2025年9月、世界初となる蓄電コンクリートの点灯式が福島RDMセンターで行われた。インフラそのものが蓄電体へと変わる──。會澤高圧コンクリートが挑むエネルギーOSのアップデートは、地方から世界へと広がる新たな産業の幕開けを告げていた。(雑誌『経済界』2026年4月号より)

會澤祥弘 會澤高圧コンクリートのプロフィール

北海道 會澤高圧コンクリート 會澤祥弘 社長
會澤高圧コンクリート 社長 會澤祥弘
あいざわ・よしひろ

インフラが〝蓄電体〟へと転じる発想転換

 「脱炭素」を第一ミッションに掲げ、コンクリートという伝統素材に最先端テクノロジーを掛け合わせてきた會澤高圧コンクリート。自己治癒コンクリート「Basilisk」やMIT(マサチューセッツ工科大学)との共同開発による「蓄電コンクリート」によって、同社は従来の〝構造材メーカー〟から研究開発型企業へと舵を切りつつある。

 同社の新事業推進のための第2段ロケットと位置付けられた蓄電コンクリートが、ついに「光を灯す」段階へ到達した。2025年9月25日、福島県浪江町の研究開発拠点「福島RDMセンター」で開かれたテックイベント「結」で、世界初となる標準蓄電モジュールがお披露目され、点灯が行われた。

 会場には整然とコンクリート製ユニットが並ぶ。その内部には、炭素微粒子カーボンブラックで電子伝導性を持たせた電極コンクリートと、電解液を含浸させたセパレーターが層状に積層されている。45センチ角の電極を25層重ねたユニット4基を接続し、100V級の出力を持つ標準モジュールとして構成。蓄電量は約300Wh、LEDであれば一晩灯し続けることができる。

 このモジュールに電力を供給したのはトヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」だ。その水素は、同じ浪江町にある世界最大級の水素製造拠点「FH2R(福島水素エネルギー研究フィールド)」で、太陽光発電によって製造された再エネ由来のものだ。再エネ水素が電気となり、コンクリートに蓄えられ、LEDライトとして暗がりを照らす──。

 「LEDがふっと点いた瞬間、エジソンの言葉が頭をよぎりました」と會澤社長は振り返る。

 「私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ」という言葉である。

 「この数年、配合、粉体、細孔構造、電極構成……、失敗の積み重ねこそが技術を前に進めてきました。その〝1万通り〟の延長線上に、あの瞬間の光がある。『天才は1%のひらめきと99%の努力である』というエジソンの言葉は知られていますが、彼が本当に語りたかったのは〝ひらめきも努力も欠けては成立しない〟ということ。コンクリートが光を灯したあの瞬間に、その意味を強く実感しました」と語る。

 絶縁体の代名詞だったコンクリートが自ら電気を蓄え、放出し、光を生む。この点灯式は、単なる技術デモではなく、「インフラそのものが蓄電池となる時代」の幕開けを告げる場面だった。

 蓄電コンクリートの構造自体はシンプルだ。セメントと水の反応で生まれる極小の空隙にカーボンブラックが集まり、導電ネットワークを形成する。そこを電子が行き来することで、コンクリートそのものが電子伝導性を持ち、スーパーキャパシタとして機能する。

 化学反応に依存して電気を蓄える一般的な電池と異なり、静電気的に蓄電するため劣化しにくく、建物寿命に匹敵する長期利用も視野に入る。住宅の基礎、道路、橋梁、ベンチ、モニュメントなど、従来「ただの構造物」と見なされていたものが、そのまま分散型の蓄電インフラへと変わり得る。

 「これまでの再生可能エネルギーは巨大なメガソーラーや大規模風力に偏りすぎた〝重厚長大モデル〟でした」と會澤社長は言う。太陽光パネルを広大な土地に敷き詰めるやり方は一見合理的だが、自然破壊などの負荷も大きかった。

 「〝再エネのOS〟を変えなければならない。大きな発電所から一方通行で電気を流すのではなく、道路や建物、街の随所に小さな蓄電体が散在し、それぞれがオフグリッド的に電気を貯め、地産地消する。蓄電コンクリートは、そのための〝素材側のOSアップデート〟です」

 さらに、電流を流した際に自己発熱する特性は、寒冷地の融雪舗装や住宅の床暖房、データセンターの冷却効率向上など、多様な応用可能性を広げている。

全国45社が動き出す〝産業エコシステム〟

 この技術を単発の実験で終わらせず、産業として立ち上げる。その受け皿として25年、「蓄電コンクリート工業会」が正式に発足した。参画したのは、會澤高圧コンクリートを中心に全国45社のコンクリートメーカーおよび関連企業である。24年4月にはMITとの共同研究開発コンソーシアムを立ち上げ、日本での社会実装を呼びかけた。これを契機に主要プレーヤーが参加し、設立準備会を経て、福島RDMセンターでの標準モジュール公開と歩調を合わせ本格始動にこぎ着けた。

 設立総会では、標準蓄電モジュールの試験・改良方針や研究開発のロードマップが共有され、全国的な供給体制構築に向けた議論が始まっている。工業会会長にも就いた會澤社長は、「この技術は、まだ〝未熟な天才〟のようなものです。性能やコストの面でブラッシュアップすべき点は多い。一方で潜在的なポテンシャルは間違いなく高い。『努力の代わりとなるものは存在しない』というエジソンの言葉の通り、産業製品として立ち上がるまで粘り強く改善を続けていきます」と語る。

 蓄電コンクリートは、単体の電池性能ではリチウムイオン電池に及ばない。だが、建物やインフラを蓄電体として生かすことで、「都市のエネルギーインフラ」というスケールで見れば、新たな価値が立ち上がる可能性を秘めている。福島RDMセンターの夜に灯った光は、地方発メーカーが、世界のエネルギーOSを書き換えようとする挑戦の、まだ序章にすぎないといえる。    

北海道 會澤高圧コンクリート 蓄電コンクリート
光を灯した「蓄電コンクリート」(福島RDMセンター)

会社概要

創業1935年4月
資本金6,390万円
売上高241億円(2025年3月期)
本社北海道苫小牧市
従業員数594人(2025年12月期)
事業内容コンクリート製品の製造・開発・販売
https://www.aizawa-group.co.jp