経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

総合スーパーは伸び悩みも存在感を高めるイオン別動隊

最近街中で、車体に「Green Beans(グリーンビーンズ)」と書かれたクルマをよく見かける。あるいは小型スーパー「まいばすけっと」の店舗も増えている。いずれも日本一小売業・イオンのグループ会社が展開する。なぜ増えているのか。その戦略はいかなるものなのか。文=ジャーナリスト/下田健司(雑誌『経済界』2025年10月号より)

スーパーより便利でコンビニより安い

 首都圏でじわじわと存在感を高めている食品スーパーがある。流通大手イオンの子会社まいばすけっと(千葉県)が「都市型小型食品スーパー」と位置づける「まいばすけっと」だ。店舗数は東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県で1204店舗(2025年2月末)に達しており、とくに東京23区や神奈川県の商店街や住宅街で看板を見かけることも増えてきた。

 店舗では、コンビニエンスストア程度の売場に、生鮮・日配・加工食品などが揃えられている。品揃えは一般の食品スーパーには劣るものの、日常生活で必要な一通りの食品がコンパクトにまとめられており、利便性が高い。しかも、価格が安いことから、消費者の支持を集めている。

 まいばすけっとは、イオン傘下でGMS(総合スーパー)を手がけるイオンリテールが都市部の需要を獲得しようと05年に1号店を出店した。神奈川県横浜市・川崎市、東京都品川区・大田区で多店舗出店を開始し、徐々に出店地域を拡大してきた。21年に千葉県・埼玉県に初出店。店舗数は14年に500店舗、22年に1千店舗に達した。

 25年2月期の売上高は2903億円。21年2月期1994億円から、4年で1千億円を積み上げている。

 首都圏では大手食品スーパー各社がシェア競争を繰り広げている。売上規模を見ると、オーケー7千億円、ヤオコー6千億円、ライフコーポレーション4千億円、サミット3500億円。まいばすけっとはこれら大手に次ぐ売上規模になる。

 まいばすけっとが黒字転換したのが10年代半ば。1号店出店から10年ほどを要した。それ以後は収益を拡大し、25年2月期の営業利益は81億円で、前の期の74億円から8・6%伸ばした。営業利益率は2・8%で、食品スーパー業界平均を上回る。イオングループで見ると、母体となったイオンリテールの営業利益が79億円。SM(食品スーパー)事業会社では、マルエツやカスミなどを傘下に持つユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスが59億円。マックスバリュ東海が140億円、フジが129億円となっており、グループの中でも存在感を高めてきている。

 小型食品スーパーではイオングループのマルエツが「マルエツプチ」を展開していたり、コンビニが生鮮品を強化した店舗を増やしたりしているが、どちらも拡大はしていない。

 まいばすけっと成長の要因には、地域集中出店、低コストの店舗運営、イオングループのインフラ活用などがある。出店立地は駅周辺、オフィス街、住宅街などさまざま。コンビニや外食店などの退店跡地への居抜きも多い。駅前の一等地ではなく、商店街の中や駅から離れた住宅街の中などにも店舗を構えている。二番手立地での居抜き出店で運営コストを抑えるとともに、一定エリアへの集中出店で物流効率を高めるねらいがある。

 食品スーパーで一般的な特売は行わないのも低コスト運営施策の一つだ。特売に備えた仕入れ量の変動や作業コスト増を避け、売場や作業の標準化・平準化を行い、常に安い価格で販売している。直営店の強みを生かし、繁盛店となった店舗の近くには別の店舗を出店して、自社競合を見越した上で、そのエリア全体としてのシェア向上を図っている。

 創業当初からイオングループの物流施設を活用するほか、生鮮加工や食品製造についてもグループの既存施設を一部活用している。こうしたグループのインフラを活用できたことも、売上・利益の成長につながったと言える。

 イオンの吉田昭夫社長は25年2月期の決算説明会で、まいばすけっとについて言及し、グリーンビーンズ、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスなどと並ぶ、イオンの首都圏戦略の柱の一つと位置づけた。分厚いマーケットを持つ首都圏でイオングループとしてシェア向上を図るねらいだ。「まいばすけっとは近さと価格の安さで成長している。コンビニに対し競争力をつけ、安定的に利益を創出できるようになった。現在の約1200店舗を30年度に2500店舗に増やし、将来的には5千店舗を目指す」と述べた。

 まいばすけっとは年間100店舗程度の出店を続けてきたが、30年度に2500店舗を達成するには年間200店舗程度に出店数を引き上げる必要がある。現在の約1200店舗のうち千葉県は15店舗、埼玉県は10店舗にとどまっており、東京都、神奈川県が店舗の大半を占める。千葉、埼玉の両県に出店余地があると言えるが、地域集中出店からすると、出店の重点エリアは東京、神奈川になりそうだ。

グリーンビーンズは会員数増も赤字拡大

 首都圏戦略のもう一つの柱としているネットスーパー、グリーンビーンズはどうか。

 グリーンビーンズは、イオンがネットスーパー専業大手の英オカドグループと提携して23年7月に開始した倉庫出荷型のネットスーパーで、イオン子会社のイオンネクスト(千葉県)が運営する

