生保の不祥事が絶えない。先日明らかになったプルデンシャル生命の顧客からの搾取事件の被害総額は31億円にも上る。生保は自分の命を預ける商品だけに、担当者との信頼関係がすべて。それを裏切っただけに罪は重い。その背景には何があったのか。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2026年4月号より)
「山っ気」ある社員が引き起こした不祥事
生命保険は、販売側と顧客の信頼関係をベースに「将来の安心」という目に見えない商品を売る商売だ。しかし、今年1月に不祥事が明らかになった外資大手、プルデンシャル生命保険は、そんな保険販売の理念などどうでもよかったらしい。「社員107人が、計約31億円を顧客からの30年以上にわたって詐取するなどしていた」という言語道断の不祥事。「ライフプランナー」と呼ばれる同社の営業職員が、顧客の人生を守るどころか、お金を奪い続けるようになったのはなぜなのか。今もしばしば明るみに出る日系生保の不祥事と共通する、構造的な要因はあるのだろうか。
「プルデンシャル生命に飛び込み、営業職として働く人は、『一旗あげてやろう』という山っ気のある人物ばかり」
こう語るのは、プルデンシャル生命の内情に詳しい関係者だ。
同社の報酬体系は、ほぼ完全歩合制。新規契約を取れば取るほど多くの報酬を稼げ、場合によっては億円単位の年収を得られる。このため、たくさんの「拝金主義」の自信家たちが引きつけられ、入社してきた。
ただ、思い通り稼げなければ収入が激減し、窮乏する。生活水準を維持するため不正に手を染めた営業職員はもちろん、営業職員を追い詰め、顧客に被害を負わせることになった同社の経営管理責任は、まことに重いと言えるだろう。
では、具体的に何が起きたのか。1月にプルデンシャル生命が発表した調査結果や記者会見によると、判明した事実は次の通りだ。
「被害」にあった顧客は503人で、関与した社員は 現役・退職済みを合わせ107人。期間は1991年から2025年まで、不正に受け取った金額は約31億円に上り、うち約23億円が返されていない。
手口は次のようなものだ。
- 汐留支社(東京)の元営業職員(30代、23年5月に退職)のケース
複数の顧客に架空の金融商品への投資を持ち掛け、プルデンシャル生命の申込書類や、同社の社名が記載された書面を利用して金銭を受け取った。 - 熊本支社の元営業職員(20代、22年12月に退職)のケース
複数の顧客に対し、プルデンシャル生命社員のみが利用できる社員持株制度の名称を提示。「社員しか買えない株があり、絶対利益が出て元金は保証するからお金を預けてくれないか」と持ち掛け金銭を受け取った。 - 首都圏第八支社(東京)の元営業職員(50代、19年12月に退職)のケース
顧客が支払わなければならない保険契約の保険料を長期間立て替えた。立て替えた保険料相当分の金銭をまとめて顧客から受け取る時、実際の金額より多く請求して受け取った。
これらは顧客からの申し出で発覚したという。
ほかにも、
- 顧客に「自分も儲かっている」などと言って仮想通貨の投資関係者を紹介し、顧客が投資。しかし、この投資関係のシステムにログインできなくなり、顧客に返金されなかった。
- 「建築用材の会社に投資して運用するので、投資金としてお金を貸してほしい」と顧客に頼み、借用書を作ってお金を借りたが、返金されなかった。
といったケースがあったという。
こうした手口を見て、別の保険会社の関係者は「組織的な指示があったかどうかは分からないが、少なくとも営業職員同士でノウハウの『非公式な共有』があったのではないか」と疑いの目を向けている。
不祥事の発覚を受け、金融庁はプルデンシャル生命へ立入検査に入った。規模の大きさを深刻にとらえており、営業活動の実態などを詳しく調べた上で、行政処分を下すことも視野に入れている。
プルデンシャル生命の間原寛社長は2月1日付で引責辞任し、グループ会社の社長を務めていた得丸博充氏が新たに社長に就任した。
完全歩合制の魅力と落とし穴
しかし、数億円も稼ぐ人がいる「エリート」たちが道を踏み外したのはなぜだったのか。考えられるのは、次のような理由だ。
1つ目は、前述のように、報酬がほぼ完全歩合制であること。新規契約をたくさん取り続ければ高収入が続くが、営業成績が悪くなれば報酬は極端に下がる。
例えば、稼げている間は高級車を乗り回し、タワーマンションに住み、子供をインターナショナルスクールに通わせることもできる。しかし、報酬が下がると、こうした生活を維持することは難しくなる。
報酬の落ちた営業職員が、住宅ローンの支払いや見栄の維持のため「顧客の金」に手を付けたというのが、今回の不祥事の一側面といえる。
プルデンシャル生命自身も「営業社員の収入の不安定さからお客さまに金銭貸借を依頼する事例や、業績確保のために保険料の一部を営業社員が負担するなどの不正行為も報告(されている)」としている。
