「エンタメとライブのハイブリッドがOTTの次の成長エンジンになるという仮説を持っています」と語るU-NEXTの堤天心社長は、ライブの1つであるスポーツも重要視しており、ヨーロッパフットボールをはじめとした主力3カテゴリーを中心にコンテンツを拡充する。(雑誌『経済界』2026年4月号より)

堤 天心 U-NEXTのプロフィール

堤天心・U-NEXT
U-NEXT 社長 堤 天心
つつみ・てんしん 1977年9月15日生まれ。東京大学工学部を卒業後、リクルートを経て2006年にUSENに入社。10年からU-NEXT設立とともに事業本部長を務め、17年に社長に就任。U-NEXT HOLDINGS常務取締役、Y.U-mobile取締役、TACT取締役を兼務する。

重視するのはそのジャンルでナンバーワンになれるか

── 多岐にわたるジャンルを扱う中で、スポーツに注力し始めたのはいつ頃なのでしょうか。

 2021年頃です。コロナ禍でボクシングのチャリティイベントのお話をいただき、ライブ配信をさせていただいたのが最初のきっかけでした。

 コロナ禍ではスポーツ興行全体がストップしていて、そのチャリティイベントも徹底した感染対策が行われていたのですが、われわれのようなOTT(動画配信サービス)は巣ごもり需要の拡大によって一定の伸びがあるタイミングだったのです。それまでスポーツはテレビ放送や有料衛星放送が中心でしたが、OTTサービスとしての可能性を感じ、チャレンジさせていただきました。

── その後、どのような競技を扱っていったのでしょうか。

 格闘技からスタートして、次にスペインのサッカーリーグのラ・リーガ、それからゴルフへと広げていきました。格闘技はチャリティイベントを配信した後に市場調査を行い、ファンの熱量やエンゲージメントの高さ、市場規模などに大きな可能性を感じ、一気に進めていきました。

── 現在の戦略において、スポーツコンテンツはどのような位置付けなのでしょうか。

 われわれは「エンタメとライブのハイブリッド」が、OTTの次の成長エンジンになるという仮説を立てています。映画、ドラマ、アニメといったエンタメコンテンツと、スポーツや音楽などのライブエンターテインメントは車の両輪と捉えており、投資比率もエンタメと同等に力を入れています。

── スポーツの各競技においての投資基準はどのようなところに置いているのでしょうか。

 すべての競技を扱うことはできないため、優先順位をつけています。特に重視しているのは、そのジャンルでナンバーワンになれるか、ですね。「この競技を見るならU-NEXTだよね」と思ってもらえるぐらいのラインアップをそろえたり、特定のティア(階層)を取れたりすることができるかを基準としています。

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コロナ禍に行われたボクシングイベント「LEGEND」 (画像は2021年2月6日のプレスリリースより)

「見る」だけでなく「楽しむ」まで広げていく

── 24年にイングランドのサッカーリーグであるプレミアリーグの放映権を獲得し、話題となりました。

 現在はヨーロッパフットボール、格闘技、ゴルフの3つを注力ジャンルとしています。それに続くのがバレーボール、卓球、テニスです。サッカーではラ・リーガからスタートして、ポートフォリオ上、マストハブと考えていたプレミアリーグを扱うことでようやく「ヨーロッパフットボールならU-NEXT」と思ってもらえるようになってきたかなと。

── プレミアリーグの放映権という大型投資による成果は?

 期待値を超えるほどの手応えを感じています。ありがたいことにサッカーパックの加入者が多く、特に若い世代のユーザーさんが増えました。ラ・リーガが40、50代からの人気が高いのに対してプレミアリーグは20代のユーザーさんが多いのです。

 また、価格について、エンタメだけで考えた時、われわれは税込で月額2189円という強気のプライシングで、ユーザーさんからもご指摘をいただくことがあります。

 一方でスポーツ好きのユーザーさんは、月額とサッカーパックでポイント還元を含めて実質、3500円ほどになるのですが料金に対するコンプレイン(クレーム)はほとんどありません。むしろ、この金額でスポーツもエンタメも楽しめて満足というポジティブな声を多くいただいています。そうした点からも、われわれのサービスにおいてスポーツは魅力的なジャンルだと感じています。

Mitoma©The Football Association Premier League Limited
Tanaka©The Football Association Premier League Limited
2024年から配信するプレミアリーグでは三笘薫(上)や田中碧(下)などの日本人選手も活躍する
©The Football Association Premier League Limited

── スポーツ視聴における強みやこだわりを教えてください。

 デジタル配信ならではの視聴体験ですね。例えばゴルフでは、メイン中継の他に特定の選手を追いかける中継や、現地の臨場感を味わえるように解説なしの中継もあり、ユーザーが任意に選択できます。同様にサッカーでも実況・解説のありとなしを選べますし、バレーボールでも特定の人気選手を追いかけるチャンネルがあります。

