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『週刊朝日』休刊の衝撃!次につぶれる週刊誌はどこか

老舗週刊誌『週刊朝日』が100年を超える歴史に終止符を打つ。かつては発行部数100万部を超える人気を誇ったが、直近では10万部以下に低迷していた。紙媒体の不振は週刊朝日に限ったことではないが、取材を進めるとつぶれるべくしてつぶれる現状が見えてきた。文=経済ジャーナリスト/小倉健一(雑誌『経済界』2023年4月号より)

橋下徹の連載記事で始まった凋落への道

 「『週刊朝日』は、2023年5月末をもって休刊します」という衝撃的なプレスリリースが、週刊朝日を発行する朝日新聞出版のホームページに掲載されたのは、1月19日だった。リリースは続けて、「大正11(1922)年に創刊した同誌は、日本最古の総合週刊誌として100年余にわたって読者の皆様から多大なるご愛顧をいただきました」とある。ただし、日本最古の週刊誌は、1895年(明治28年)の東洋経済新報(現在の週刊東洋経済)であり、「総合」週刊誌というカテゴリーにおいては、日本一古い雑誌ということだ。

 週刊朝日が、なぜ、休刊になったのか。その原因を週刊朝日特有の事情と、週刊誌業界が抱える構造的問題との2つに分けてお伝えしたい。

 今回の廃刊の直接的要因は、週刊朝日を発行する朝日新聞出版社と親会社・朝日新聞社のリストラ策の一環であるということだ。週刊朝日は1950年代には発行部数が100万部以上あったが、昨年12月の平均発行部数は7万4千部だった。同様に、本体の朝日新聞も部数減が止まっていない。現在の発行部数は450万部、2011年には800万部近い部数を誇っていた。

 コロナ前は毎年5%、最近では毎年8%のペースで部数が減少し続けている。朝日新聞デジタルの有料会員(500〜3800円)は25万人(無料会員を含めた会員数は406万人)しかいない。昨年9〜11月には、45歳以上の社員を対象に「200人以上」の希望退職者を募った。子会社である朝日新聞出版にもリストラが求められたのは想像に難くない。

 朝日新聞出版は、週刊朝日の他に、雑誌『AERA』、『科学漫画サバイバルシリーズ』などで絶好調の書籍と、大きく3つの部門がある。AERAは、カラーページが多く、女性読者の割合も高く、『AERA with Kids』を発行するなど現役世代読者を抱える。「どちらかを残すなら、広告が入りやすく、収益機会の多いAERA」(朝日新聞出版関係者)であり、週刊朝日が休刊する判断になった。

 週刊朝日の雑誌の勢いが明らかに落ちてしまったのは、12年10月26日号の作家・佐野眞一氏による連載「ハシシタ 奴の本性」だった。橋下徹大阪市長(当時)の出自を暴くことを企図されたこの連載は、編集長、社長の引責辞任にまで発展した。社内が大混乱する中、「立て直し」を図るために就任した新編集長は、社内でセクハラを含むパワハラ事件を引き起こし、懲戒解雇に至った。

 「この一連のグダグダで、編集部において意欲的な記事をつくろうとするモチベーションは、格段に落ちてしまった。毎週の企画会議で出てくるのは、老人向けの企画ばかり。生ネタのニュースを追って記事をつくっても売れないし、ネットでもバズらない、その評価が共通認識となる中、確実な実売を求めた結果が、ジャニーズ表紙です」(週刊朝日編集部に最近まで在籍した記者)

ジャニーズ多用に見る、週刊朝日の迷走

 昨年の週刊朝日の表紙のうち、半分以上はジャニーズなどのタレントが表紙だった。「ジャニーズを表紙にすれば数千部の実売増が見込める」(前述の朝日新聞出版関係者)ことから、表紙に多用したようだ。「『週刊朝日』が休刊へ『ジャニーズを表紙に使ってくれたのに』ファンから集まる悲鳴、22年は27冊が〝ジャニ表紙〟」(『FLASH』22年1月19日)が、ジャニーズ表紙を多用した週刊朝日が休刊することへのファンの哀しみの声を報じている。

 しかし、このジャニーズ表紙こそが、筆者の目には、週刊朝日の迷走に写る。女性読者や比較的若い読者を抱えるAERAがジャニーズ表紙を「雑誌の顔」としているのは、戦略性を伴ったものだ。しかし、週刊朝日の読者は男性でかつ高齢者が多いのだ。週刊朝日とはどんな雑誌ですかと聞かれて、ジャニーズが表紙の男性老人向け健康雑誌です、と言われても意味不明だろう。数千部の部数増は、雑誌を売らなくてはいけない側からすれば、大きな数字だ。であるなら、ジャニーズが表紙にある必然性を織り込んだ週刊朝日のコンセプトを構築しなくてはならないはずだった。しかし、雑誌づくりにおいて一番大事なそのコアを固める作業を、最後までやらなかった。

 今、週刊朝日は誰に買ってほしい雑誌なのかが社内で誰も分からず、戦略がまるでなく、目の前で高齢者しか買わないから高齢者向けの記事しかつくらないのであれば、「そりゃ、つぶれるわ」とため息もつきたくなる。

