大阪・関西万博で注目を集めたミライ人間洗濯機が、社会実装へと動き出した。独自の技術を軸に開発された入浴システムは、幅広い領域で導入が進む。万博で示された未来の入浴体験は、技術と生活をつなぐ具体的な未来として、現実社会に広がり始めている。(雑誌『経済界』2026年3月号より)
青山恭明 サイエンスホールディングスのプロフィール
あおやま・やすあき
社会実装始まる ミライ人間洗濯機
大阪・関西万博で大きな注目を集めた「ミライ人間洗濯機」が、ついに社会実装の段階へと進む。開発を主導したサイエンスは、ファインバブル技術を核に、万博で披露した未来型入浴体験を現実の暮らしへと落とし込むプロジェクトを本格化している。青山氏は具体的な動きとして、急速に需要が拡大する高齢者施設向けの浴槽システムを紹介する。
「介護現場では入浴介助の負担が大きな課題です。今回のミライ人間洗濯機の技術を生かした浴槽システムは、利用者が椅子に座ると浴槽にお湯が溜まり、ファインバブルの力で洗浄が完結します。従来の介護浴槽の価格帯は1千万円ほどでしたが、150万円前後で提供できるようにしました。介助者の労力を減らし、利用者も負担なく清潔を保てる。これが第一歩になると考えています」
気泡によって〝こすらずに洗う〟同社の技術は、人手不足が進む介護領域において効率性と安全性を両立するソリューションとして期待が高まる。誰でも短時間で衛生的な入浴を行える仕組みは、介護そのものに変革をもたらす可能性を秘めている。
同技術の実用化は、介護以外の現場ですでに始まっている。大阪・道頓堀の「道頓堀クリスタルホテル3」では、サウナと組み合わせた体験型コンテンツとして提供を開始。ヤマダ電機の東京・池袋本店では、サイエンスの専用コーナーで、体験展示が行われる予定だ。住宅分野ではタカラレーベンのマンションサロンへの設置が決まり、観光領域では熊本や北海道などで導入が進んでいる。
万博で披露された未来の入浴体験は、介護・住宅・観光といった生活産業の広い領域に接続されはじめた。技術が生活の中に溶け込み、誰もが心地よさと衛生を当たり前に享受できる社会をつくる。その構想は確実に現実へと歩み始めている。
原点は55年前の衝撃 万博がつないだ技術者の夢
サイエンスの技術開発の根底には、青山氏自身の万博体験が息づいている。1970年の大阪万博で披露された「人間洗濯機」を目の当たりにしたときの衝撃。それは少年の心に未来をつくる技術者への憧れを強烈に刻み込んだ原体験であったという。
「55年前、小学校4年生のときに見た人間洗濯機は、腰を抜かすほど衝撃でした。大人になっても、あの時の驚きが心のどこかで消えなかったんです。だから今回、未来型の人間洗濯機を万博で展示できたことには、特別な思いがあります」
技術に魅了された子どもが、その後の人生で技術を磨き、未来を実装する側へ回る。青山氏の歩みは、その象徴だ。そして今回の大阪・関西万博でも、同じ循環が生まれていた。
「会期中のある日、たまたま担当者が席を外していたため、私が人間洗濯機の説明をしました。後日、その時の親御さんからお手紙が届き、『大きくなったらサイエンスに入って、みんなが驚くものを作りたい』とお子さんが話していることが書かれていました。本当に嬉しかったです」
青山氏は目を輝かせながらこのエピソードを語った。子どもが未来の仕事に憧れを抱き、技術者としての道を志す。かつての自身の体験が、次の世代へ受け継がれた瞬間だ。
未来の技術は、未来を夢見る人間によってつくられる。70年の万博で芽生えた一つの夢が、55年後にサイエンスという企業を生み、その技術がまた別の子どもの未来を動かした。
現代の子どもたちは、バーチャルやAIが生活の中心にある。視覚的刺激にあふれ、手元の端末で膨大な情報と接する。しかし、身体で感じる本物の体験を得る機会は多くない。
万博の会場には、映像では伝わらないスケールや迫力があり、生命の営みをテーマにしたパビリオンでは、多くの来場者が涙を流したという。青山氏は、「感動とは、身体を通して得られる実感の積み重ね」と語る。
「今の時代、体験を通じて心が震える瞬間が本当に少なくなっています。万博のような場で五感を使って感じたことが、子どもたちの未来へのエネルギーになるんです」
万博には国内外から多様な文化や価値観が集まり、世界の中で日本が示す存在感を体感できる場となった。
日本社会は近年、働き方や労務管理において慎重さが増し、組織が柔軟に動きづらくなっているとの指摘もある。一方で世界の成長国は、技術革新や競争環境の中で大胆に挑戦を続けている。青山氏は、万博を通じて世界の動きと日本の現在地が鮮明になったと感じている。
「世界の国々は、社会をよくするために全力で挑戦しています。私たち日本も、未来に向けてもう一度チャレンジする気持ちを取り戻す必要があります。今回の万博は、多くの人にその思いを呼び起こすきっかけになったはずです」
未来の技術を実装する企業が育ち、地域が活性化し、次世代が世界を見据えて挑戦する。その循環を加速させることが、日本の経済再生に欠かせない。青山氏が万博を通じて発信したメッセージは、単なる展示の成功にとどまらず、今後の日本が進むべき方向を指し示している。
| 設立 | 2007年8月 |
|---|---|
| 資本金 | 3,000万円 |
| 売上高 | 71億9,000万円(2022年3月期) |
| 本社 | 大阪市淀川区 |
| 従業員数 | 90人(2022年4月1日時点) |
| 事業内容 | ファインバブル製品の製造・販売およびメンテナンス。セントラル型浄水装置の製造・販売およびメンテナンス https://i-feel-science.com/ |