その後天下を大いに賑わせることになる、フジテレビを舞台とする中居正広氏の不祥事が明るみに出たのは2024年末のことだった。以来1年。フジテレビの経営体制は一新され、スポンサーも戻ってきた。その一方で新たなる不祥事も発覚。本当に生まれ変わることはできたのか。文=ジャーナリスト/一木悠造(雑誌『経済界』2026年2月号より)
スポンサー復活も赤字からは抜け切れず
「いまのフジの経営体制はもはや清水賢治社長体制だ」
フジ・メディア・ホールディングス(以下FMH)関係者がいみじくもこう語るように、タレントと元社員とのトラブルに端を発したフジテレビを巡る一連のガバナンス機能不全の問題は、2025年6月の株主総会を持って、ひとまず区切りがつき、清水賢治氏がフジテレビと親会社のトップとなる形になり、新しい経営陣による体制が発表された。日本の一大メディアグループのトップとなった清水氏はどんな人物なのか。
清水氏は1983年にフジテレビに入社して以来、テレビ局の司令塔とも例えられる編成部門に異動しアニメを担当。ドラゴンボールやちびまる子ちゃんといった人気コンテンツを世に送り出し、フジのアニメの黄金時代を支えた。その後は中枢である経営企画部門を歩み、担当役員を経て社長に選出された。
「清水氏はとにかくさまざまな人の話に耳を傾ける。そこから最適解を見つけようとする」(フジテレビ関係者)
社長就任後の清水氏は、体制構築はもちろん、自身の色を社の内外で発信してきた。社内では社員との対話の機会を設け、自身が会社をどう変えていくのか、直接説明した。社外では、専門学校のシンポジウムに出演。堀江貴文氏との対談では、素顔の清水氏を発信する形となった。
もっとも、清水氏中心の経営体制、対話協調姿勢による社内喚起とは裏腹に、業績面ではいまだ厳しい状況が続く。25年11月10日に発表された第2四半期の連結決算を見ると売上高は2486億円(前年同期比7・2%減)。本業の儲けを示す営業損益は129億円の赤字(前年同期は138億円の黒字)、そして経常損益は108億円の赤字(前年同期は176億円の黒字) と厳しい状況だ。主たる要因はメディア・コンテンツ事業の低迷だ。特にフジテレビの一連の問題でスポンサーがCM出稿を相次いで取りやめたことで広告収入の落ち込みが激しくなったことからフジ単体の営業損益は327億円の赤字となり売上高が半減した。26年3月期通期の連結業績予想については、売上高と営業利益を下方修正している。
そんな苦境を支えるのが不動産事業だ。都市開発や観光事業の収益で、売上高全体に占める割合は小さいが営業利益では過半数を占めている。
「CMの復活などで好調な機運だが、かつての水準に戻るにはまだ時間がかかる見込み」(フジテレビ営業関係者)タイム、スポットのCM出稿では、11月25日時点での取引社の数は、4月から11月の累計では616社となっていて、これは前年同期が909社だったことと比べると、約68%の戻りとなっている。11月単月で見れば、424社と前年同月の495社に対して約86%と回復のペースを上げている。
清水社長が抜擢した取締役が使い込みで辞任
経営体制刷新から約半年。盤石な清水体制に傷を与える不祥事が明らかになった。11月7日、フジテレビの親会社のFMHは「取締役の辞任」を伝えるリリースを発表。そこには、清水体制で抜擢された人物の名が記載されていた。
「社会部や外信部で記者として活躍、その後、経営企画部門に移籍し3月に親会社のFMH専務に抜擢された」(FMH関係者)、安田美智代氏である。
フジ側の発表などによれば、不適切な経費請求が複数件確認され、中には専務就任後のものもあったという。一連の問題に端を発した、25年9月の社内のコンプライアンス調査で発覚。聴取を受けて事実関係を認めた安田氏は、11月7日の発表当日に自ら取締役辞任を申し出て、不正請求分の返金の意向を示したという。
急遽開いた会見で清水氏は「やはり取締役ですから。私としてはかなり痛恨」と悔しさを滲ませた。
「清水さんとしては経営企画部門時代の後輩でもあり、安田さんの辞任は相当応えたはず」(フジテレビ関係者)。清水氏を先頭に全社一丸となり経営刷新を進める中で、忸怩たる思いであったことは想像に難くない。
こうした状況下で依然くすぶるのは、株主との経営を巡る攻防だ。株主のうち、ダルトンインベストメンツは、6月の株主総会に12人の独自の取締役候補を提案するも、全員が否決された。「とにかく、しっかりと話し合うことができなかった」(ダルトン関係者)と嘆息するように、FMH側は、ダルトンとの話し合いのテーブルに正面から着いたとは言い難い行動を示した。清水氏とダルトン側幹部との直接対話は一度だけで、その後は担当者レベルの話し合いに終始した。
ダルトン側の一番の主張は、FMH側の不動産事業の切り離しを求めるもので、FMH側は放送メディア事業に専念すべきというものだ。もっとも、ダルトン側は「長期戦の構えで臨むつもり」(ダルトン関係者)だと言い、FMH側のアキレス腱である不動産事業に照準を合わせ続けていくとみられる。
