不妊治療領域で卵子と胚の凍結・融解の世界標準を確立させたリプロライフ。「クライオテック法」は世界約70カ国で500万件以上の体外受精治療症例数の実績を誇る。現在は「第2創業期」と位置付け、拠点戦略やビジョン・バリューの見直しを進めている。(雑誌『経済界』2026年5月号より)

澁井史昭 リプロライフのプロフィール

澁井史昭 リプロライフ
リプロライフ社長 澁井史昭
しぶい ふみあき

羽田に研究開発拠点 AI活用で開発加速

リプロライフは2010年に設立。創業者で現会長の桑山正成氏が編み出した卵子と胚の凍結・融解をシンプルかつ正確に行える「クライオテック法」は世界中の生殖補助医療に寄与しており、卵子・胚の操作性向上を実現した新溶液の開発などを通じて、より高い生存率の達成に貢献してきたパイオニア企業として知られる。桑山氏から代表を引き継いで4年目の澁井史昭社長は「命を紡ぐ喜び」を語る。

「凍結された卵子・胚は融解したときの生存率が重要で、患者さまの大切な命の源である卵子・胚は一つも無駄にできません。22年4月からは不妊治療が保険適用対象となり、その注目度はさらに高まりました。われわれの製品のユーザーはクリニックで働く胚培養士であり、ユーザビリティ向上のためにも積極的に意見を聞く機会を設けています」

澁井氏は現在を「第2創業期」と位置付け、「拠点戦略」「組織改革」「AI活用と開発の加速」の3つに取り組む。「拠点戦略」では新たな研究開発施設として「羽田イノベーションシティ」を選定。羽田空港に隣接した「先端産業の集積地」には数多くの企業や大学が進出しており、空の玄関口としてのアクセスはもちろん、社員に「日本から世界へ」をより強く意識させる狙いだ。現在は内装工事に取りかかっており、5月の稼働開始を目指す。

「研究施設は以前から探していましたが、ぴったりな場所へ入居が叶いました。われわれは海外顧客も多く、ドクターや胚培養士も研修や学会で来日しています。そうした折に空の玄関口である羽田に研究施設があれば招きやすく、食事にも宿泊にも困りません。さらに大企業の先端研究所が揃っています。開発担当者同士の交流を加速させつつ、業界関係者も多く招くつもりです。不妊治療業界はここ数十年で急速に発展してきた領域で、標準化されていない部分も少なくありません。『今まで通り』ではなく、『なぜそのやり方なのか』という疑問をぶつけ合うことが現場への『気づき』になります」

次なる一手は「組織改革」だ。新たに「ビジョン」「バリュー」「ミッション」「スピリット」の策定を決めた。創業時の「情熱」を「共通言語」へ進化させる考えだ。

「会社設立から16年が経ち、会長の桑山の創業理念が薄れないよう改めて定義し直す意図です。もちろん社員一人一人にそれぞれ不妊治療に携わっている思いはありますが、明確に言語化されていませんでした。社員全員がマインドセットを共有することが重要です。これはわれわれ経営陣が主導することではなく、社員全員で話し合って決めるべきものなので、外部の専門コンサルタントを招き、現在、策定を進めているところです。『創業者のレガシー』から自立し、自分たちで考えたミッション、バリューなどに従って行動することが大切で、5月の公表を目標にしています」

3つ目に掲げるアクションは「AI活用と開発の加速」。企業でもAIエージェントが日常的に利用されるなか、リプロライフでもAI活用に注力。第1段階として会社向けにカスタマイズしたAIエージェントを用意して利用率向上を目指した。

「まずは『自分の旅行計画でも何でもいいから使ってくれ』とAIの利用を促しました(笑)。その甲斐もあって利用率は85%まで高まりました。第2段階は業務効率化です。現在、日々の一般的な事務作業は激減しており、工数は以前と比べて半分程度にまでなりました。そして第3段階はもっとも重要な開発部門におけるAI活用です。分析データをAIに読み込ませて要約させた上で判断の参考にしています。これにより、新製品の開発速度は格段に向上し、競合他社が1年かけるところを数カ月で成し遂げられる体制が整いつつあります。AIを活用するならば中途半端な形では意味がなく、徹底的に使い倒さなければ本当の成果は得られません」

胚培養士の地位向上へ 救った数で世界一を目指す

リプロライフは、第2創業期に取り組むと同時に、不妊治療業界全体の発展にも貢献していきたいとしている。不妊治療を担う胚培養士は国家資格化もされておらず、地位の向上が求められている。

「不妊治療でよく目にする動画は『顕微授精ICSI(イクシー)』と呼ばれる技術ですが、あの手技を行っているのは、多くの場合、胚培養士です。私も医薬業界に長年勤めていましたが、リプロライフに入社するまでは恥ずかしながらその存在すら知りませんでした。しかしながら胚培養士は、全国でも2千人程度しかいません。その重要性も十分に認知されておらず、人数も足りない状況が続いています。22年の保険適用を皮切りに不妊治療にも徐々に日が当たるようになってきました。東京都でも23年から助成金を交付しています。以前は『不妊治療中です』と口にすることもはばかられる風潮がありましたが、そのような雰囲気も薄れてきました。啓蒙活動を通じて不妊治療の認知度向上を図っていきます」

企業として売上高や営業利益のKPIは掲げていない。代わりに澁井社長が訴えている言葉は、「患者さまを救った数で世界一を目指す」だ。

「売上高でいくらを目指すと言われてもわれわれの心には今ひとつ響きません。将来、世界トップシェアになったとしても、それは『世界で一番、不妊治療で苦しむ患者さまを救った会社』として胸を張りたいです」

設立2010年7月
本社東京都新宿区
従業員数50人
事業内容ヒト卵子・受精卵(胚)の凍結デバイスの開発・製造・販売
https://reprolife.jp/ja/