明治13年創業。物流を担うと共に、製鉄から医療まで、幅広い業種で請負事業を展開してきた鴻池運輸。現在、国内事業のさらなる成長を目指す一方で、海外事業の拡大も狙う。さらに、バリュー・チェーン全体を俯瞰したデータ活用に注力する未来図に迫る。(雑誌『経済界』2026年3月号より)
鴻池忠彦 鴻池運輸のプロフィール
こうのいけ・ただひこ
物流の看板に隠れた真の実力
年商3449億円、営業利益213億円、グループ連結社員数2万5千人。1880年の創業から145年の歴史を数える鴻池運輸。同社は、その社名から物流事業を手掛けるイメージが強いが、実は、売上高の半分を請負業務が占めている。物流で関わる企業に深く入り込み、製造やサービスの一旦を担うソリューションビジネスを創業期から展開している。
たとえば大手鉄鋼メーカーでは、一連の製鉄工程を請け負うほか、鉄の製造の際に発生する「スラグ」と呼ばれる副産物の処理も担当。スラグはその後、路盤材などに再利用される。また、油や埃など、製鉄の際に発生する汚れの洗浄も請け負っている。
一方、大手飲料メーカーでは、原料の受け入れや、パッケージングをはじめとした生産工程の幅広いオペレーション業務を請け負う。
また、医療現場では、医療機器の洗浄・滅菌のほか、手術室での機器のセッティングや清掃なども担う。
さらに空港ではカウンターやラウンジ業務のほか、航空機への貨物・荷物の搭降載や機内清掃のほか、機体誘導なども行う。
「業種も業務も多岐に渡り、すべてご説明したら1日では足りません」と鴻池氏は微笑む。
インドを中心に海外比率20%へ
すべてが順調なわけではない。物流事業については、トランプ大統領による関税政策の影響を受けて、海外ではカナダ・アメリカ間、および中国・アメリカ間の物流で打撃を受けた。加えて、国内では物価高騰による「買い控え」が物流にも影を落としている。2024年4月、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年960時間に規制された「物流の2024年問題」を受けて人件費が跳ね上がり、取引先に値上げを依頼せざるをえない状況も発生している。
「これから少子高齢化の影響でどんどん人口が減っていくこともあり、国内での事業は基盤ではありますが、限界があると考えています。今後は、グローバル事業を伸ばしていく必要があります」
その1つがインドでの展開である。カナダ、メキシコ、アメリカなど、同社の海外事業の展開は、輸出入をきっかけとしたフォワーディング業務が中心だ。
しかし、インドでは鉄道輸送事業が堅調なことに加えて、国内同様の請負事業ができつつあるという。なかでも大きなものが、2025年1月から携わる、インドの製鉄所でのスラグ処理だ。国内の鉄鋼メーカーの請負で会得した技術とノウハウを生かすことで、安全性や利益率の向上に貢献。医療分野でも、衛生環境改善のニーズを受けて、滅菌業務などの請負事業展開を進めているところだ。
「弊社の事業全体で占める海外での売上高は現在約15%です。それを2030年には20%に拡大する計画があります。インドは親日の方が多く、国民の平均年齢も29歳とこれからの国です。弊社の『第二の創業の地』と位置づけて大きく育てていきたい」と話す。
総利益大幅アップで待遇改善を
事業の目的である「社員とその家族の幸せの実現」のために、待遇改善にも取り組んでいる。なかでも注力しているのが社員の賃金アップだ。そもそも物流業の賃金は一般水準より低い傾向があり、その打破を目指して「賃金20%アップ」を目標に掲げている。達成には現在の売上総利益を倍以上にする必要があると考え、それにふさわしい価値を顧客に提供するために、知恵を絞っているところだ。
医療分野に加えて、製造業の現場で人員不足が叫ばれる、機械のメンテナンスのサポートもスタートした。現在、技術の蓄積をはじめている。同時に、昨今どの業種でも行われている、機械化、AI化も当然推進している。だが、試算すると、それだけでは5%程度の上乗せにしかならないそうだ。
「これまでの延長線上の施策では難しい。そこで一番のキーワードになるのがデータです。バリュー・チェーン全体を俯瞰して効率化を図るデータ活用を考えています」と身を乗り出す。
現在、専務である鴻池忠嗣氏が、ものづくり全体の生産性を高めるための戦略「インダストリー4・0」を世界で牽引するドイツに滞在し、知識やノウハウを習得している。2030年には活用できると見込でいる。
「お取引先さまも業界全体も効率化し、収益を高めていく仕組みを必ず実現します」と力を込める。
最後に、2030年、関西経済に期待することを聞いた。
「大阪にもインバウンドが数多く来ていますが、日本の若い、夢を持って目を輝かせた方がもっと大阪に集まり、エキサイティングな場所になってほしい。弊社の社員にもよく言いますが、若い方には高い山、かっこいい在り方を目指してほしいですね。微力ながらその実現のために、年齢や業種を超えて多くの方々と交流し、応援していきたいと考えています」
御年72歳、アートと音楽に〝血が湧き踊る〟という鴻池氏の目は、今も爛々と輝いている。
| 設立 | 1880年5月 |
|---|---|
| 資本金 | 17億2,300万円 |
| 売上高 | 3,449億8,700万円 |
| 本社 | 大阪市中央区 |
| 従業員数 | 約2万5,000人 |
| 事業内容 | 鉄鋼事業、エンジニアリング事業、食品関連/定温物流事業、食品プロダクツ関連事業、生活関連事業、メディカル事業、空港事業、国際物流事業、インド事業 https://www.konoike.net/ |