 イオンは店舗出荷型のネットスーパーを傘下の事業会社が手がけているが、グリーンビーンズは店舗の在庫商品から配達するのではなく、すべて倉庫から配達する。対象地域を東京・千葉・埼玉・神奈川の1都3県に限定。東京23区からスタートし、徐々にサービス提供エリアを拡大してきている。

 オカドは世界各国の小売業にネットスーパーの自動化倉庫や配送システムの技術を提供している。新設の物流拠点「誉田CFC(顧客フルフィルメントセンター)」(千葉県)では、自律走行ロボットによる商品のピックアップ、自動梱包、AIによる最短の配送ルート算出などオカドのデジタル技術を活用している。

 強みとして打ち出しているのが鮮度だ。物流施設内は冷蔵・冷凍・常温の3つの温度帯で管理され、商品の劣化を防いでいる。一部商品は「鮮度+(プラス)」と名づけ、配達から1週間後も鮮度を保証している。

 配送については、外部業者への委託ではなく、イオンネクストと物流会社のSBSホールディングスが出資するイオンネクストデリバリーが担う。SBSの技術とノウハウを提供する。外部のノウハウを活用しながら自前で行うのが特徴だ。配送網は誉田CFCをハブ(中心拠点)としてスポーク(各地域の拠点)を配置する「ハブアンドスポーク」方式を採用している。受取時間は、多くのネットスーパーでは2時間ごとに時間帯を指定するが、1時間ごとに指定できるようにし利便性を高めている。

 物流拠点については、26年度に「八王子CFC」(東京都八王子市)、27年度に「久喜宮代CFC」(埼玉県・宮代町)を稼働させ、配送網を拡大する計画だ。久喜宮代CFCは最先端の自動化技術を導入し、誉田CFCの2倍の供給能力を備える。これにより1都3県の主要エリア最大約1500万世帯への配送をカバーする。

 配達エリアの拡大とともに会員数も増えている。生鮮品の鮮度や1時間ごとの配達時間枠などが支持され、会員は30代以下が3分の1以上を占めるなど若年層が多い。会員数はサービス開始から1年たった24年7月に21万人を突破した。25年7月には60万人を突破している。次に目指すのは会員数100万人超えだ。

 イオンネクストは売上高を公表していないが、30年度に4千億円を達成する目標を掲げている。イオンによると、バスケット単価は約1万円。会員数については計画を上回るペースで拡大を続けており、さらに獲得が進めば可能な数字だろう。

 決算公告によると、25年2月期の最終損益は150億円の赤字で、前の期の106億円の赤字から拡大した。新設を計画する物流拠点への投資がかさみ収益化は先になりそうだ。

 国内にあるネットスーパーは店舗出荷型にしろ、倉庫出荷型にしろ、採算ベースに乗せるのが難しく、収益化が課題となっている。イトーヨーカ堂は23年に専用の物流施設を開設したものの、24年にネットスーパー事業からの撤退を発表した。

 イオンネクストが収益化するためには、売上規模の拡大はもちろん、粗利益率の高い商品の取り扱いを増やすことが必要となる。プライベートブランド拡販や非食品・物販以外のサービスの拡大がポイントとされている。

小売事業の稼ぎ頭はドラッグストア

 まいばすけっとやグリーンビーンズを首都圏戦略の柱に掲げたイオンだが、目下のところ事業セグメントで見た場合に最も有望視されるのがドラッグストアだ。

 イオンの事業セグメントは、GMS、SM、DS、ヘルス&ウエルネス、総合金融、ディベロッパー、サービス・専門店、国際の8つ。

 イオンの営業収益(売上高に相当)は10兆1348億円(連結)。このうち3割超を占めるのがGMS事業(3兆5594億円)だが、営業利益は163億円にとどまる。営業利益が高いのは、銀行・クレジットの総合金融(611億円)、ショッピングセンター開発・運営のディベロッパー(530億円)などの非小売事業だ。連結営業利益2377億円の5割を非小売事業が占める。

 小売事業で最も営業利益を稼いでいるのがドラッグストアのヘルス&ウエルネス事業(360億円)だ。主要会社はドラッグストア業界首位のウエルシアホールディングス(HD)で、イオンは2014年に連結子会社化して利益を取り込んできた。

 ウエルシアHDは08年の設立後、M&A(合併・買収)を繰り返し、売上・利益の規模を拡大してきた。25年12月には、イオンが3割弱を出資しているツルハHDと経営統合する予定だ。ウエルシアHDはツルハHDの完全子会社となり、イオンはツルハHD株式を追加取得し連結子会社化する。経営統合により、売上高2兆円を超える国内最大のドラッグストア連合が誕生する見通しだ。

 イオンはこれによりツルハHDの売上・利益を取り込むことになる。ツルハHDの25年2月期(9・5カ月変則決算)の連結売上高は8456億円、連結営業利益は378億円だった。ドラッグ連合はヘルス&ウエルネス事業の営業利益を大きく押し上げることになる。ドラッグストア業界は再編が続いており、このドラッグ連合がさらなるM&Aを続けていけば、イオンで最も稼ぐ事業となる可能性がある。