2013年度の営業利益が1兆円を達成する見通しにあらためて自信を示した孫社長。日本ではトヨタ自動車、NTTに次ぐ3社目の快挙。米通信大手のスプリント・ネクステルの買収が秒読みになった今、ソフトバンクの今後を予想する。 (本誌/古賀寛明)
孫社長が自らを「大ボラふき」と揶揄する理由
6月21日、ソフトバンクの株主総会が東京・有楽町の国際フォーラムで開かれた。進行役の孫社長が壇上で経営方針について話し始めると、その背後のスクリーンに現れたのは「大ボラふき」の5文字。
創業時には「売り上げを豆腐のように1兆、2兆と数える」とミカン箱の上で宣言し、現在3兆円を超える売り上げで、ソフトバンクはその目標を既に超えた。また、赤字寸前のボーダフォンジャパンを買収した時にも、「10年以内にNTTドコモを超える」と宣言し周囲を唖然とさせたが、これも先月時価総額で、NTTドコモを凌駕し、大ボラを現実のものとした。
営業利益が1兆円を超えれば、名実ともに国内首位の座は確実になる。
孫社長にとって、大ボラをふくのは、大きなビジョンを持っていることの裏返しだという。つまり、発言した時には夢物語でも、勝算を持って確実に達成してきた事実が自信を生み、自らを「大ボラふき」と揶揄する余裕を生みだしているのだ。
既に名経営者という呼び声が高い孫社長が、わざわざ自信を示さなければならない理由とは何か。
昨年10月に仕掛けた米携帯電話事業第3位のスプリント・ネクステル(以下、スプリント)の買収がそれだ。
もともとスプリント社については、証券会社などから買収先を求める声が上がっており、当初ソフトバンクと、ライバルのKDDIに打診があったというが、両社ともにさほど興味を持つ案件ではなかった。
しかし、ソフトバンクの成長戦略がアジアから、いまだ成長の見込める米国の巨大市場にシフトしたことでスプリント買収を決断。交渉は順調に進んでいたが、状況が一変する。
今年4月に米衛星放送会社のディッシュ・ネットワーク(以下、ディッシュ)がスプリントの買収に手を挙げたのだ。ソフトバンク側の当初の提示額201億㌦(約1・6兆円)を上回る255億㌦(約2・5兆円)の買収案を出してきた。しかし同業であるソフトバンクとの長期的な戦略や15億㌦を上積みする姿勢から、スプリント側はソフトバンクを支持。ついにディッシュ側も6月18日に提案を取り下げた。金額も15億㌦積み上げた216億㌦で決着する見込みだ。
ちなみに、当初示した買収総額の約201億㌦は、1㌦=82・2円で為替予約されているが、追加で上積みした分については、1㌦=98円で計算するので、日本円では総額1・8兆円にもなった。
しかし、まだ問題は残っている。スプリントの買収をあきらめたディッシュ側は、矛先をスプリントが半数の株を持つ無線ネット接続会社のクリアワイヤに絞ってきたのだ。高速通信向けの周波数を持つ同社は、今回のスプリント買収の胆になっており、公開買い付けで影響力を持とうとするディッシュ側との駆け引きが続く。
株主総会で、孫社長は今朝入ったうれしいニュースとして、「クリアワイヤの取締役会もスプリントとの合併を正式に支持し、ディッシュの公開買い付けを中止した」と状況が好転したことを喜んだ。ディッシュ側の1株4・40㌦での公開買い付けに対し、スプリント側も1株5㌦での買い取りの姿勢を示したため、クリアワイヤの取締役会側が変化したと考えられる。
許認可も残すは連邦通信委員会(FCC)のみで、まだディッシュの出方が気になるが、うまくいけば7月上旬には正式に買収を完了させる見込みだ。
この買収で、移動体事業の売上高は、中国チャイナモバイル、米ベライゾン・ワイヤレスに次ぐ世界第3位の通信会社に躍り出る。
孫社長の新たな大ボラは「世界一の会社になること」
ただし孫社長にとって、この買収はスタートラインに立ったにすぎないという。
強気の理由は、インターネット市場はPCからスマートフォン(スマホ)やタブレット端末に移っており、ソフトバンクのモバイルの営業利益率は50%と群を抜くからだ。
傘下の企業も絶好調で、昨年経営陣が40代へと一気に若返ったヤフージャパンは「スマホファースト」、「爆速」をキーワードに2ケタ成長を遂げた。
また、実弟の孫泰蔵氏が率いるガンホーも「パズル&ドラゴンズ」が世界的にヒットし、一気にモバイル世界一のゲーム会社になった。他にも中国のECサイト、アリババが急成長を遂げるなど、はたから見ても絶好調なソフトバンクグループ。本当に死角はないのだろうか。
孫社長は、今後の成長に自信を示すが、一方で「日本ではヤフージャパンが稼いだお金でソフトバンクを支えていた。スプリントで、もし追加資金が必要になった時、それをどこから調達するのか」(ソフトバンク関係者)。また、「マネジメントの部分でも(スプリントに対し)積極的に関与するということが吉と出るとは限らない」(同)との声も上がっている。
しかし最大のネックは株主総会でも質問に上がったが、孫社長の後継者問題であろう。
大ボラを実現してきた孫社長だけにいわゆるカリスマ化している。それだけに「もし、孫社長に何か……」あった時にどうするのか。
孫社長を補佐する宮内謙、笠井和彦両氏は孫氏より年長であり、あくまで優秀な補佐役だ。アカデミアを設け「次世代育成」を行っているが「孫社長が本気だとは思えない」(グループ会社幹部)との声も上がる。
「体調には何の問題もない」と自信を示すが最大のアキレス腱は孫社長自身のようだ。
今回孫社長の新たな「大ボラ」は、期限は設けていないが時価総額、売上高、利益などすべての面で、「世界一の会社になること」。
世界一になるためには、NTTドコモの買収すらあり得るとする。まずは世界進出の第一歩、スプリントの業績に注視したい。
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