日本は四方を豊かな海洋に囲まれている島国だ。漁業をはじめ私たちは大いなる恩恵を受け続けている。しかし、わが国の海洋経済には諸問題が山積している。漁業従事者の高齢化。洋上での再生可能エネルギーの開発問題。深海に眠る海洋資源の商業化。こうした問題を解決するためにいま何が求められているのか。文=ジャーナリスト/一木悠造(雑誌『経済界』2026年5月号より)
海洋経済 問題は山積 漁業人材は高齢化が深刻に
深刻さを増しているのが、漁業従事者の高齢化の問題だ。水産庁のまとめによると、2022年の時点で漁業従事者数は前の年より約4%減った約12万3100人で年々減少傾向にあるという。そして漁業就業者全体に占める65歳以上の割合は増加傾向となっている。一方、39歳以下の割合も近年増加傾向となっている。漁業就業者数の総数が減少していっている中で、22年の新規漁業就業者数も1691人とこちらも右肩下がり。このうち、39歳以下の割合は約7割で、とりわけ従事者の中で若い世代の参入が多く占める傾向が続いているのは一筋の光明かもしれない。
実際、各地で30代から40代の「DX漁業者」の活躍が目覚ましい。
宮崎県日向市漁港に所属する髙田一人さん(46歳)は「DX漁師」でもある。IT企業などに勤務後、地元日向市にUターン。日向漁協入りし大型定置網の従業員として6年間従事した後に独立し宮崎県では行われていなかった小型底定置網の操業を開始した。ITに関わってきた知識などを生かして、漁業に水中ドローンを導入。水中の網の状態や魚の入網状況の確認、これらを生かした網の改良等によって1人で操業を行うための作業効率を向上させた。髙田さんは「漁業の魅力を広めたい」とSNSなどを通じた地元漁業の発信にも余念がない。
洋上風力発電計画の行く末 どう巻き返す?
昨年夏、洋上風力発電関係者に衝撃が走った。三菱商事などが秋田県沖と千葉県沖などで開発を進めていた洋上風力発電プロジェクトが事実上中断した。プロジェクト主体者の三菱商事が昨年8月27日、中西勝也社長が三菱商事本社で会見を開き、撤退の意志を表明したのだ。
世界的なインフレで建設資材コストが急騰し売電価格が2倍になっても投資回収が困難な状況に陥り、将来の採算が合わないことなどを理由にした三菱商事にとってはまさに苦渋の決断だった。
「採算の見通しの甘さなどが指摘されたが、第1ラウンド事業の撤退は正直ショック」(プロジェクト関係者)。第1ラウンド事業が頓挫したという事態に管轄の経産省もすぐに動く。物価高騰など想定外の事態に直面し事業途中でも計画の変更を柔軟に認める方針を決定。三菱商事が撤退した海域について、今年4月以降に新たな方針のもとで再公募が行われることになっている。政府がすばやく動いたのにはわけがあった。
「再生可能エネルギーの一丁目一番地が実は洋上風力発電」(関係者)この言葉を裏付けるように政府は30年に10GW、40年までに30G〜45GWの導入目標を掲げ、特に水深の深い日本海域に適した浮体式技術の商用化と、国内調達比率65%以上の達成を目指す方針を掲げている。
洋上風力発電は陸地での風が少ない日本に適した発電事業だ。さらに洋上風力発電の部品数は数万点に上り、事業規模自体も大きいことからサプライチェーンへの経済波及効果が高いとされる。そして、日本各地での展開となるため、その地域の活性化にもつながるのだ。
こうした流れを受けて、第1ラウンドの再公募、そして第2ラウンド、第3ラウンドと計画は予定通り進むとみられ、関連産業も盛況となる可能性が高く、わが国の海洋経済の光明である。
国産レアアース調達へ 中流下流で巻き返し
日本のレアアース国産化の大きな第一歩となるかもしれない。今年1月半ばに、地球深部探査船「ちきゅう」が東京から約2千キロ離れた、の南鳥島沖に向けて出港。EEZ(排他的経済水域)海底6千メートルまで、ちきゅうがレアアース泥をくみ上げるためのパイプを伸ばし、複数個所からレアアース泥を回収した。
「海底で連続してレアアース泥をくみ上げて船上に上げられるか、システムの接続試験が成功した。まずは第一歩だ」(プロジェクト関係者) 政府プロジェクトは産業に必要な量とされるレアアース泥の埋蔵規模の調査に始まり、実際に海底からレアアース泥を採掘するためのパイプの製造、深海3千メートル級での採掘実験などに通算約15年を費やし、ようやくここまで到達した。
このレアアースプロジェクト、石破茂前首相が改めて表明しており、昨年11月の日本成長戦略会議の場では、就任したばかりの高市早苗首相も南鳥島の名を上げ、投資していくべき主要な項目に据えた。
そうしたなか、1月6日に、中国が日本へのレアアース輸出を規制すると発表。レアアースショックとメディアを中心に大騒ぎとなったが、政府と民間企業は動じることがなかった。
「2010年以降、代替策を模索し実行してきた」と語るのはレアアースを使うメーカー関係者。10年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を機に当時、日中関係が一気に冷え込み関係するメーカーなどは大きな打撃を受けた。それもそのはず、中国はレアアースの埋蔵量が豊富で、採鉱から精錬業務に至るまで圧倒的シェアを持つレアアース大国として覇権を握っているからである。
これをきっかけに「中国に頼りすぎずに、新たな納入先を開拓した」(別のメーカー関係者)。日本は官民が連携して「レアアース中国依存からの脱却」に一気に舵を切ることになったのだ。
それから15年余り。本格的な日本のレアアース自給に向けたプロジェクトが動き出した。来年2月以降は、実際に南鳥島沖で1日当たり350トンのレアアース泥を採取する採算ベースの実証試験も始まるという。南鳥島産のレアアースが市場に広がるのは「早くて10年後」(関係者)とされているという。量産化に関して一層の前倒しをプロジェクトチームには期待したい。
では、中国のレアアース覇権に日本はどう立ち向かっていくべきなのか。日本が勝ち筋を見いだせるのは、レアアース産業における一連の過程の「中流」から「下流」の部分とされている。中国は「上流」である採掘、精錬の部分から「中流」の製造の部分まで圧倒的な威力を誇っている。一方で採掘、精錬を中国をはじめとした他国に頼らざるを得ない日本は、中流から下流にまたがる「原料を加工、製造する過程が強み」(メーカー関係者)とされている。
関東地方のあるメーカーは10年の中国レアアースショックを受けて、中国産レアアースを用いない磁石を開発することに成功した。試行錯誤を繰り返した末に、従来の磁石を用いた独自の技術を開発したことにより、レアアースのジスプロシウムを含んだネオジム磁石と呼ばれる永久磁石と同等の出力を出すことに成功したのだ。「日本のものづくりの誇りを少しでも発揮していけたらと思う」(メーカー幹部)。
日本のものづくりの矜持が脱・中国レアアースを一層進め、中国一強の覇権に食い込む原動力となっていくことは間違いない。
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