北海道では今、世界を見据えた産業と地域づくりが進んでいる。半導体産業の複合拠点や再生可能エネルギーの供給と利活用の拠点をつくる取り組み。基幹産業である食と観光はさらなる高度化を図る。持続可能な成長と国際貢献を目指そうという挑戦だ。その現在地と将来像を鈴木直道知事が語る。
鈴木直道 北海道知事のプロフィール
すずき・なおみち──1981年埼玉県生まれ。99年東京都庁入庁(2010年退庁)。08年夕張市へ派遣。10年内閣府地域主権戦略室へ出向、夕張市行政参与。夕張市長(2期)を経て、19年4月北海道知事就任。
世界に貢献する北海道の挑戦
政府は新たな総合経済対策として、危機管理投資・成長投資による強い経済の実現を掲げ、経済、エネルギー、食料の安全保障に対し先行的かつ集中的に投資するとしています。私はこれまで、エネルギー・デジタル・食をキーワードに、本道のポテンシャルや強みを生かした産業振興が、北海道経済の持続的発展に不可欠と考えてきましたが、北海道の発展が日本や世界に貢献するものであることが、より明確になってきていると感じています。
一方、2025年のインバウンドが初めて年間4千万人を突破し、わが国は世界から選ばれる旅行先としての地位を獲得しつつありますが、オーバーツーリズムなど新たな課題が浮かび上がっています。日本有数の観光地である北海道としても、持続可能な観光振興に取り組まなければなりません。
地域との調和を図りながら、世界で輝く北海道を目指す。今、北海道で進められている挑戦や試みをご紹介したいと思います。
デジタルとエネルギーを軸とした産業集積
AIをはじめとするデジタル技術の進展に伴い、データ処理の高速化と電力消費の抑制につながる次世代半導体への期待は、ますます高まっています。ラピダス社は25年4月に次世代半導体製造のパイロットラインの立ち上げを開始し、7月に2ナノ世代のGAAトランジスタの試作を成功させており、27年の量産開始に向け着実にプロジェクトが進んでいます。また、25年12月に国は、最先端半導体のオープンな研究開発拠点を千歳市に設置し、29年度から稼働予定であると発表しました。このことは、道が進める半導体の製造、研究、人材育成等が一体となった複合拠点の実現に向け大きな弾みになるものと期待しています。
また、AIのイノベーションを推進しつつ、リスクに対応するため、25年6月にAI法が公布されました。年末に閣議決定された「人工知能基本計画」に地域の事例として紹介されていますが、北海道では「AI北海道会議」が設置され、国、道、市町村、企業が連携して、AIなどの未来技術を活用した地域課題解決と新たなビジネス創出に取り組んでいます。
25年2月に策定された国の「GX2040ビジョン」において、再生可能エネルギーが豊富な地域に産業集積を目指すことが明記されました。この「再生可能エネルギーが豊富な地域」とは、まさに北海道のことです。25年4月には、再エネを100%利用するアジア最大級のAIデータセンターが苫小牧市で着工し、7月には、北海道の日本海側南部に位置する「松前沖」と「檜山沖」が、再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電の「促進区域」に指定されました。
道では、関連企業の誘致や道内企業の参入促進によるサプライチェーンの構築、人材確保などに取り組むとともに、特区による規制緩和、最大10年間の税制優遇、最大15億円の立地補助金の3本柱による全国トップレベルの支援策により、地域との共生を大前提とする良質な投資を呼び込み、再エネの供給と利活用の拠点の実現を目指します。
泊発電所3号機について、道民の皆さまからいただいた声、関係自治体の判断や意見、そして議会でのご議論を踏まえ、熟慮を重ね、再稼働に同意いたしました。電力需要の増加が想定される中で、安定した電力供給と脱炭素電源の確保により、今後の道内経済の成長や温室効果ガス削減につながるとともに、企業の皆さまが投資判断を行う際の予見性を高め、道内での投資促進や雇用の拡大にもつながっていくものと考えています。
原発は安全性の確保が大前提と考えており、原発の安全の追求に終わりはないとの認識のもと、引き続き、安全対策などに万全を期すよう国や北電に求めていくとともに、道としても防災対策に一層取り組んでまいります。
基幹産業である食と観光をさらに強化
25年4月に決定された国の「食料・農業・農村基本計画」において、北海道は「主要穀物などの主産地」と明記され、食料自給率200%を超える北海道への期待と役割は、今後ますます大きくなるものと考えています。
現在、道では、わが国の食料安全保障に最大限貢献していくため、「北海道農業・農村振興推進計画」の見直しを進めており、計画の中で、国産供給熱量に占める北海道のシェアを30%まで引き上げる目標を掲げることとしています。農業生産基盤の整備における農家負担の軽減に努め、農地の大区画化やスマート農業の推進などにより生産性の向上を図ります。
また、道産食品の輸出については、これまでの年間輸出額の目標1500億円を達成し、新たに28年までに1650億円とする目標を掲げています。特定の地域や品目に偏らないリスク分散を進めながら、北海道ブランドの浸透や市場拡大を進めます。
明瞭な四季と豊かで美しい自然、高品質な食などが北海道ブランドとして評価され、多くの方々に来道いただいている一方で、観光客の地域偏在や季節偏在、人手不足、過度な混雑やマナー違反など、観光業界はさまざまな課題への対応が必要です。道では、26年4月から宿泊税を導入することとしており、この貴重な財源を活用して、観光の付加価値の向上や受入体制の充実強化などに取り組みます。
25年は知床世界自然遺産登録20周年の節目でしたが、22年の事故以降、知床の観光客は回復しきっていません。この間、関係者が最大級の安全対策に取り組み、昨年、私も遊覧船に乗船して航行の安全性を確認しました。こうした地域の方々の努力を発信することや、本道観光を支えてきた道民の方々がこれからも道内観光を楽しめることなど、地域の目線を大事にしながら、国内外から選ばれる「観光立国北海道」の実現を目指します。
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人口減少や少子化が進む中、豊かな北海道を次代に引き継いでいくためには、地域の多様な人材や強みを生かして活力を高めていくことと、道外、海外から活力を取り入れることの、両方のバランスが大切だと考えています。これまで灯してきた成長の「種火」を大きく育て、地域と共に発展し、日本、そして世界の発展をリードすることを目指して、今後も挑戦を続けてまいります。