働き方改革の波は学校教育の現場にも及んでいる。現在、特に注目されているのが、部活動の指導にかかる教員の負担だ。放課後だけでなく休日返上で無償労働を余儀なくされる状況に、多くの教師が悲鳴を上げている。この課題解決に取り組んでいるのが、アーシャルデザインCEOの小園翔太氏である。文=吉田 浩 Photo= Rang(雑誌『経済界』2026年5月号より)

小園翔太 アーシャルデザインのプロフィール

小園翔太 アーシャルデザイン
アーシャルデザインCEO 小園翔太
こぞの・しょうた 1988年生まれ、鹿児島県出身。日本大学経済学部卒業後、スポーツイベント企業を経て、HR系企業に入社。2014年アーシャルデザインを設立し、スポーツの力で産業の成長を促進し、社会をアップデートするプラットフォーム事業「SportsForce」を展開。

「働き方改革」を背景に公立教育の領域に参入

 アーシャルデザインは2014年設立で、スポーツ人材のHR事業からスタートし、20年に「スポーツ人材×IT領域」の事業を加え、24年から中学校に部活動の指導者を派遣する事業に本格的に取り組み始めた。サービスを導入する学校は増え続け、直近2年間で首都圏を中心に451校への指導者派遣実績がある。

 教員の時間外労働の44%は部活動の指導というデータが示すように、その負担軽減は深刻な課題だ。教員の働き方改革を国策として、文部科学省は教員が休日に活動しなくてもよい仕組みづくりとともに、生徒の活動機会確保のために地域人材・外部指導者の活用などを進めている。この流れを受けて、業界で知名度の高いアーシャルデザインにある自治体から相談を持ち込まれたのが、新事業を開始するきっかけとなった。

 学生時代にプロテニスプレーヤーを目指していたという小園氏が起業した背景には、競技を通じて得られる「心の強さ」や「チームを動かす力」などに着目し、「スポーツをやってきた人たちが社会で輝けるようにし、スポーツの普遍的な価値を世の中に伝えたい」という思いがあった。元アスリートや体育会学生を企業に紹介するHR事業からスタートし、人材ネットワークづくりのために、オウンドメディアを通じたブランディングに注力したり、人気サッカー漫画『GIANT KILLING』とコラボして、漫画の登場人物やストーリーをモチーフにしたイベントやコンテンツを提供したりするなど、さまざまな手法を駆使して認知度を高めていった。

 現在は引退したアスリートにプログラミング教育を施して、IT/DXエンジニアとして派遣する事業が主力の1つだ。加えて、これまで民間事業者がなかなか参入できなかった公立学校教育の領域に参入したことで、新たな可能性を広げている。

AI全盛時代だからこそ人間の強さを生かしたい

 部活動の地域展開は国策ではあるものの、「当初は、部活がそんなに大変な状況とは全然知らなかった」と小園氏が語るように、取り組みはまだ端緒についたばかりだ。同氏はまず、自治体などへのリサーチから着手し、約1年間の準備期間を経て実行フェーズに移った。

 派遣する指導者は、既に人材紹介事業に登録している元アスリートに声を掛けたり、部活動の指導者に特化したウェブメディアを新たに作ったりして集めている。この他、自治体のスポーツ協会登録者などにも協力を仰ぐ。事業予算は自治体から預かる形になるが、実際に現場で関わる「学校教員、校長、保護者といった現場の担当者たちとのコミュニケーションが重要」と、小園氏は言う。

 活動を展開する上での課題もある。部活動顧問としてのやりがいを感じている教員もいるため、学校によってはいきなり全ての指導を外部委託するのは難しいケースがある。また、財源となる予算規模も、自治体によって大きく異なる。スポーツ庁も補助金予算を設けているが、まだ不足しているところが大半だという。首都圏は予算確保の意志が強い一方、地方は「人もお金もない」というところも多い。国に頼らず何とかしたいと考える自治体が多い一方、資金集めに困っているのが実情だ。

 そこで、財源確保に向けた取り組みとして取り入れたのが、企業からの寄付、協賛モデルだ。受け皿として一般社団法人を立ち上げ、協賛金を企業が広告宣伝費として落とせる形を用意した。また、ITエンジニア育成の実績を生かして、部活動の地域移行を支援する運営管理アプリも開発。このように、自治体が困っている課題を解決するラインアップを増やしていったことで、サービスを導入する自治体が増加している。

 中学生世代の部活動を担うことによって、たとえば地域のスポーツ施設管理を行ったり、高齢者を含めたコミュニティビジネスを展開したりといった形の派生事業も視野に入れる。これら周辺領域を含めた市場規模は約2兆円に及ぶという。

 参考にしたのが、ドイツで普及しているスポーツフェライン制度だ。同制度には国民の約3分の1が参加し、世代を問わず誰もが平等な立場でスポーツを楽しめる社会文化を形成している。スポーツを楽しむだけでなく、地域コミュニティの土台にもなっている。日本では150年の歴史を持つ学校部活動の継続が少子化や教員不足で難しくなる中、その伝統を生かしながらも、新たな形で発展させていく未来を小園氏は模索している。

 「生成AIなどテクノロジー全盛の時代だからこそ、スポーツや音楽といった〝人の感性を磨く〟コンテンツの価値が高まって行く」と、小園氏は語る。会社として今後15年間の中長期戦略を掲げており、30年までは「ヒトを作る」フェーズとして、HR事業、ITエンジニア育成、部活動支援の領域で人づくりを重ね、以降は「コト作り」として、地域におけるスポーツコミュニティ形成やプロスポーツビジネスなどのto C領域に注力、そして最後の5年間は「ヒト」と「コト」の掛け算で社会の「カタチ」を変えていくコンテンツを提供していくという。

 「エンタメとしてのプロスポーツだけではなく、〝人間としての強さ〟を先導する企業として、ナイキやアディダスと並ぶような日本発のスポーツ企業になりたい」と小園氏は力を込める。