経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

未来を夢見たあの日から半世紀 再び始まる挑戦と新たな物語

大阪万博が再び注目を集める。その始まりは1970年、日本が「進歩と調和」を掲げた未来への挑戦だった。半世紀が過ぎ、2025年大阪・関西万博は新たな課題と向き合いながら、世界に大阪から未来への新たなビジョンを発信しようとしている。この歴史的な舞台が、私たちにどのようなメッセージを届けるのかを探る。文=佐藤元樹(雑誌『経済界』2025年3月号「万博の夢と希望を、もう一度!」特集より)

人類の進歩と調和が生んだ未来への問いかけ

 1970年、大阪万博は「人類の進歩と調和」を掲げ、日本が高度経済成長期を駆け上がる中、戦後復興を果たした日本の力を世界に示す場となった。このテーマは、64年夏に文化人類学者の梅棹忠夫、社会学者の加藤秀俊、SF作家の小松左京らが発足させた「万国博を考える会」が提案したものである。この会では、万博を単なる国威発揚の場ではなく、未来への問いかけを行うプラットフォームとして機能させることを目指した。同年10月の第1回総会で議論を重ねた結果、「人類の進歩と調和」というテーマが提案され、翌年博覧会国際事務局(BIE)に提出された。

 このテーマは、戦後日本が持つ技術革新の象徴であると同時に、人間性や社会の調和を重視する価値観を示していた。会場では、宇宙船を模したパビリオンや岡本太郎の太陽の塔が話題を呼び、多くの来場者に「未来がすぐそこにある」という期待感を与えた。当時、多くの人々にとって「外国人を初めて見る」という体験も含め、万博は未来と世界の広がりを感じる象徴的な場となった。

 70年万博が日本社会に与えた影響は、今日も漫画や映画を通じて刻まれている。映画『クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲』では、昭和時代のノスタルジーが象徴的に描かれ、登場人物たちが「あの時代に戻りたい」と願う姿が印象的だ。劇中、しんのすけたち、野原一家が対峙する組織「イエスタデイ・ワンスモア」のリーダー、ケンは「お前たちが本気で未来を生きたいなら、行動しろ。未来を手に入れてみせろ」と語っている。この言葉は、単純に未来を信じられた時代のアンチテーゼであるとともに当時の人々の幸福感を示している。

 また、漫画『20世紀少年』では、70年万博が少年たちにとって「輝かしい未来」の象徴として描かれる。主人公ケンヂたちが万博のロボットや未来技術に憧れるシーンは、当時の日本社会が抱いた未来への期待を反映している。物語の中では、「ともだち」とその組織によってその希望が裏切られる現実が描かれる。この構図は、万博が抱える普遍的な課題と未来への問いかけを鮮明に浮き彫りにしており、理想を現実にどう生かすかを問いかけるテーマとなっている。

万博が未来社会に挑む場として進化する

 2025年、再び大阪で開催される大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げる。このテーマには、現代社会が抱える課題、気候変動、資源の枯渇、社会的格差の拡大に対する解決策を模索し、未来への希望を提示する意図が込められている。1970年の万博が技術革新と経済成長を前面に出していたのに対し、今年の万博は持続可能性、共創共栄、多様性を中心に据えている。

 詳しくは、この後のインタビューに掲載されているが、小山薫堂氏がプロデュースするパビリオン「EARTH MART」では、「いただきます」という命への感謝を通じ、他者や自然とのつながりを考える仕掛けが用意されている。命の大切さを食を通じて伝えることで、未来を形作る意識を次世代へと引き継ぐ狙いがある。

 2025年万博の成功は、イベント終了後の「レガシー」構築にかかっている。

 直近で開催された20年ドバイ万博(新型コロナウイルスの影響で21年に延期)は、「Connecting Minds, Creating the Futur

e(心をつなぎ、未来を創造する)」をテーマに掲げ、192カ国が参加し、2400万人以上の来場者を記録した。この万博は、持続可能な未来社会を目指す上での成功例として注目されている。特に、ドバイ万博後に会場跡地が「District 2020」として再利用され、スマートシティのモデルケースとして機能している点は重要である。持続可能性を追求し、国際企業や研究機関の拠点として活用されることで、万博が地域社会や国際社会に長期的な価値を提供することを証明した。

 2025年大阪・関西万博の開催地・夢洲では、万博後も「未来志向のスマートシティ」を目指したまちづくりが進行中。大阪市主導の「夢洲まちづくり構想」に基づき、再生可能エネルギーや高度な都市インフラの活用を通じて、持続可能な次世代都市の実現を目指している。

 例えば、再生可能エネルギーを使ったエネルギー供給システムや、エネルギー効率の高い建物の整備が計画されている。また、自動運転バスや電気自動車(EV)を普及させることで、環境に優しい移動手段を広げ、カーボンニュートラルな未来の実現を目指している。

 さらに、統合型リゾート(IR)の開発が進行中で、観光施設や国際会議場、ホテルを整備し、夢洲をはじめ大阪全体を世界中の人々が集まる場所にする狙いがある。これにより、万博が終了後も地域経済や社会に影響を与え続ける「レガシー」としての役割を果たすことが期待されている。

 また、万博が単なる展示イベントにとどまらず、社会課題を解決する「実験場」として機能することが期待されている。

 25年大阪・関西万博は、ドバイ万博の成功事例を踏襲し、終了後もスマートシティとしての機能を発揮することが期待されている。さらに、そのレガシーは30年サウジアラビア・リヤド万博にどう引き継がれるのか。敷地面積約6平方キロメートル(甲子園球場約154個分)というリヤド万博では、新たな未来像が描かれるだろう。『クレヨンしんちゃん』や『20世紀少年』が示すように、万博は過去と未来を結びつけ、次世代の行動を促す重要な場である。

 「未来を試す実験場」としての万博は、単なる過去の遺産ではない。次世代に何を引き継ぎ、どのような行動を促すか。大阪が再び世界に挑戦するこの舞台で、私たちはどんな未来を描くべきなのだろうか。