「新しい未来のテレビ」を掲げるABEMAは2018年の大相撲配信に続き、21年にMLBを、22年にはFIFAワールドカップを配信するなどスポーツファン層を拡大。着実な成長を続ける総合メディアにおいてスポーツはどのような位置付けにあるのか、塚本泰隆・総合編成本部本部長に聞いた。(雑誌『経済界』2026年4月号より)

塚本泰隆 AbemaTVのプロフィール

ABEMA_塚本泰隆
AbemaTV 総合編成本部本部長 塚本泰隆
つかもと・やすたか 1987年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学文学部在学中からプロ雀士として最高位戦日本プロ麻雀協会に所属。卒業後に一般企業に就職し、2016年にサイバーエージェントに入社。19年にABEMAスポーツエンタメ局局長に、24年に総合編成本部本部長に就任。

スポーツの最大の価値は「その瞬間に共有できる熱量」

── ABEMAでは現在、アニメやバラエティ、恋愛リアリティーショーなど多様なジャンルを扱っています。その中でスポーツに注力し始めた時期や、理由を教えてください。

塚本 2016年4月の開局当初から、スポーツは少しずつ扱ってきました。ABEMAは「新しい未来のテレビ」を標榜しており、インターネット上でテレビの良さをしっかりと伝えていくというコンセプトがあります。その中でスポーツは人々を熱狂させる力があり、人を感動させるドラマがあって、そのライブ性はテレビにおいて必要不可欠だと感じています。

 スポーツに力を入れ始めたきっかけは18年に大相撲の中継を開始したことで、それから日本のプロ野球やサーフィンなどのコンテンツを拡充していきました。その後、21年にメジャーリーグ(MLB)を扱ったのですが、俯瞰して見ればそのあたりが潮目になったように思います。

── サッカーのFIFAワールドカップ2022カタールの配信も大きな話題となりました。

塚本 ワールドカップの配信も大きな転機となりました。ただ、これについては、ここで何かをするためにというより、いろいろなタイミングが噛み合ったことで配信することになったのです。開局から6年が経過して、UI/UXやインフラ周り、同時視聴など、大きなイベントを配信する環境が整ったところでトライしてみようと。サッカーを契機にアニメやバラエティ、麻雀など他のジャンルへと波及していくことも期待して配信することを決めました。

── スポーツコンテンツへの投資は、全体の戦略の中でどのような位置付けなのでしょうか。

塚本 スポーツの最大の価値は「その瞬間に共有できる熱量」だと考えています。われわれは未来のテレビにおいて「時間と場所からの解放」というのを伝え続けており、スポーツにおいては深夜の試合をPCで見たり、昼間の試合をスマホでチェックしたりと、見たい時に見られるようになった今、特に魅力的なコンテンツだと思っています。

 その上で、スポーツが全コンテンツの何%を占めるなどの基準はなく、この競技の全リーグを扱うなども考えてなく、いかに皆さんが見たいものを、熱狂できるものを多く提供できるかを大事にしています。

── 競技の選定や、投資対効果の判断基準はどこに置いていますか。

塚本 最も重視しているのは「コンテンツの熱量」です。視聴数も当然見ていますが、それ以上にSNSでの反響や、番組内のコメント欄の盛り上がりを注視しています。その競技を扱うことで、どれだけの人に喜んでもらえるか、そしてABEMAを使うきっかけになるか。メディアとしての価値向上にどれだけ寄与するかなどが判断の基準になります。

特定の層に寄らない形での番組、演出にこだわる

── 現在、特に注力している競技はありますか。

塚本 特定の競技に注力するという考え方はしていません。有料のOTT(動画配信サービス)との最大の違いは、われわれが無料のエントリーメディアであるという点です。

 例えば、ABEMAでサッカーを見たことがきっかけで日本代表を応援したくなったり、大相撲中継を見て実際に本場所へ足を運びたくなったりする。そうした業界全体のファン人口を増やすスパイラルを作ることが、私たちの役割だと考えています。ですので何かの競技を重点的に取り上げるよりも、幅広い層に知ってもらうきっかけを提供することを優先しています。

── 最近では「ポーカー」の配信も始めましたが、斬新なセレクトに思えます。

塚本 それもエントリーメディアとしてのチャレンジの一つです。18年にプロ麻雀リーグ「Mリーグ」を発足し、中継を開始したのですが、それは頭脳スポーツとしての麻雀の可能性を強く感じたからです。映像化することで熱狂が生まれ、ファンを増やしていけるのではないかと。

