世界的な一大イベント、FIFAワールドカップ2026の放映権を取得。2024年から飛躍的に会員数を伸ばすDAZN Japanの笹本裕CEO 最高経営責任者は、昨今のテクノロジーの進化により、ワールドカップを起点に「スポーツの視聴体験は大きく変化する」と自信をのぞかせる。(雑誌『経済界』2026年4月号より)

笹本 裕 DAZN Japanのプロフィール

笹本裕・DAZN
DAZN Japan CEO 最高経営責任者 笹本 裕
ささもと・ゆう 1964年9月4日生まれ。タイ・バンコク出身。リクルートを経て、MTVジャパンの社長兼CEO、マイクロソフトのアジア太平洋地域統括責任者、Twitter Japanの代表取締役を歴任。2024年にDAZN JapanのCEO 最高経営責任者に就任。KADOKAWA、サンリオの社外取締役も務める。

野球、サッカー、バスケ、ラグビーの4本柱に注力

── 今年6月から開催されるFIFAワールドカップ2026の放映権を取得しました。どのような狙いがあったのでしょうか。

笹本 2つの理由があります。1つはわれわれがAFC(アジアサッカー連盟)の予選や主催大会、Jリーグを継続して配信してきたことです。ワールドカップへと続いていく道、そのストーリーをわれわれが完結させていく必要があると考えました。もう1つは、世界最大のスポーツイベントであるワールドカップを活用して、認知や会員拡大のレバレッジをかけていこうと。サッカーのコアなファン層だけでなく、ライト層にもDAZNを知っていただく機会にしたいという狙いがあります。

── サッカー以外にもさまざまな競技を扱っていますが、個々のコンテンツへの投資対効果はどのように判断されているのでしょうか。

笹本 われわれの事業は主に視聴料収入と広告収入で成り立っています。過去の膨大なデータから収益性を解析して、それに基づいてライツフィー(放映権料)を算出しています。

 データに加えて重要視しているのが「未来予測」です。視聴数だけでなくそのコンテンツの魅力によってどれだけ認知が広がり、最終的に視聴料へと転換されていくか。過去のデータと未来の予測をもとにして価値を算定しています。

── 今後、特に力を入れていく競技があれば教えてください。

笹本 現在は野球、サッカー、バスケットボール、ラグビーを4本柱として考えています。理想は、これらを365日毎日体験いただける状態にすることです。例えば野球なら、プロ野球のオフシーズンにジャパンウィンターリーグや、日本とは季節が逆のオーストラリアのリーグを配信する。ローカルなイベントとグローバルな大会を組み合わせ、空白期間を埋めていく戦略です。

データとAIにより視聴体験を進化させる

── 自社の強みやサービスにおいてこだわっている部分について教えてください。

笹本 キーワードは「グローバル」と「テクノロジー」です。グローバルについてはよく社内で「シンクグローバル、アクトローカル」と言っているのですが、ローカルのために何がベストかを考え、グローバルの思想をもとにアクションを起こしていく、という動き方です。

 テクノロジーについてはここ数年で相当な額の投資をしてきました。特にAIには力を入れています。それによって「視聴体験」、「応援する体験」、「参加する体験」の3つを進化させていきたいと考えています。

── 具体的に、どのようにサービスが向上していくのでしょうか。

笹本 今年、皆さんに提供できるものとして、「AIによるパーソナライズされた編成」があります。現在、イタリアでテスト中なのですが、例えば「昨日のハイライトシーンを見せて」とプロンプト(指示)を入れると、AIがユーザーの求める動画を即座に編集して提供してくれる、などの機能です。すでに日本展開の準備も進めていまして、ワールドカップが開催されるまでに導入して、試合を見逃した方がAIで見たい場面を即座に呼び出して見られるようにできるとベストですね。

 ワールドカップの配信においてはアングルの多様化はもちろんのこと、加えてデータとAIの活用も進めています。先ほどお伝えしたような編集機能など、従来のスポーツ視聴とは全く異なる体験ができる仕組みを準備しており、今はFIFA(国際サッカー連盟)と協議を重ねていて、もうじき具体的な発表ができると思います(26年1月中旬時点)。

── 他にもAIなどのテクノロジーを活用した取り組みはありますか。

笹本 人間のように流暢に実況や解説をする「アバター」の研究も進めています。われわれが持つ膨大なデータや外部情報を集約し、ファンの方々が認めてくれる実況、解説をさせようと。これが実現すれば、年間1万試合に及ぶライブ配信すべてに質の高い解説やレポートを付けることが可能になります。