 これから強化していきたいのは、「見る」だけでなく「楽しむ」まで広げていくことです。スポーツにはいろいろな楽しみ方があり、みんなで盛り上がるとか、SNSで会話をするとか、リアルな場でわいわい楽しむとか、またその先にはグッズ販売などもあり、そういったところまで広げていきたいと考えています。

── リアルな場というのは、スポーツバーのような場所でしょうか。

 われわれが施設を作るのではなく、既存の施設との連携が前提です。スポーツバーもそうですし、ホテルのような商業空間、それと今、注力しているのはカラオケボックスです。25年12月にカラオケの「JOYSOUND」を運営するエクシングのグループインに向けた株式譲渡契約の締結を発表しましたが、個室で親しい友人たちと騒ぎながら観戦できる環境は、また違ったスポーツの楽しみ方になるのではと期待しています。

── OTTにおけるスポーツ特有の課題として「シーズンオフの解約」があります。

 シーズンオフは、試合の振り返りやドキュメンタリーなどのVODコンテンツを提供しています。また、総合的にコンテンツを扱っている点を強みとしており、スポーツ好きのユーザーさんの好みに合わせた映画やアニメなども用意しています。それとユニークなところでは、雑誌の読み放題サービスもあり、ゴルフの視聴者がゴルフ雑誌を、ボクシングの視聴者がボクシング雑誌を、という形でシナジーも生まれています。

松山英樹選手
ゴルフではメイン中継に加えて、特定の選手を追いかける中継も配信(画像は「PGAツアー開幕戦ソニーオープン最終日松山英樹徹底マークチャンネル」より)

さまざまなコンテンツを一つのアプリに統合する

── 収益の柱はサブスクリプションになるのでしょうか。

 そうですね、売り上げの約9割が月額会費で、残り1割がサッカーパックやワールドゴルフパックなどカテゴリー特化のサービス、それと格闘技のペイパービュー(PPV)です。PPVも1つのイベントで数十万売れるものが年数回あり、ダイナミックな市場だと感じています。

── 広告掲載についてはいかがでしょうか。

 慎重に検討しています。まず、お金を払ってくださっているユーザーさんに広告を差しこんで見せることが良いことかどうか、というのがあります。また、ビジネスとしてもまだ勝ち筋が見えていません。YouTubeやTikTok、それにTVerさんなどの大型プラットフォームやトップメディアがいるレッドオーシャンでは、数千万規模のMAU(月間利用者数)がなければ戦うことができません。例えばスポーツなどのカテゴリーを絞る形であれば可能性はあるかもしれないですが、まだ検討段階です。

── 会員獲得のためのマーケティングで特に力を入れていることは?

 SNSの活用です。YouTubeやTikTok、X(旧Twitter)の3つをメインに、試合のハイライトだけでなく、選手のインタビューやドキュメンタリー映像などを発信してユーザーの期待値を上げたり、また、ゴルフは尺の長いスポーツなのでショット集を作ってその日1日の活躍を見てもらったりしています。こうしたSNSの活用が加入の促進につながっています。

 また最近はリアルな接点も増やしていて、例えばテニススクールや格闘技のジムと連携して、特典をつけたりキャンペーンを実施したりしてわれわれのサービスをご紹介いただいています。また、格闘技やプロ野球の会場にブースを出展して来場者にご案内などもしています。

── 今後、さらに新しい競技を増やす計画などはあるのでしょうか。

 サッカー、ゴルフ、格闘技の拡大を視野に入れつつ、他の競技もチャンスがあれば積極的にチャレンジしていきたいと思っています。特に検討していきたいのは日本でトップクラスの人気を誇る野球です。現在は横浜DeNAベイスターズさんの主催試合を配信させていただいていますが、可能であればもっと増やしていきたいと考えています。

── 野球のWBCのような、国際的な大型イベントの配信についてはどのようにお考えでしょうか。

 われわれはシーズンスポーツを重視しています。国際的な大型イベントは国民的行事であり広告価値が非常に高く、扱いたい思いはあるものの、そこはテレビ局さんが伝統的に強みがある領域だと考えています。ビジネスモデルとの親和性を考えると配信サービス単独で扱うことは難しく、どこかのテレビ局さんとご一緒させていただく形であれば検討していけるかなと思います。

── U-NEXTが目指す近い将来の目標を教えてください。

 われわれは「オールインワン・エンターテインメント」というキーワードを掲げています。近い将来、映像、ライブ、電子書籍、それに加えて音楽も一つのアプリに統合したいと思っています。映像を見て、原作を読んで、主題歌を聞いて、というその世界観をU-NEXTで数年内に構築したいなと。それが競争優位性になると考えています。

 具体的な数値目標としては、25年11月に有料会員数が500万人を突破しまして、次は1千万人の大台を目指します。他社さんでその数字を超えているところもあるので市場のポテンシャルは十分にあるはずですし、エンタメと、スポーツを含めたライブのハイブリッドで達成したいと思っています。