横浜DeNAベイスターズは2016年に友好的TOBにより横浜スタジアムを買収。以来、増築と改修を続け、観客動員数を大きく伸ばしている。積極的な投資を続ける背景には、事業拡大に加えて、プロジェクト開始時からの一貫したもう1つの目的がある。木村洋太社長が明かす。(雑誌『経済界』2026年4月号より)
木村洋太 横浜DeNAベイスターズのプロフィール
きむら・ようた 1982年7月3日生まれ。神奈川県横浜市出身。筑波大学附属駒場高校、東京大学、同大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程を修了し、2007年にコンサルティング会社に入社。12年に横浜DeNAベイスターズに移り、事業本部長、副社長を経て21年4月、38歳の時に社長に就任。
東京オリンピック開催により増築、改修がスピーディに
── 横浜DeNAベイスターズは「コミュニティボールパーク」化構想を掲げ、スタジアムの増築、改修を重ねていますが、このプロジェクトはいつどのような形でスタートしたのでしょうか。
木村 DeNAが球団経営に参画し、横浜DeNAベイスターズとして初めて戦った2012年のオフにスタートしました。シーズン中から、本拠地である横浜スタジアムをどのような空間にしていきたいか、という議論を重ねていました。当時、球団とスタジアムは別会社でしたが、議論を進める中で「共通のビジョンを描くべきだ」という結論に至り、誕生したのが「コミュニティボールパーク」化構想でした。
── その構想では当初から10年先の、今のようなスタジアムとなることが決まっていたのでしょうか。
木村 状況に合わせて形を変えてきた側面が強いです。根底にある思想は一貫していますが、具体的な施策は環境や両社の関係性の変化に伴って進化していきました。当初はVIPルームの設置や大規模な増席まではスコープに入っていませんでしたが、結果として現在の形ができあがりました。
── その「根底にある思想」とは何でしょうか。
木村 横浜のど真ん中という立地と、日本野球における歴史的な場所という価値を踏まえ、野球を熱狂的に好きな人が楽しむだけでなく、地域のコミュニティを育む〝アイコン〟としての場所を目指すことです。この部分はプロジェクト開始時から一貫しています。
── 16年に、それまで別会社だった横浜スタジアムを友好的TOBで買収しました。改めてその狙いを教えてください。
木村 最大の理由は、中長期的な投資判断を可能にすることです。当時は球団とスタジアムの契約が年数での有限契約であり、資本関係もない状態では20年、30年先を見据えた大規模投資ができません。1978年に建設されたスタジアムは老朽化が進み、使い勝手も悪くなっていましたが、別会社であるスタジアム側に100億円規模の投資を求めるのも現実的ではありません。
そうした中で、DeNAが球団運営に本腰を入れている姿勢が街の方々にも伝わり、「球団と球場を一体運営するべきだ」という声もいただくようになりました。実際、経営を一体化することで意思決定も迅速になり、攻めの投資もできる。そのような背景から実行に移しました。
── 2017年から増築、改修に着手しました。野球はシーズンが長く工期が限られますが、そうした中でもスピード感を持って年々グレードアップしていきました。
木村 17年から20年にかけての増築、改修には、20年に開催予定だった東京オリンピックが大きく影響しています。横浜スタジアムは野球・ソフトボールのメイン会場に選ばれましたが、先立って横浜市から「オリンピック仕様の球場にできるか」というお話があったのです。オリンピックのためにスタジアムを貸し出すとなると2カ月間、本拠地の横浜スタジアムで試合を行うことができなくなります。ただそれでもわれわれはそれ以上に得たいものがあり、貸し出すことを承諾しました。それが増築、改修の承認でした。
通常、行政が所有する公園内の施設の大規模改修の承認をいただくには相当な時間がかかりますが、オリンピック開催が後押しになり急ピッチで意思決定が進められるようになったのです。世界のお客さまをお迎えするにあたってVIPルームの設置や増席を検討し、横浜市と合意を取ることができ、スピーディな増築、改修が実現しました。
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一生に一度は行ってみたいと思われる場所にしたい
── こうしたリニューアルを続けたことで、期待どおりの集客状況となっているのでしょうか。
