2025年にトレンドワードとなった「リカバリーウェア」。その市場を牽引するのが、「BAKUNE(バクネ)」を展開する、中西裕太郎CEOが創業したTENTIAL(テンシャル)だ。同社は、ビジネスパーソンやアスリートの課題解決を目指し、着心地と科学的根拠を両立させたさまざまな製品を展開する。(雑誌『経済界』2026年4月号より)
中西裕太郎 TENTIALのプロフィール
なかにし・ゆうたろう 1994年6月16日生まれ。埼玉県出身。高校時代にサッカーの全国大会に出場するも、病気により競技生活を引退。卒業後にベンチャー企業の創業に携わり、その後リクルートキャリアを経て2018年にAspole(現TENTIAL)を創業。
インソールの販売からリカバリーウェア開発へ
── 創業は2018年で、はじめはスポーツのハウツーメディアを立ち上げたそうですね。
中西 自分自身がサッカーを続けてきた中で、病気を患ったことが大きな転機となりました。健康でなければ新しいことに挑戦できないと感じ、その後IT業界に飛び込んだのですが、そこで目にしたのは、エンジニアの方々がエナジードリンクを飲みながら朝まで働くような状況でした。こうした環境を変えられないかと思うようになり、自分にはスポーツの経験があって、また健康の重要性も理解しているので、それをつなぎ合わせた事業ができないかと考えて立ち上げたのがTENTIAL(テンシャル)です。当初からスポーツメーカーになっていくことも視野に入れていましたが、ただアセットがない中で、自分にできることは何かと考えた時にたどり着いたのが、スポーツのハウツーメディアでした。
── それから数年後にD2C事業へと舵を切り、インソールの販売を開始しました。
中西 メディアを運営する中で多くのアスリートや一般の方々と接点を持ち、またLINEの無料相談サービスを運営していたのですが、「足」に関する悩みを聞くことが多かったのです。スポーツの世界ではインソールにこだわることは多いですけど、日常生活で履く靴のインソールを入れ替えることはあまりなくて、介護や医療の現場なども含めて、より多くの方々に使ってもらえたら、と思って作りました。
── そして21年にリカバリーウェア「BAKUNE(バクネ)」の販売をスタートしました。
中西 僕たちは「日々、挑戦する方々の日常生活の困りごとを解決する」というテーマを掲げており、いろいろな議論を重ねる中で、科学的なアプローチを取り入れたリカバリーウェアを作りました。ただ当初はカラーも2色のみで、多忙なビジネスパーソンやアスリートに使ってもらうことにフォーカスした製品でした。
── 当時はまだ「リカバリーウェア」というカテゴリー自体がなかったように思います。
中西 そうですね、全くなかったわけではないですが、かなり少なかったです。今ほど注目されている市場ではなく、僕たちが課題と向き合っていく中でたどり着いたのがリカバリーウェアだったという感覚です。当時は「パジャマに需要はない、売れない」と厳しい言葉もありましたが、それでも僕たちはマーケットリサーチをして「困っている人がいる」という確信がありました。健康につながるものであれば届ける意味があるし、それによって社会も良くなると。結果的にそうしたニーズが高まっていき、それが会社の成長にもつながったのだと思います。
── リカバリーウェア市場には現在、多くの企業が参入しています。
中西 価格帯も幅広く、販売チャネルも実店舗とオンラインがあり、多様なマーケットになったと感じています。30年には1700億円規模の市場になるとの予測もあり、それはパジャマを変えることで疲労回復につながる、ということが認められたからだと思っています。
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リカバリーウェアを軸に生活環境全般へと広げていく
── 現在はリカバリーウェアの他、サンダルや寝具などプロダクトを拡充しています。こうした展開は計画どおりなのでしょうか。
中西 ビジネスとして売れるものを作る、というのはベースとしてありますが、それと同時に「社会課題や健康課題の解決に寄与できるか」を大事にしています。売れることと解決につながること、のバランスを保ちながら商品を展開してきました。
ここまでの成長について、理想は高く持っているのでもっともっとプロダクトを世に出したい、という想いはあります。ただインソールとパジャマだけのところから、パジャマは十数種類になり、素材のバリエーションも増え、布団やワークウェアなど商品数も増やすことができているので、及第点かなと思っています。
── 製品開発におけるこだわりを教えてください。
中西 まずは着心地や体感といった定性的な心地良さを追求しています。その上で、定量化というのは難しいのですが、第三者機関や大学との共同実験を行い、しっかりとエビデンスを取るなど科学的根拠に基づいた機能を取り入れているところです。
── アスリートの声を開発に反映しているそうですね。
中西 はい、製品ができあがって発売前に数十人のアスリートに試着を依頼しています。そこで袖の長さや、肩周りの可動域など具体的なフィードバックをいただき、開発に生かせるところは反映するようにしています。特に多いのは素材感に対するご意見で、ここが重いとか、ここの肌触りがとか、本当に細かい部分のご指摘もいただきます。また、お客さまからもいろいろな声があり、そうしたご意見も参考にしてアップデートし続けています。
── 最近では侍ジャパンへのスポンサードも大きな話題となりました。
中西 PR目的だけでなく、選手たちが実際に製品の良さを感じてくれていたことがスポンサードの背景にあります。侍ジャパンでは井端(弘和)監督や、代表選手の中に愛用者が多かったことなどがサポートするきっかけとなりました。
早速、コラボ商品を発表させていただきましたが、加えてコンディショニングパートナーとしてチームとご一緒させていただきます。製品提供の他、遠征先での睡眠環境の整備や、コンディショニングのセミナーなども考えていますが、具体的にはこれから話し合って決めていきます。
── 最後に、今後の事業戦略とターゲットについてお聞かせください。
中西 僕たちは健康投資という市場を大きく捉えています。「健康になりたい」、「体調を整えたい」と思った時にTENTIALの製品を選べば間違いないという信頼を確立したいと思っています。まずはリカバリーウェアでシェアナンバーワンを維持し、そこから寝具などの生活環境全般へと広げていきます。
ターゲットは、仕事を精力的にこなす〝ビジネスアスリート〟と定義する層をメインに考えていますが、健康は全世代共通のテーマです。僕らの製品はアスリート向け、一般向けなどの区別はなく、全ユーザーに同じものを提供しています。トップアスリートと同じウェアを着用できるというワクワク感も大事にしているところで、この製品を通じてあらゆる世代に健康投資の重要性を届けていきたいと考えています。
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