 週刊朝日に続いて休刊を発表した『週刊テレビジョン』(KADOKAWA)もジャニーズ表紙を多用したことで知られる。ファンの悲しみはひとしおであろうが、やはり作り手側には、「ジャニーズ」を使っておけばいいという安易な発想があったのではないか。週刊朝日元記者の話では、かつて現場への支払い(業務委託者への支払い、原稿料など)を一律30%カット(月額50万円を35万円に)などをしたのだという。そのリストラ策にメリハリはなく、当然ながら優秀な人材から外部へ流出していく結果になった。実際に、文春や新潮へと若くてモチベーションのある人たちは旅立っていったのだという。

 出版や週刊誌とは、人材によって成立する組織である。ダメな人材には申し訳ないが退場いただくにしても、企画立案に優れた中心人物は残しておかなければならなかったはずだ。危機に瀕して何の策も現場から生まれなかったのは、デスク(雑誌編集における中間管理職のこと)は朝日新聞からの出向組で原則占められていることなど、プロパー・出版社人材を軽視し、新聞社のやり方が週刊誌にも通じると考えた傲慢さに原因があるのではないだろうか。  朝日新聞と文春のオンラインニュースサイトを比較すれば、簡単に分かるが、自社ルールの多い新聞ジャーナリズムと自由な週刊誌ジャーナリズムは、まるで違う種類のものなのだ。

 たしかに、週刊誌をめぐる環境は厳しさを増している。ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー価格が今までにない上昇をみせた。そこに円安が重なり、原燃料価格が高騰した。雑誌を運ぶ輸送費用もさることながら、雑誌に使う紙の値段が年2〜3割という異常なペースで値上がりを続けているのだ。

 『月刊文藝春秋』の23年1月号の定価は、なんと1500円だ。「最近まで、定価は900円ぐらいではなかったか……」とびっくりして調べたが、約1年前の21年12月号は960円。約1年で1・5倍以上の値上がりを見せていることになる。余談ではあるが、かつて、出版流通で言われていたのは、「書籍は、社会の公器だから、流通費がほぼかからない」ということだった。しかし、この一連の雑誌不況で判明したのは、「大量に発行され、全国にばら撒かれる雑誌流通の空きスペースに書籍を載せることで経費を抑えていた。いま、雑誌の部数が激減したことで書籍向けの空きスペースそのものが減ってしまった。流通費の値上げは当然のこととして、週刊誌の発売日が全国同時にということはほとんど不可能な状態だ。今後さらに、ひどい状況になることが予想され、それが週刊誌の売り上げにとって、負の影響を与えるだろう」(大手出版社販売部長)ということだった。

 週刊朝日がつぶれたことで、ライバル誌の『サンデー毎日』(週刊朝日より部数が低い)や、筆者の知る限り、文春、新潮、現代、ポストのうち1誌は、本格的に週刊誌をつぶす検討に入っている。「週刊」と打っているが、経済週刊誌も含めて、月3回の発行が当たり前になってきた。業界のルールでは月2回刊までが「週刊誌カテゴリー」ではあるものの、読者にとっては分かりにくい。『週刊〇〇』と名乗らなくなる雑誌もでてくる日は近い。

編集者の知恵と工夫で部数増の高齢者雑誌

 週刊朝日の関係者を取材していると、週刊朝日だけでなく、高齢者向け雑誌は、お先真っ暗だ。若返ることは難しい。リベラルな立ち位置は、ビジネスとして難しい、と考えている人は多い。たしかにその通りの部分もあり、週刊朝日の誌面を今回改めて精査したが、非常に面白い企画やコラムもたくさんあった。これで売れないのであればしょうがないと思ってしまうのかもしれないが、プロ野球の名将・野村克也氏の「負けに不思議の負けなし」の格言通りに、知恵を絞ればなんとか生き残る方策はあったのではないだろうか。

 高齢者雑誌はお先真っ暗だというが、元気な高齢向け雑誌はある。その代表が『ハルメク』だ。日本ABC協会の22年上半期(1~6月)の雑誌発行社レポートによると、掲載誌全体の雑誌部数は平均10・3%のマイナスとなった中で、ハルメクは、前年同期比で14・8%増となり、44万2093部で最多部数を更新している。同誌は、山岡朝子編集長によって、14・5万部から44万部強へと躍進を遂げたのだ。読者アンケートを熟読した上で、読者が「いま何に困っていて、何に興味を持っているか」を知るために、毎⽉インタビューを実施している。徹底した読者目線を貫くことで部数はまだまだ伸ばせるということだ。

 若返りが無理というのも早計だろう。月刊文藝春秋は、新谷学編集長が、電子版サブスクを開始した。YouTubeと組み合わせた誌面展開を増やしている。紙の雑誌では健康や医療を押し出しつつも、電子版やYouTubeでは時事性の高いニュースについて知名度の高い著者が解説する体裁をとっている。部数の先細りは受け入れつつも、編集部としてさまざまなビジネスを展開させようとしている。

 リベラルなポジションが収益性に向いていないというのも事実と反している。青息吐息のライバルで保守系タブロイド紙・夕刊フジを尻目に、日刊ゲンダイはデジタル化にも成功した。誌面をどこのポジションに置こうとも最終的には読者に必要とされる存在であれば、収益化は可能ということだろう。

 週刊朝日の休刊は、週刊誌業界に大きなインパクトを与えたが、これは業界の構造不況を端的に表したものだ。「赤字」「特色がない」「副次的な収益(連載の単行本化、イベント、ブランド事業など)を生み出さない」という3重苦を抱えた順に、有名無名問わず週刊誌は消えていく運命にある。新しい収益をどこかで確保できるか。週刊誌にとって、最後の闘いが始まったのである。