木村 現在の収容人数は約3万4千人で、稼働率90%以上をキープしていまして、12年は年間約117万人だったのが、25年は236万人まで増えたのでこの立地、この街の身の丈に合った集客状況になってきたと言えると思います。ただし他球団さんでは4万人以上、集客し続けているところもあるので、座席数の上限がなければまだ伸ばしていける可能性があると考えています。
── ファン層に変化はあるのでしょうか。
木村 もともとマーケティングの中心と捉えていた「アクティブサラリーマン」に加えて、そこから派生して家族連れなど幅広い層に広がっていると感じています。横浜における娯楽の定番の1つとして定着しつつあるのかなと。また、野球に対して熱量の高いファンの他に、「推し活」として応援してくださっている方々も増えている印象があり、球場の雰囲気も変わってきたと思います。
── 25年8月からメインスコアボードの改修も始まりました。
木村 屋外の球場としては最大級のサイズ(横88メートル×高さ12メートル)になります。メジャーリーグなどを見ても、視覚的にお客さまとコミュニケーションを取る機会が増えていて、今回の改修もスポーツ、野球の持つ本質を、映像を通じて演出を含めてお伝えしていくことが一番の目的です。
── 関内駅の再開発とも連動し、26年3月には旧市庁舎街区と横浜スタジアムを結ぶ「みなと大通りデッキ」が利用可能になります。
木村 横浜市役所の移転に伴う旧市役所街区の再開発プロジェクトに対して、球団や親会社のDeNAが積極的に関与していく姿勢を示しました。それから行政との対話を通じて、スタジアムと街をつなぐデッキを作ろうという話になりました。
── 同じ時期に、関内駅前の旧市役所街区に「THE LIVE Supported by 大和地所」もオープンします。
木村 行政と連携しつつ、再開発を進める三井不動産さんとのコンソーシアムにDeNAが入り、スタジアム周辺の拠点として作ることになりました。メジャーリーグのいくつかの球場でもすぐ横にこうしたエンタメ施設があるそうで、それらを参考にしています。球場に入れない時でも、その熱量を感じたいと思って集まってきてくださる方々のパワーは本当にすごい。24年の日本シリーズでもそれを強く感じました。そうした方々がスタジアムの横で盛り上がれる、いい場所になるのではないかと期待しています。
── まだまだスタジアムは進化していくのでしょうか。
木村 時代に合わせて進化していくべきだと考えています。現時点で具体的な何かがあるわけではないですが、その時の状況や技術に合わせて決めていくことになると思います。
20年の増築が終わった時も「これで一区切りですか?」というご質問をいろいろな方からいただきましたが、その時も「数年後に何か手を加えるのでは」とお答えし、実際に今回、スコアボードを改修することになりました。これからも適した形で進めていくことになると思います。
── スタジアムやアリーナのビジネスにおいて周辺を含めた「街づくり」を意識するチームもあります。
木村 日本ではエスコンフィールド(北海道日本ハムファイターズの本拠地)さんがまさにそういうモデルです。われわれも開港以来の横浜の中心地にたまたま球場があるというありがたい立地を生かして、都市型の街のにぎわいをつくるチーム、スタジアムにしていきたいという想いがあります。
スポーツではないのですが、一つ参考にしている事例があって、ニューヨークにブライアントパークというところがあり、もともと治安の悪い地域だったそうです。そこでそのエリアを良くしようとしている非営利団体を周辺の企業や店舗が支援し、緑が豊かな人々が集まる空間へと変えていったそうで、それによって土地の価値が上がり、周辺の方々も恩恵を受けられるようになったそうで、なるほどなと。
横浜スタジアム、横浜公園を良くしてそのエリアのにぎわいをつくっていく、価値を上げていくことはわれわれだけでなく周辺の方々にとっても良いことであり、それがベイスターズがいてくれて良かったという想いにもつながり、ベイスターズの存在価値にもつながっていくのではないかと思うのです。ブライアントパークは非営利団体の主導でしたが、われわれはそれをスポーツの力で実現したいと考えています。
── 最終的に、横浜スタジアムをどのような場所にしたいですか。
木村 「一生に一度は行ってみたい」と思われる場所にしたいです。適切な表現ではないかもしれないですが、カナダにオーロラを見に行くような、世界遺産を訪問するような、遠方の方々が憧れ、近隣の方々はたくさんの人が訪れることを誇りに思うような場所にしていきたい。将来的には世界中から来ていただきたいですが、まずは日本中からそう思われるスタジアムにしていきたいです。
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