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ついに開幕した大阪・関西万博は大阪IRの呼び水となるか!?

大阪・関西万博を機に、夢洲が国際都市・大阪の未来を担う一大拠点へと変貌を遂げようとしている。IR(統合型リゾート)を核とした大規模開発で、年間1兆1400億円の経済波及効果、9・3万人の雇用創出が見込まれる。夢洲は関西経済に新たな活力を生み出す起爆剤となるか。文=佐藤元樹(雑誌『経済界』2025年6月号より)

夢洲、世界が注目する変貌。万博を機に国際拠点へ

 大阪・関西万博が開幕した。原稿執筆時はまだ開催前だが、大阪の街中では至る所に万博のポスターが掲示され、電車やバスは万博の公式キャラクター「ミャクミャク」やロゴでラッピングされている。万博期間中の宿泊需要を見込みホテル料金は高騰しており、一部報道では「通常の3倍以上の価格になっているホテルもある」。それでも稼働率は80%に達し、閉幕までは需給のひっ迫が想定されている。

 万博の会場となる夢洲はかつて、大阪湾に浮かぶ人工島として造成され、主にごみ処分場として使われてきた。バブル崩壊後には再開発計画がたびたび浮上しては消え、いつしか「負の遺産」と揶揄されていた。

 その夢洲が万博の舞台となる。期間中2820万人が来場し、経済効果は約3兆円に達すると見込まれる。もっとも万博はわずか半年間で幕を閉じるが、その後に控えているのが、日本初のIR(統合型リゾート)というプロジェクトだ。

 IRはIR整備法に基づき、カジノ、ホテル、国際会議場などが一体運営される複合観光施設で、2030年秋頃夢洲に誕生する。運営はMGMリゾーツとオリックスが出資する大阪IR株式会社、初期投資額は約1兆2700億円だ。

 大阪府・市によると国内外からの観光客を誘致し、地域経済の活性化、雇用創出、税収増など、年間1兆1400億円の経済波及効果と9万3千人の雇用創出が見込まれる。

 モデルとしているのがシンガポールのIRだ。シンガポールでは10年にマリーナ・ベイ・サンズとリゾート・ワールド・セントーサの2つのIRが相次ぎオープンした。2000年頃には700万人程度だった外国人旅行者が、コロナ前の19年には1900万人へと2・7倍に増加。国際会議や国際見本市(MISE)の誘致に成功している。

 大阪IRもそれを目指す。IRにより都市の魅力が向上すれば、今まで以上に世界から人の集まる国際都市となる。これにより、大阪のみならず、関西、そして日本全体を活気づけることが期待される。

 一方で、IRに対しては、ギャンブル依存症や治安悪化といった懸念の声もある。

 大阪府が設置した「特定複合観光施設区域整備計画審査委員会」による夢洲におけるIRの「依存症対策」の評価は、150点満点中90点。及第点ぎりぎりだった。しかも条件付きの合格で、同委員会からは、ギャンブル依存症対策として以下の3点の注文がついた。

 ①実効性のある依存症対策に取り組むこと②依存症の疑いがある人の割合を調査し対策を定期的に見直すこと③大阪府・市と大阪IRが連携して必要な措置を講じること――。

 この条件をクリアするために、大阪IRでは、「大阪IRと府・市が役割を分担して対策を行う」、「大阪IRは担当エリアでの対策に加え、府が広い範囲をカバーし、大阪IRの監督や調査研究も行う」と定め依存症対策に年間9億円を費やすとした。

 具体的には、IR整備法に基づき、日本人と国内在住外国人の入場回数を制限(7日間で3回、28日間で10回)、入場時にマイナンバーカードで本人確認と6千円の入場料徴収を行う。また、青少年への教育、24時間365日対応の相談施設の設置、民間支援団体との連携、MGM社の「責任あるゲーミングプログラム」導入、貸付業務の制限、広告制限、排除プログラム制度、医療機関の情報提供など多岐にわたる対策が計画されている。

 今後の5年間で、こうした施策をいかに実効あるものにできるかどうかが、大阪IRの成功のカギを握っている。

夢洲の未来を拓く、跡地利用計画

 もっとも、大阪IRの敷地面積は約49ヘクタールにすぎない。夢洲全体の面積は約390ヘクタールであり、IRが占めるのはそのわずか13%程度だ。夢洲を有効活用するには、約155ヘクタールの万博跡地をいかに生かすかがカギとなる。

 万博閉幕後の跡地活用について大阪府・市は、24年9月から12月にかけて、民間事業者から夢洲第2期区域における土地利用に関する提案を公募し、今年3月に2つの優秀提案を選定した。この提案を軸に、夢洲第2期区域のマスタープラン策定が進んでいる。

 ひとつは関電不動産開発や京阪ホールディングス、住友商事、吉本興業ホールディングスなどで構成される「夢洲まちづくり提案グループ」で、「夢洲スマートシティ」をテーマに、国際的なエンターテインメント拠点と未来型都市の融合を目指す。

 もうひとつは大林組主導のチームによるもので、「夢洲ウェルネスシティ」をテーマに、健康とウェルビーイングに焦点を当てた都市開発を目指し、医療施設や研究機関、スポーツ施設などを整備し、健康寿命の延伸や医療ツーリズムの推進を図るとしている。

 両案ともに、F1誘致も視野に入れたサーキットの建設が盛り込まれている。その理由は、サーキットはIRがターゲットとする富裕層や海外VIPとの親和性が高く、相乗効果が期待できるためだ。

 また、世界最大級のウォーターパークなど大型レジャー施設も両案に共通するが、これはインバウンドやファミリー層をターゲットとした通年型の観光コンテンツであるためだ。万博開催にあたり整備された再生可能エネルギーやIoTなどの先進的な都市インフラは、跡地に整備される新施設にも引き継がれ、より効率的で持続可能な施設運営に活用されるだろう。

 万博会場として整備された都市機能に加えて国際的な注目が集まってことは、IRにとって強力な追い風となる。世界各国からの来場者が一堂に集まるこの機会を捉え、IRの認知拡大と将来的な集客基盤づくりを進める動きがある。