペースで経営をしています。御社のスローガン「草分けとしての使命を――」は佐川さんの生き方そのものですね。

佐川 創業時のスローガンは「あなたのゴルフプランを私にお任せください」でしたが、10年目に「草分けとしての使命を――」に変更しました。これは2度にわたるオイルショックを凌ぐ中、意義ある仕事を「私がつながなければ誰がやる」という切実な思いから生まれた言葉です。私どもはお客さまの立場に立ったコンサルティングビジネスを提唱、信頼を築いてきました。今日があるのは、それが評価されてきたからではないでしょうか。

創業50周年のお祝いに社員からもらった直筆の手紙は「宝物」だ
創業50周年のお祝いに社員からもらった直筆の手紙は「宝物」だ

佐藤 素晴らしいですね。

佐川 バブル崩壊後は生き延びることに精いっぱいで事業承継について考える余裕もありませんでした。会社を譲るのはより良い状態にしてからですね。私も元気なのでまだ働けますし。

佐藤 出会いはご縁ですが、後継者は創業者の思いを酌んで現場に落とし込める人がいいですよね。

佐川 そのためには仕事を十分に熟知し、私の後継者としては会員権売買だけでなく、ゴルフ界を担う覚悟が必要です。少し私の下で修業していただきたいと思います。今は優秀な男性を探しています。

佐藤 当社は男性が多い古い会社なので、若い女性を採用して社内を変革中です。最後に、佐川さんが仕事で大切にされていることは?

佐川 昔は「礼節なくしてビジネスなし」と言い続けてきましたが、今いる社員は皆できています。一番大切なのは、「正直であること、人に優しくあること」ですね。

佐藤 人としての基本ですね。本日はありがとうございました。

佐藤有美と佐川八重子
「信念を持ち、仕事に厳しくも、いつも笑顔の佐川さん。私も追いつけるよう頑張ります」(佐藤)