 もっとも、試合中の実況、解説に導入することは考えておらず、試合前後での活用を考えています。試合中はこれまでどおり専門家の方々のお力をお借りできればと。スポーツはAIでは代替できない感情的な部分も大きいですし、生身の実況・解説者に引き続きお願いしつつ、試合前後の対戦成績やスタジアム情報をAIやアバターで補足して視聴体験の底上げができればと思っています。

── 試合後は試合前と異なり、タイムリーな情報が求められます。

笹本 そうですね。試合前は過去の対戦成績やスタジアム環境などのデータが中心になりますが、試合後はよりリアルタイムな対応が求められます。現在、日本でテストしているのは、視聴者の感情の起伏を数値化する試みです。ゴールシーンなどで盛り上がった箇所を解析し、それをアバターの解説に反映させる。そのフレームはすでにできていて、次は学習させていく段階ですね。

── 「感情の起伏の数値化」というお話がありましたが、それを活用することでハイライト映像も自動で作れそうです。

笹本 まさしくそうです。今回のワールドカップは全104試合と多く時差もあります。ハイライトの他、SNSで盛り上がっている場面を即座に切り取って配信することの価値も高い。すでに日本発の機能として「Moment Booster(モーメントブースター)」という、ゴールの瞬間などファンが熱狂する瞬間を自動検知して、簡単にX(旧Twitter)へシェアできる仕組みを実装しています。これをワールドカップでも活用できればと考えています。

 またDAZNに搭載している「FanZone(ファンゾーン)」というチャット機能があるのですが、ここもデータやAIを進化させていき、先ほど挙げた「応援する体験」や「参加する体験」を充実させられればと思っています。

DAZN MV(拡大版)
「Moment Booster」はリアルタイムで盛り上がる場面をAIが切り出して通知する機能で、ユーザーはタップするだけでXへの投稿が可能になる
DAZN_FanZone
「FanZone」はコメントを書き込めるチャット機能などを備える

一昨年から会員数が3倍 無料会員を含め500万弱に

── 先ほど視聴料収入と広告収入が中心というお話がありましたが、とりわけサブスクリプション収入がメインになるかと思います。

笹本 そうですね、加えて今は広告事業も伸びてきています。DAZNでは一昨年から昨年にかけて有料会員が3倍に増え、無料ユーザーを含めて500万弱、SNSも入れると1200万のユーザーにリーチできる基盤が整いました。今年はワールドカップもあるので広告事業をより加速させていきたいと考えています。

 PPVについても、昨年末にLeminoで独占配信したボクシングの井上尚弥選手の試合で、DAZNでも過去最高の購入数を記録しました。今回、多くのユーザーさんから視聴までのフローが簡単であることを評価していただき、これからさらにラインアップを増やしていければと思っています。

── 有料会員数はどのようにして3倍まで増やしたのでしょうか。

笹本 ライツを充実させたことと、NTTドコモさんとの提携が大きな要因です。ライツについては特に野球パックの「DAZN BASEBALL」を出したことが大きかったです。シーズン中のゲームだけでなくキャンプや海外リーグなど、365日、野球を楽しめる環境ができつつあると思います。どの競技もシーズンオフに解約率が上がってしまう傾向があるのですが、オフでも楽しめるコンテンツを拡充することでそれを抑えることもできています。

 NTTドコモさんとの提携については、「ドコモMAX」という料金プランにDAZN見放題というメニューを入れていただき、そのプロポジションによってわれわれのユーザー数が伸びました。

── さまざまな企業の参入によりスポーツ動画市場はにぎわっているように見えますが、今はどのようなフェーズにあると思いますか?

笹本 間違いなく成長期です。NetflixさんがWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の放映権を獲得したことも将来性を感じていらっしゃるからだと思いますし、ライブスポーツは今後さらに伸びていくと思います。

── その中でDAZNはどのような目標を掲げているのでしょうか。

笹本 無料会員も含めて、まずは1千万ユーザーを目指しています。あるデータによると日本のスポーツファン人口は約2千万人といわれています。その半数に利用いただけるサービスにしたい。

 この2、3年でテクノロジーは大きく進化し、今年のワールドカップを起点にスポーツの視聴体験は大きく変化すると思います。日本のユーザーさんはいい意味でデジタルサービスに対する熱量が高く、ワールドカップの配信についても改善や改修についてさまざまな意見をいただけると思っていまして、それが世界のロールモデルの構築につながっていくのではないかと。日本で挙がった声をグローバルに届け、それによってまた新たな視聴体験ができあがっていく。それをまたユーザーさんに提供していき、これまで以上に楽しんでいただく。そういうサイクルを作っていければと考えています。

DAZN x docomo
2025年4月、NTTドコモとの共同記者会見で、DAZNが見放題となるプラン「ドコモMAX」を発表