2つ目は、単発で不適切な行為が発覚することがあり、その都度、調査や対応を行ってきたものの、取締役会や執行役員会で、ビジネスモデルが抱えるリスクなどについての議論と検証が行われていなかった。
3つ目は、 営業職員が過度に尊重され、高業績者が「神様扱い」される組織風土だったことも、ビジネスモデル改善の機運の高まらない原因だったとみられている。
これらを踏まえ、プルデンシャル生命は次のような再発防止策を打ち出した。
まずは、営業に関する諸制度の改善だ。
営業報酬制度などのインセンティブの仕組みを抜本的に変える。資格制度や表彰制度、営業管理職への登用では、コンプライアンスや顧客へのアフターフォローに関する評価を組み込み、新規契約の獲得重視の組織風土を払拭するとした。
また、営業職員が、いつ、どこで、どの顧客に対し、どんな営業活動を行っているのか適時・適切に把握し管理する態勢を強化する。
担当の営業職員以外から顧客へのコンタクトを強化し、不適切な行為などがないかも確認。経営の「リスク感度」を高め、ビジネスモデルを検証していけるようにするともした。文字通り「解体的出直し」を誓った格好だ。
ブラックボックスが不正を生む温床に
だが、営業職員による不祥事はプルデンシャル生命だけでなく、日系の生保でも相次いでいる。
近年では20年、山口県周南市を拠点に勤めていた第一生命保険の80代の女性営業職員が、02年から20年にかけ、20人以上の顧客から約19億円の現金を騙し取っていた。
「女帝」と呼ばれた彼女は、50年以上勤め、全国の営業職員でもトップクラスの成績を誇っていた。「特別調査役」という肩書きを持ち、地元の政財界でも知らない人はいない存在だった。
彼女は「高い利子で運用できる、私だけが持つ特別枠があるので、お金を預けないか」などと架空の投資話を顧客に持ちかけ、お金を騙し取っていたという。いわば親戚のような「親密さ」「情」を武器に悪事を働いたケースと言える。
25年には、大樹生命保険や明治安田生命保険でも、高齢の元営業職員が顧客からお金をだまし取るケースが発覚した。
営業職員が巨額のお金の詐取に手を染めやすい組織風土が、日系・外資を問わず生保にはあるようだ。なぜそのような風土が醸成されるのか、共通の背景として次の4つが考えられるだろう。
①「新規契約」至上主義の評価体系
プルデンシャル生命で見たように、生保の営業職員に対する評価は、既存顧客のフォローより新規契約の獲得が重視される。
保険業界に詳しい関係者によると、「営業職員は、常に新しい契約を追い続けなければならない。日系の営業職員は基本給がしっかりしているが、それでも新規契約が取れなければ収入は大きく下がる」と話す。
収入が下がれば、生活も維持できない。このため、追い込まれて顧客から不正にお金を受け取ってしまう構図は、プルデンシャル生命も日系生保も同じと言える。
②「個人プレーヤー」化とローテーションの不在
生保業界は「一生の担当」を売りにしており、特に日系生保では、同一人物が一つの営業所などから転勤せず、数十年にわたり一人の顧客を担当するケースがある。これが過度な癒着を生み、本社が介入できないブラックボックスを作り上げている。
前出の関係者によると、「成績を上げ続けているベテラン営業職員に対し、数年交代の人事異動で来る若い幹部は意見などできない」。これが、ベテラン営業職員の暴走を生む素地になっていると言える。
③「情報の非対称性」の悪用
特約、解約返戻金、運用益など、保険商品の仕組みや用語は複雑だ。営業職員は「専門家」である優位性を生かして、嘘を真実に見せかけることが簡単にできてしまう。
④売上至上主義
関係者らによると、保険会社には昭和の時代から「数字さえ上げていれば、少々の素行不良は目をつむる」というコンプライアンス軽視の文化もあった。自浄作用がなかったツケが、いま噴出している。
生保業界はまず、プルデンシャル生命の再発防止策と同じく、新規契約時に多額の報酬をもらえる体系を改めるべきだろう。契約を10年、20年と続けることに、より多くの報酬を支払う形へと変える。それが、無理な勧誘や金銭詐取を減らすことにもつながるはずだ。
また、全商談を記録し、キーワードなどから人工知能(AI)が怪しい投資の勧誘やお金の貸し借りを検知する仕組みを導入できないか、検討してみてもいいだろう。
このほか、担当者とは別の本社直属のチームが定期的に顧客と面談し、担当者の言動に不審な点がないかチェックする体制を標準化すべきだ。
一方、消費者も、自分を守る意識が求められる。もし保険担当者が「会社には内緒ですが、お得な運用枠があります」「保険の解約返戻金を使って、別の投資に回しましょう」などと持ちかけてきたら「赤信号」「要注意」だ。本社に直接確認するようにしたい。
生保業界は、真の意味での「信頼を売る商売」に戻ることができるのか。その覚悟が問われている。