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静かに動き出した日本経団連ポスト米倉体制の行方

経団連の米倉弘昌会長が2期4年の任期最終年を迎えた。最大にして最後の課題は後任選びだ。米倉氏が掲げる条件は国際派、製造業出身、それに経団連活動に熱心なこと。〝次期財界総理〟をめぐる後継レースが始まった。 (ジャーナリスト/梨元勇俊)

東芝西田氏の思惑

今年1月、財界内部で米倉氏の勇退説が水面下で取り沙汰された。理由は氏の体調不良だ。持病の腰痛が悪化し、長時間立っていると激痛が走るようになった氏は体重を減らすようにという医師のアドバイスを受けて昨年12月頃からダイエットに着手した。好きな酒を断ち、主食はもちろんカロリーの高い副食も一切とらないという食事制限を始めたのだ。宴席もできるだけ入れず、どうしても欠席できない席ではフルーツをつまむ程度という徹底ぶり。その甲斐あって1カ月で約10㌔の減量に成功し、一時はスーツの上着がだぶだぶになるほどだった。

しかし、急激な体重変化に加え栄養摂取を制限したためか、体の抵抗力が落ち12月下旬にかぜのウイルスに倒れてしまう。年明けには復帰したものの、氏の体調をおもんぱかり都内のホテルで開かれた経済3団体主催の賀詞交歓会では入り口で招待客を出迎える立礼が省略された。来賓として迎えた安倍晋三首相のスピーチも壇上に設営された椅子に座って拝聴した。目立たぬよう3団体の残り2トップである日本商工会議所の岡村正会頭と経済同友会の長谷川閑史代表幹事も米倉氏に合わせたが、立礼省略も壇上の着席も異例の事態と言ってもいい。

そんな様子を見ていた経団連副会長らの間で急浮上したのが米倉会長早期禅譲説だった。後任候補として東芝の西田厚聰会長の名前まで上がったが、米倉氏に言上する人がいない。先輩にあたる会長OBたちは「私の口からそんなことは言えない」と逃げてしまった。そうこうするうち、周囲から禅譲の話が米倉氏の耳に入ってしまう。当然のことながら米倉氏は面白くない。西田氏に禅譲する話は自然と立ち消えになった。

それが今年2月26日の東芝の異例の社長交代会見の伏線になったと解説する向きもある。東芝は6月下旬の定時株主総会で新任の社長に田中久雄副社長が昇格。佐々木則夫氏が副会長になり、西田氏は来年の株主総会まで1年間、会長職にとどまる。交代会見には3氏が揃って出席し、記者の質問に佐々木氏と西田氏が別々に答えるという異様さだった。佐々木氏は6月4日の経団連の定時総会で経団連副会長に就任、今年1月から政府の経済政策の司令塔である経済財政諮問会議の民間委員も務めている。同じ定時総会で西田氏は経団連副会長を退いており、通常なら現社長の佐々木氏に会長職も譲るのが普通だ。だが西田氏は同社の社長指名委員会の委員長として「後任には田中君がふさわしい。佐々木君は財界活動に専念してもらい、私が新社長を補佐する」と話した。

経団連の会長になるには「就任時に副会長などの役職を務め、かつ出身企業の会長か社長在任者」という条件がある。事情通は〝ポスト米倉〟を逃した西田氏は、佐々木氏を東芝の副会長に祭り上げることで、佐々木氏が経団連会長になる道を閉ざしたのではないかと語る。

功成り名遂げた財界人にとって、それほど「財界総理」は魅力ある地位らしい。民主党政権の発足を機に会員企業に対する政治献金の斡旋廃止を決め、政治に対する圧力の源になっていた「カネ」の力を放棄した経団連だが、個別企業のほかに主要業界も会員として加わっていることから産業界の幅広い声の代弁者としての役割を担う。民間外交団を組んで海外に出れば、日本の経済界の代表とみなされる。

本命は日立の川村氏だが

それでは肝心の次期会長レースはどうなるのか。前述の内規のほか、米倉氏は後任には「モノづくり企業のトップが(会長になることに)説得力がある」と語っている。大手製造業は下請けや関連企業など裾野が広い。それぞれとのすり合わせを原点に協力関係を構築してきた経験が、経団連会長には不可欠というのだ。

年齢には「全然こだわらない」とも言う。経営トップになる人物は体力も人並み以上だ。一方、安倍首相をはじめ、オバマ米大統領、プーチン露大統領など世界の主要国の政治家はみな50代以下であることから「政治家の先生が若くなってくると元気ハツラツな人も必要になってくる」とも話す。

これらの条件で現在の経団連の副会長の中から会長候補を探すと、最右翼は日立製作所の川村隆会長(73歳)になる。高齢であることを懸念する見方もあるが、決定的な阻害要因にはならないはずだ。実際、安倍内閣が標榜するインフラ輸出の旗振り役で、業績も好調だ。連結売上高も9兆円と東芝をはるかに凌駕している。対抗は三菱重工業の大宮英明会長。旧財閥の中核企業で一般消費者より企業間取引の事業がメーンであることを問題視する人もいるが、同社の業績は堅調だ。

今年の新任副会長3氏も製造業出身で過去に経団連会長を輩出した名門企業だが、このうち新日鉄住金の友野宏社長は同社の三村明夫相談役が日本商工会議所会頭に就任するため1企業から2団体のトップを出すことはないとみられる。前述した東芝の佐々木則夫社長やトヨタの内山田竹志副会長も条件に合わない。

製造業出身者にこだわらなければ、会長候補はさらに広がる。豊富な国際人脈を持つ三菱商事の小島順彦会長は「商事は打診があれば断らない」と目されているし、旧日経連の会長会社を務めた日本郵船の宮原耕治会長も安定感がある。

会長就任の打診を受けた副会長たちが次々に就任を断っても、経団連の諮問機関である審議員会の議長・副議長たちが控えている。米倉氏自身も評議員会(当時)議長から御手洗冨士夫前会長に「あなたしかいない」と起用された口だ。旧財閥系からは会長を出さないという慣例も、住友化学から米倉氏が就任したことで破られた。

そうしてみると経団連幹部なら誰にでも会長になるチャンスがある。「誰でもいいんです。理由は後でいくらでも付けられますから」(経団連職員)というところが本当かもしれない。「あと6、7カ月のうちに決めたい」と米倉氏。後任は今年の年末にも決まる見通しだ。

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