ヘラルボニーは障害を持つ作家のアートを福祉としてではなくビジネスとして扱う会社で、最近、注目を集め、メディアでも引っ張りだこ。経営するのは双子の・松田崇弥さんと文登さん。とても気持ちのいい若者たちです。私もヘラルボニーの服を身をつけてトークに臨みました。photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年4月号より)
松田崇弥/文登 ヘラルボニーのプロフィール
まつだ・たかや・ふみと 1991年生まれ。戸籍上の兄は文登氏で東北学院大学卒業後ゼネコン勤務。崇弥氏は東北芸術工科大学卒業後、小山薫堂氏の会社に入社。2人で障害者アートを社会に提案するブランド「MUKU」を立ち上げたのち、2018年ヘラルボニーを設立。
盛岡の美術館で受けた障害者アートの衝撃
佐藤 改めまして、経済界大賞社会貢献賞受賞、おめでとうございます。
崇弥・文登 ありがとうございます。
佐藤 障害のある作家が描くアートを福祉事業ではなくビジネスと捉え、アーティストの発掘と作品の展示・販売を行っていることが、評価の対象となったのですが、なぜアートとビジネスが結びついたのですか。
崇弥 私たちの兄(翔太氏・似顔絵中央)は重度の知的障害を伴う自閉症だったため、障害のある人は常に身近な存在でしたし、彼らのために何かできないか、とは常々考えていました。
そんな時、僕は母と一緒に花巻市にある「るんびにい美術館」に行きました。ここでは障害のある作家が描いたアートを展示していたのですが、その感想は「ただただすごい」。ものすごく感動しました。
同時に思ったのが、こんなにすごい作品なら、フェアに評価されなければもったいないな、ということです。実力ある作家は実力通りに評価されるべきだと。そこで文登に電話で話して何かやれないだろうかと相談しました。
文登 そこで僕も「るんびにい美術館」に行ったのですが、同じように衝撃を受けるとともに、障害のある作家が描くアートへの価値観を変えられる可能性があると思ったのを覚えています。ただ障害のある人自らが情報発信することは難しい。ならば自分たちがその橋渡しができないかと考え、試行錯誤を経て、8年前に会社を立ち上げたのです。
佐藤 今では地元のカワトク百貨店に旗艦店を構え、百貨店関係者の中で大きな話題になりました。大手百貨店の大丸も、昨年秋に、ポップアップストアを開催しました。
しかも銀座にはギャラリーとショップからなる常設店を開き、パリ・ファッションウィークにもアンリアレイジとともに参加しています。2025年はヘラルボニーにとって大きな転機となったのではないですか。
崇弥 おかげさまでメディアに取り上げられる機会も増えました。本当にありがたいことです。
百万人都市すべてにヘラルボニーの店舗
佐藤 それを踏まえて、今日はへラルボニーの今後の野望をお聞きしたいと思ってお2人に会いに来ました。
崇弥 昨年、銀座に店舗を開きましたが、このような店を増やしていきたいですね。そうすることで、まだ知られていない作家たちと出会えるチャンスが増えると考えています。
そうやって国内を固めていき、そのうえで目指すのは日本発の世界的ブランドとなることです。サンリオやポケモンは世界中のどこでも知られています。それと同じように、ヘラルボニーという名前を世界に広めていきたいですね。
パリ・ファッションウィークに参加したことで、ニューヨークのメトロポリタン美術館のキュレーターと知り合うことができました。これをきっかけにアメリカで挑戦できるかもしれない。その実績があれば、世界中に出ていくことができる。すごく楽しみです。
文登 今は主に知的障害のある作家のアートを取り扱っていますが、これを福祉全般に広げていきたい。
例えば、障害のある人は生命保険などに入るのが難しい。保険があることはあるのですが、なかなか活用されていません。ですからわれわれが保険会社と合弁会社をつくり、本当に障害のある人のための保険商品を販売する。
あるいは外資系ホテルと組んでホテル事業に参入する。単にホテルの装飾として障害のある作家の描くアートを使うだけでなく、障害のある人をそのホテルで雇用する。
さらには障害のある人のグループホームを運営してもいい。老人ホームの世界では異業種からの参入が相次いでいて、いずれも素晴らしいサービスを提供しています。それと同じように、普段から障害のある人と接しているわれわれだからこそ、提供できるサービスがあると思います。このように将来的に障害福祉全般を担えるような企業体になれたらいいなと思っています。
佐藤 すごい。夢がどんどん膨らんでいきますね。
崇弥 毎日ワクワクしています。でも夢を叶えるには、もっとわれわれが大きくならなくてはいけません。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ創業者の増田(宗昭)さんから言われたのが「夢を解像度高く語れ」ということです。
店舗を増やしたいというのなら、何店舗欲しいのか。大きくなりたいというならどのくらいの売り上げになりたいのか。世界で挑戦するというなら何カ国に展開したいのか。それを具体的に語ることで、夢が現実になる道筋ができて組織自体も固まる、というのです。
文登 その意味では、国内の100万都市には必ずヘラルボニーの店がある状態を目指したいですね。
その地域の障害のある人たちにとって、ヘラルボニーがハブとなり、そこに障害のある方やその家族、そして福祉関係者たちが集まってくる。そしてそこがいろんな人と触れ合う場として機能する。
崇弥 現在の小中学校では、分離教育が基本となっているため一般の子どもたちは障害のある人と触れ合う機会が少ないです。これは健全ではないと考えています。ヘラルボニーが障害のある人もない人もさまざまな人が混じり合える場をつくっていきたいと思います。
佐藤 素晴らしい夢ですね。全国、そして海外へ、ヘラルボニーの世界が広がることを願っています。