今年2月、内閣府が進める南鳥島沖で世界初となるレアアース泥採鉱システム接続試験が成功し、日本の海洋開発に脚光が集まる。資源小国において、民間では背負いきれないリスクを担い、エネルギーの安定供給と脱炭素化に挑む独立行政法人が存在する。深海資源から資源外交、人材育成まで、同法人のトップに話を聞いた。(雑誌『経済界』2026年5月号より)
髙原一郎 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構のプロフィール
たかはら・いちろう 1956年生まれ。79年に通商産業省(現・経済産業省)へ入省。中小企業庁長官や資源エネルギー庁長官などを歴任。退官後は丸紅の副社長や副会長を務めた。2023年に独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の理事長に就任。
海洋資源開発と国際的な規則の形成
―― エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とはどういう組織なのか、お聞かせください。
髙原 日本は石油や天然ガス、金属資源のほとんどを輸入に頼る資源小国です。資源やエネルギーの安定供給を確保する国の政策実施機関として事業を展開しています。
具体的には、日本企業が行う資源の探鉱や開発事業を資金、技術、情報の面から支援しています。資源開発は巨額の投資と長期間を要し、民間1社ではリスクが大きすぎます。そこでわれわれが初期調査で有望な場所を探し、出資や債務保証で資金面のリスクを分担しています。民間が海外の資源開発に参入しやすいよう、呼び水の役割を果たしているのです。
近年は地政学リスクの顕在化や脱炭素化への対応として新たなエネルギー分野へも役割を拡大しました。水素やアンモニア、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、洋上風力発電なども支援対象です。資源確保と脱炭素社会の構築という2つの目標を同時に追求しています。
―― 今年2月、南鳥島沖でレアアース泥採鉱システム接続試験の成功が報道されました。この進展についてどうお考えですか。
髙原 あの事業は内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で進められる国家事業ですが、日本全体で見れば大きな意味を持つと考えます。
電気自動車等に不可欠なレアアース等の重要鉱物は外国への依存度が高く、供給途絶リスクを抱えています。これを自国の排他的経済水域(EEZ)内で確保する道筋がつくことは、他国の動向に左右されない資源の自律に直結します。資源小国日本にとって国家安全保障の希望となるのです。
深海からの資源回収技術の確立は、日本の高い技術力を世界に示します。海洋開発を牽引することは日本の責務です。
―― 国際的な規則作りも重要になります。
髙原 公海域の海洋鉱物資源については、国際海底機構(ISA)で開発規則の策定議論が続いており、具体的な数値基準は未定です。
環境保全と資源開発を両立する公正な規則作りにおいて、日本の役割は重大です。2024年には日本主導でワークショップを開催するなど貢献を行っています。規則が未整備だからこそ、技術力と経済力を背景に自らルール形成に関与していく気概が求められます。
―― 事業分野では、どのような海洋資源開発が進展していますか。
髙原 海底熱水鉱床やコバルトリッチクラスト、メタンハイドレートなどの実用化を見据えた技術開発が進んでいます。
沖縄近海に存在する海底熱水鉱床は、銅や亜鉛等を含む岩盤状の鉱体です。採掘機で破砕し海上に引き上げる高度なシステムが要求されますが、これまでに連続揚鉱試験に成功しています。リチウムイオン電池に不可欠な金属を含むコバルトリッチクラストは、海底の岩盤から鉱石を効率的に取る技術を開発中です。砂層型メタンハイドレートは、国内海域や米国アラスカ州陸上での産出試験を通じ、商業化に向けた取り組みを推進しています。
信頼で結ぶ資源外交と脱炭素の実装
―― 脱炭素化の推進について、どのような事業が進んでいますか。
髙原 CCSについては、9つの先進的事業を選定し支援しています。国内外の海域へ輸送・貯留するプロジェクトであり、直近では年間300億円規模の予算を確保して企業を後押しします。産業競争力を維持しつつ脱炭素社会へ移行するための重要な取り組みです。
洋上風力発電では、国が初期調査を主導するセントラル方式の一環として風況や海底地盤調査を担っています。国がデータを一元的に取得・提供し、案件形成の効率化に貢献しています。24年10月には北海道の岩内町に連絡事務所を設置し、地域社会との信頼関係構築に注力しています。
液化天然ガス(LNG)の供給網におけるメタン排出削減に向けた取り組みも主導し、購入者と生産者が連携して排出管理を行う「CLEANイニシアティブ」を構築しました。
―― 資源獲得競争が激化する中、資源国との関係強化や人材育成も重要になるのではないでしょうか。
髙原 資源の安定確保と供給源の多角化を進める上で、日本の技術力と信頼性が強力な武器になります。相手国への技術移転や人材育成を通じてパートナーシップを築くことが資源外交の神髄です。
専門性、現場経験、語学力を3本柱に、海外鉱山や国際機関等への出向を通じた育成を実施しています。
ボツワナの地質リモートセンシングセンターでは、南部アフリカ諸国の技術者に探査技術を指導しています。資源国の技術者の受け入れは、長期的な人脈形成に直結します。
また「ダイバーシティ宣言」を策定し、多様な職員が自由闊達に議論できる組織づくりを進めています。共に資源開発を担う人材の育成が安定供給の基盤になります。
―― 有事の際のセーフティネットとしての機能についてもお聞かせください。
髙原 中東情勢の不透明化などリスクは絶えず存在します。われわれは石油や液化石油ガスの国家備蓄制度の担い手であり、全国15カ所の基地を統合管理し、有事に供給を担保する体制を整えています。石油備蓄は消費量の約147日分、石油ガス備蓄は輸入量の約53日分(25年3月末時点)を確保しています。24年度には緊急放出訓練を6回実施し機動性の向上に努めました。
レアメタルの国家備蓄も担い、市場の要求に即した品目へ転換を実施しています。
平時は産業支援や技術開発を行い、有事は安全保障の実行部隊となる二面性こそが求められる役割です。
海洋資源開発の無限の可能性を次世代に知っていただきたい。技術と人材による自律と、外交による協調、そして備蓄。これらを高い次元で統合し海洋国家日本の未来を支えていく所存です。