前澤友作氏が10億円を投じた京都のベンチャーがある。航空会社Space Aviation(以下スペースアビエーション)だ。「空は金持ちのもの」という常識に挑み、3千円からの遊覧飛行で市場を開拓。今や50機を保有し、提携オーナーは100人を超える。今夏には関空―京都の定期便が就航、上場も視野に入れる(雑誌『経済界』2026年5月号より)
保田晃宏 Space Aviationのプロフィール
やすだ あきひろ
3分3千円からの価格破壊で「空の民主化」へ
ヘリコプターと聞くと、「緊急時に出動するもの」「お金持ちの乗り物」と思う人が多いだろう。その常識を覆そうとしているのが、京都に本社を置くベンチャー航空会社スペースアビエーションだ。
「これまで日本のヘリコプターは、欧米に比べて搭乗価格が3倍も高かった。でも使っている機体はアメリカ製やフランス製で同じもの。なぜ3倍も違うのかと疑問を持ち、欧米並みの価格でサービスを始めたら、需要は爆発的に増えました」と社長の保田晃宏氏は語る。
同社は、航空撮影会社を事業承継する形で2019年に設立。観光と防災の二軸で事業を展開し、わずか10年でヘリコプター1機から、ヘリ・ジェット合計50機を保有する企業へと急成長した。年平均成長率は40%を超え、直近の売上高はグループで36億円を計上している。
急成長の原動力は価格破壊だ。同社は全国各地で3〜5分、3千円からの観光遊覧飛行を提供している。
「北海道・洞爺湖では展望台の中にヘリポートがあり、飛び上がった瞬間から美しい景色が広がります。短時間でも満足していただける『いい場所』を押さえているのがポイントです」と保田社長は語る。
利用者は、コロナ禍前は9割が日本人客だったが、今やインバウンドが7割に達する。特にこの2〜3年、超富裕層の利用が急増している。
「移動はすべてヘリコプターで、時間を惜しんでいろいろな地方を回りたいという方々です。アメリカやヨーロッパだけでなく、中東、インド、南米と、あらゆる国籍のお客さまが日本を訪れています」
京都から香川県・直島のアートミュージアムへ向かい、広島、そして東京へ──。ヘリを利用してピンポイントに目的地を渡りながら旅をするスタイルが定着しつつある。
一方、国内でも意外な需要があるという。例えば、「F1日本グランプリ」の開催日には、ヘリで送迎のニーズが高まるとのこと。京都から鈴鹿サーキットまでは約20分、1席あたり片道15・8万円(特日料金)だが、車なら渋滞して2〜3時間かかる道のりだ。また、桜の開花シーズンには、高齢者が空から座って花見を楽しむ需要があるという。
「空の定期便」始動 防災インフラとしての側面も
スペースアビエーションはこの夏、新たな挑戦に踏み出す。関西国際空港と京都を結ぶヘリコプターの定期便事業だ。所要時間はわずか20分、価格は1座席3万円。ハイヤーを使うより安いケースもある。
「京都から関空まで車だと渋滞で2時間以上かかることもありますから、需要はあるのではないでしょうか。ニューヨークのJFK空港とマンハッタンを結ぶヘリ便が300ドルで大ヒットしているのを見て、同じことができると確信しました」
関空の年間利用者は3千万人以上。1%が利用するだけでも30万人の巨大市場になる。大阪便も検討中で、こちらは2万円を切る価格を想定している。
さらに、海外展開にも着手している。アメリカのヘリコプター会社のM&Aを進めており、こちらも今夏クロージング予定。これを足がかりに、アメリカ全土へ日本と同様のビジネス形態で展開していく計画だ。
また、「防災」という社会課題の解決にも取り組んでいる。
現在、5つの市町村と連携協定を結び、平時は観光振興、有事には応急支援を行う体制を整えている。24年元日に発生した能登半島地震では、4機のヘリを現地に派遣し、物資輸送と人員輸送を担った。
「自衛隊の大型ヘリでは入れない小さなエリアでの輸送を民間が担う。そこに大きな意義がありました」と保田社長は振り返る。
協定を結んだ市町村の地域住民にとっては、ヘリの音が耳に入ることになるが、有事の際には救助に駆け付けてくるメリットがある。
同社では「観光と防災」の二軸を強化するため、ふるさと納税で観光遊覧を提供したり、年1回の防災訓練にヘリを参加させたりして、自治体との信頼関係を築いている。
2年後の上場を目指し「空飛ぶクルマ」時代の先頭へ
同社がヘリを10年で1機から50機に増やせた理由として、独自の「オーナー制度」と「人材育成」がある。
中古ヘリコプターは減価償却が2年、簡便法なら1年でできる。1億円のヘリを買えば、1年で全額を経費計上できる計算だ。この節税面での魅力から、経営者や医師など約100人のオーナーが機体を保有し、同社が運用を担うモデルで事業を拡大してきた。ヘリは1機5千万円から購入可能で、1口2千万円からの共同保有もできる。オーナーには、全国のどの機体でも原価に近い価格で乗れる優待制度がある。
一方で、ヘリを操縦する人材育成についても注力している。ライセンススクールを運営し、年間10〜15人の訓練生を受け入れている。
「他社だと機長になるまで5年近くかかるところを、うちでは3年以内。観光事業があるので、お客さまがいない時の移動を訓練に活用できるんです」
現在は自社で育成した人材を含め、パイロット資格者35人、うち機長約20人が在籍している。加えて、整備士の確保も業界全体の課題だが、海外人材の活用も視野に入れながら解決を図っている。
今後について「2年後の株式上場を目指しています。アメリカ事業も含めて売上100億円が目標です」と保田社長。28年頃にはeVTOL(電動垂直離着陸機)、いわゆる「空飛ぶクルマ」の導入も視野に入れる。eVTOLは騒音が少ないので都市部での離発着が増え、空の移動がさらに身近になるはずだ。京都から始まった「空の移動革命」は今、大きな未来へ羽ばたこうとしている。
| 設立 | 2019年5月 |
|---|---|
| 資本金 | 11億4,442万円(資本準備金含む) |
| 売上高 | 36億円(グループ) |
| 本社 | 京都市伏見区 |
| 従業員数 | 80人 |
| 事業内容 | ヘリコプターによる観光遊覧、旅客輸送、防災支援、パイロット教育・訓練、航空機売買・整備 https://space-aviation.com/ |