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世界初、涙腺の再生が実証された!~ドライアイの根治的治療へ向けた、大いなる一歩~

老けるな!日常生活のメディカル冒険

坪田一男(つぼた・かずお)慶応義塾大学医学部教授。1955年東京都生まれ。慶応義塾大学医学部卒業後、日米の医師免許取得。米ハーバード大学にて角膜フェローシップ修了。角膜移植、ドライアイ、屈折矯正手術における世界的権威。再生角膜移植のほか、近視・乱視・遠視・老眼などの最先端の治療に取り組む。近年は研究領域を抗加齢医学=アンチエイジング医学に広げ精力的に活動。日本抗加齢医学会理事、日本再生医療学会理事など。著書に『老けるな!』(幻冬舎)、『長寿遺伝子を鍛える』(新潮社)、『ごきげんな人は10年長生きできる ポジティブ心理学入門』(文春新書)ほか多数。

 

ドライアイ根治の可能性が見えてきた!

 現在、日本におけるドライアイ患者は800万人以上。予備軍も含めると2200万人に達するといわれている。僕自身、学生の頃からドライアイに悩まされてきた1人だ。

 当時はまだドライアイという言葉すらあまり知られていなかったが、今ではほとんどの人がその名を知っている。原因やメカニズムを探る研究も、治療法も昔に比べれば目覚ましく進化している。お陰で、ドライアイになっても適切なケアをすることでかなり快適な生活を送れるようになってきたが、現状としては、あくまでも人工類液の点眼といった対症療法が中心だ。

 そこで、何とかして根治治療の道を拓きたいと考え、研究を続けてきたのだが、このたびわが慶応義塾大学医学部眼科教室では、東京理科大学・総合研究機構の辻孝教授、株式会社オーガンテクノロジーズとの共同研究により、マウスによる実験で機能的な涙腺の再生に世界に先駆けて成功。10月1日付で英オンライン科学誌『Nature Communications』に掲載されたので、ぜひご紹介したい。

 そもそも、再生医療は角膜移植の分野からスタートしていることをご存じだろうか? 実はこれも、当時僕が在籍していた東京歯科大学の研究チームによるものだ。

 けがや病気で角膜が傷ついて失明してしまった場合、視力を取り戻す唯一の方法は角膜移植だ。しかし、これにはある条件がある。角膜の一番外側の層である角膜上皮細胞の「幹細胞」が健在であるということだ。

 「幹細胞」というのは、特定の器官や組織の細胞を作るモトとなる特殊な細胞のことで、皮膚には皮膚幹細胞、肝臓には肝幹細胞、角膜上皮には角膜上皮幹細胞が存在する。

 例えば、目に薬品を浴びるような事故で角膜上皮の幹細胞まで失ってしまった場合、角膜上皮が再生されないので、角膜移植をしても角膜を健全に保てない。つまり、視力を取り戻すことができない。

 それなら、両眼のどこか一部にでも残っている角膜上皮の幹細胞を取り出して培養し、新しい上皮を作って移植すればいいじゃないか、というわけで行ったのが「角膜上皮の幹細胞移植」だ。これが後に「世界初の幹細胞移植に成功!」と世界中のメディアに取り上げられて大反響となったのだが、僕たちにしてみれば、目の前の患者さまを救いたい一心だった。今回の涙腺再生の成功も同じだ。

自分の細胞で壊れた涙腺を再生しドライアイを根治

 ドライアイとは、何らかの理由で涙腺の機能低下が起こり、涙の量が減少したり、涙の質が変化したりして、目の表面を覆っている涙のカーテンに異常が起きて目の表面の健康が損なわれた状態のことだ。

 その原因としては、長時間のパソコン作業や加齢などの環境的要因がよく知られているが、他にも、シェーグレン症候群やスティーブンス・ジョンソン症候群といった内科的要因もある。

 特に、スティーブンス・ジョンソン症候群の場合は、涙腺が完全に壊れてしまい、涙がつくれなくなる。そのため、透明な角膜や結膜組織が皮膚化して失明してしまうのだが、こうなると、もう角膜移植をしても治らない。涙腺が壊れているため、せっかく移植した角膜を透明に保てないからだ。

 そこで、涙腺を再生するために注目したのが、次世代の再生医療として期待されている「臓器置換再生医療」。ダメージを受けた臓器・器官を人為的につくった器官と置き換える方法だ。

 研究チームは2009年にはマウスを使った実験で、生体外で再生した歯のタネ(器官原基)を生体に移植し、天然の歯と同等に機能する歯の再生に成功。12年には機能的な毛包の再生が可能であることも実証している。

 そして13年、これらの技術を応用して涙腺の再生に成功。同時に、涙の油分を分泌するハーダー腺(人間でいえばマイボーム腺)の再生にも成功したというわけだ。正常な天然の涙腺・ハーダー腺と同等の質・量の涙をしっかり分泌して、目の表面を保護することも確認されている。

 より高度な視覚情報社会へ、超高齢社会へと突き進む中、ドライアイの根治的治療は、大きな課題のひとつだ。今回の研究成果は、iPS細胞による涙腺再生にもつながる大いなる一歩と言えるだろう。今後は臨床応用化へ向けて、さらに研究を推進していくので、今後の成果にぜひご注目を!

★今月のテイクホームメッセージ★

 再生医療は日進月歩で進んでいる。今後の展開にご注目を!

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