 ポーカーも海外では頭脳スポーツとして注目されていまして、日本でもプレー人口が増えています。映像コンテンツとして楽しめる可能性があると考え、25年から本格的に番組制作を始めました。

── 先ほどお話に出た大相撲を配信し始めたことも大きなトピックですが、そこに踏みこんだ狙いはどこにあったのでしょうか。

塚本 大相撲は競技としての分かりやすさと、大きな熱量があります。われわれは若い世代にこういう伝統的な競技の魅力を伝えていくことも役割の一つと考えています。そのために、例えば、中継画面にタッチペンで解説を書きこんだり、決まり手の詳細を丁寧に説明したりと、初心者でも楽しめる工夫をしています。ABEMAの中継をきっかけに「好きな力士ができた」、「技のすごさが分かった」という愛着につながりファンが増えていけばと思っていますし、実際、視聴者数も伸びています。

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ABEMAではマインドスポーツのポーカーも扱う

── 他のOTTサービスと比較して、ABEMAのスポーツ中継の強みやこだわりは?

塚本 特定の層に寄らない形で、どのような番組、演出を提供するかという部分ですね。視聴者である受け手の受容度に合わせた演出をしなければいけないと思っていまして、競技によってサッカーのようにシンプルなものもあれば、ルールが複雑なものもあり、その中でコアなファンが興醒めせず、同時にライト層も楽しめるというのを大きなポイントとしています。

 麻雀を例に挙げると、役が分からない人のためにリアルタイムで点数を計算して表示したり、解説の方のコメントをテロップで出したり、大相撲でもバーチャル上で技を実演解説するコーナーを設けたり、幅広い層が楽しめるような演出をしています。また、コメント欄でユーザー同士が会話する中で、解説者が拾ったり、それに対して教えたりすることなども特徴かなと思います。

── その他に視聴体験や番組制作においてこだわっているところなどはありますか。

塚本 ハイライトの作り方にはこだわっています。スポーツはライブで楽しむことが醍醐味ですが、数時間の試合をすべて見られない方もいると思います。そこで、試合全体のハイライト、特定の人物にフォーカスしたハイライト、それとSNSに適した短尺のクリップなど、競技の特性やユーザーのニーズに合わせて緻密に作り分けています。

生活に根ざしたサービスにしていきたい

── ビジネスモデルについてうかがいます。無料で多くの番組を配信していますが、収益の柱は何になるのでしょうか。

塚本 3つあります。1つ目はCMなどの広告ビジネスです。2つ目は「ABEMAプレミアム」というサブスクリプションサービスで、これには、限定コンテンツ、ダウンロード機能、ライブ配信中にも最初から見られる追っかけ再生といった特典があります。3つ目は、ペイパービュー(PPV)や周辺事業で、例えば格闘技やイベントの興行を行い、それをPPVで販売しています。また、「WINTICKET(ウィンチケット)」という競輪とオートレースのネット投票・ライブ映像視聴サービスがあります。大きくこの3つを軸としています。

── ユーザー獲得のマーケティングにおいて力を入れていることは?

塚本 まずは視聴者の皆さまに楽しんでいただけるコンテンツを作ることです。面白い、熱量のあるコンテンツをオリジナルで作ることを一番に重視しています。その上で、コンテンツの特色に合わせてSNSで展開していき、ユーザーに届けていく。スポーツであればX(旧Twitter)やYouTubeとの相性が良いのですが、TikTokやInstagramも活用しています。競技によってトーンやポイントが異なるので、そこに適応しながら多角的にアプローチしています。

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2018年から配信している大相撲中継は独自の演出でも話題。素人では分かりにくい技を実演形式で解説する
©AbemaTV,Inc.

── 現段階でスポーツ領域の拡大は検討していますか。

塚本 特定のジャンルを強化するという考えはないですが、ABEMAというプラットフォーム全体の規模拡大に合わせて、スポーツの役割も大きくなっていくはずですし、しっかりと取り扱っていきたいと考えています。スポーツはグローバルでの権利ビジネスという側面もありますが、機会があれば積極的に配信していきたいと思っています。

── ABEMAが目指す近い将来の目標を教えてください。

塚本 「新しい未来のテレビ」として社会のインフラになることです。今年で10周年を迎えますが、これから先の10年も変わらない目標になると思います。動画市場の中で「ABEMAがあって良かった」と思ってもらえるような、生活に根ざしたサービスにしていきたいです。

── 数値目標はありますか。

塚本 社内的にはありますが、公表していなくて。規模はある程度のところまで来ましたが、引き続き最高品質のコンテンツを届け、国民の生活を豊かにすること、日々使ってもらえるメディアになることを目指しています。