そして、株主としてFMH側に揺さぶりをかけるのが、野村絢氏、野村氏の父親である村上世彰氏だ。野村氏側は6月の株主総会後から、FMH側の株の買い増しをじわじわと進めていく。大株主としてFMH側に求めているのは、こちらも「不動産事業の切り離し(=スピンオフ)」だ。こうした動きに対してフジ側も黙って見過ごすわけにはいかなかった。
FMH側は20%以上の株の買い増しを封じる買収防衛策を発表したのだ。
「腕利きの弁護士を招聘し、対村上シフトを組んだ形」(FMH関係者)と関係者は明かす。この防衛策が楔となっているのだろうか、野村氏側は取り立てて大きな動きはせず、様子見といった状況だ。もっとも、この攻防はガチンコではなさそうだ。傾聴派である清水氏が村上氏と直接やりとりをしているという。「村上氏から直接電話を受けたり、対面で話す機会もあるようだ」(事情を知る関係者)
水面下でどのような協議が続いているのか。村上氏の動向に詳しい関係者は、村上氏の過去の行動から本音をこう推測する。「表向きは株主提案として不動産事業の切り離しを求めているが、実はFMHの経営陣に参画するという意向を強く持っているはずだ。自身がフジの経営陣に入ることで、カタルシスを得たいのではないか」。
ゼロリセットして目指すコンテンツカンパニー
体制を盤石化させつつある清水氏が改革における1の矢として放ったのが、ガバナンス不全、会社の風土を刷新すべく行った組織改編だ。テレビ局の心臓部とも例えられる、編成部門を「コンテンツ戦略本部 コンテンツ投資戦略局」と改編し、編成局が持っていた予算権限を切り離したのだ。制作機能は「スタジオ戦略本部(1~3部)」が担う形となり、放送へのアウトプットの他、映画やFOD配信への展開などコンテンツの間口を広げる。狙いは、メディア事業の立て直しだが、現場からは戸惑いの声も聞かれる。「これまで以上に放送以外の展開を求められることで業務負担が増える」(FMH制作関係者)
かつてフジテレビは1980年代~1990年代に一斉を風靡した番組を数多く放っていたが、そのコンテンツ制作力の源泉は「大部屋主義」であった。かつての新宿・河田町本社には編成、制作陣が一堂に介していた「大部屋」と呼ばれる広大なフロアがあった。この大部屋では、編成マンと制作マンが面白い番組を世に出そうという目標のもと、時に口角泡を飛ばしながら、数々のヒット番組を生み出していったのだ。今の時代で表現すれば「ワイワイガヤガヤ」の妙であり、フジテレビの番組作りの真骨頂であった。しかし時代の流れで、面白さを追求する過程では、常にコンプライアンス的な視点が求められるようになってきた。
加えて、ベテランヒットメーカーから後進への権限委譲が進まず、コンテンツ力に陰りが見え始め、他局の後塵を拝することにもつながっていった。
清水氏の組織改革は、そうしたことをゼロリセットして「新生フジテレビ」を目指すというものだ。現在のテレビコンテンツを巡る現状は、とりわけ娯楽番組においては、コンプライアンス的な視点が何より求められる。各社の制作陣は面白さとコンプライアンスのはざまでぎりぎりの表現を目指している。そうした環境下で求められるのは、コンテンツの企画力はもちろん、それをどのような形でアウトプットし利益につなげるかということだ。
そういう点では、清水氏が構築した、コンテンツ戦略とスタジオ機能は的を射ていると言える。
安田氏の辞任は清水氏にとって手痛いダメージとなったが、清水カラーの人事が垣間見えた人事もある。BSフジの社長を務める小川晋一氏の存在だ。小川氏の前任は、グループ会社であるディノスの社長だった。「ディノス社長からBSフジ社長への異動は極めて異例」(FMH関係者)の人事と関係者の間では目されている。
フジテレビは毎月、改革の進捗報告をHP上で行っている。11月の取り組み進捗報告の中で注目は、YouTubeの報道専門チャンネルを新たに設けて、いわば調査報道を深掘りしていく新しい企画「スポットライト」の配信をスタートさせたことだ。社会課題の解決を主なテーマとし、11月4日に配信された「外交官特権を追及した動画」は92万回再生を記録。反響は業界内外に広がっている。
「フジがコンテンツで優位に立っていくために重要なのは、やはり報道力を強化することだ」(FMH関係者)フジの本業であるテレビ放送の特性をフルに生かせて利益につなげていけるとする強みの部分の「ライブ力」「報道メッセージ力」をより強化していくことで信頼回復、組織としての浮揚を目指そうとしている。
一連の問題が発覚し、信頼失墜、ガバナンス不全から組織再生の入り口にたどり着いたフジテレビ。「楽しくなければテレビじゃない」フジテレビから、「令和時代のコンテンツカンパニー」として、新たなフジテレビに脱皮していくことはできるのか。清水氏を先頭に全社一丸となった取り組みの行方に引き続き注目が集まっている。