核融合発電の実用化にはもう少しの時間が必要だ。ところが京大発ベンチャーの京都フュージョニアリングはすでに売り上げを伸ばしているという。なぜそんなことが可能なのか。世古圭社長兼COOに同社のビジネスモデルと今後の展望を聞いた。Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年6月号より)

世古 圭 京都フュージョニアリングのプロフィール

京都フュージョニアリング社長兼COO 世古 圭
京都フュージョニアリング社長兼COO 世古 圭
せこ・きよし 東京大学で物理工学を専攻。卒業し三菱商事入社。食品分野でトレーディング、事業開発などに従事。MBAを取得した後、Coral Capital に転じる。2021年4月に執行役員として京都フュージョニアリングに参画。23年からCOO、25年から社長兼COO。

イノベーションで世界を塗り替える

―― 京都フュージョニアリング(KF)は2019年に設立された、まだ若い会社です。その経緯と京都に込められた思いを教えてください。

世古 KFは京都大学発のベンチャーです。京都大学における長年の核融合研究を民間ビジネスへと昇華させるために設立されました。共同創業者である小西哲之(会長)は、京都大学で20年以上教鞭を執ってきた核融合工学の権威です。彼が50代、定年間際にして「大学や国立研究所という既存の枠組みのままでは、生きている間に核融合の実用化を拝むことはできない。このままではダメだ」という強い危機感を抱き、自らスピンアウトする形で創業しました。

当初は小西の京都の自宅ガレージを登記場所とし、まさに「ゼロ」からスタートしました。その後の1年半は大学の施設を借りて実験を繰り返しましたが、研究設備が巨大化するにつれ、天井高7~8メートルが必要なこと、莫大な受電容量や水の排気設備が求められることから、現在は拠点を東京の流通センターに移しています。

「京都」という名を冠し続ける理由については、単なる発祥地以上の意味を感じています。かつて明治維新で天皇が東京へ移られた際、京都の人々は「自分たちの技術と産業で街を再興しよう」と立ち上がったとされており、島津製作所や京セラといった世界的なものづくり企業を輩出しました。「伝統を守りながら、破壊的なイノベーションを起こす」という京都特有の土壌は、核融合という100年単位のプロジェクトに挑むわれわれのアイデンティティそのものなのです。

―― 世古さんは以前、三菱商事に勤務していました。日本を代表する大企業を辞めてまで実用化されるかどうかも分からない核融合の世界に転身された理由を教えてください。

世古 私はもともと大学で物理工学を専攻し、量子コンピューティングや太陽光発電の基礎原理を研究していました。商社に入社した際も「エネルギーをやりたい」と志願しましたが、配属されたのは食品部門。しかし、そこで東南アジアでの事業開発を経験し、10以上の会社を立ち上げる中で、ビジネスの本質を学びました。

30代を迎え、「人類にとって真に重要なものは何か」を問い直したとき、行き着いたのがエネルギーでした。エネルギーさえあれば、食料も水もデータセンターも、あらゆる文明の課題が解決に近づきます。逆に、エネルギーが不安定であれば国の存続すら危うくなる。

1千年、1万年先の人類を見据えたとき、ベースロード電源として機能する強力なエネルギー源は核融合が有望です。私は商事を辞めた後、一度ベンチャーキャピタリストの立場で核融合に関する分析記事を書きました。それを見た小西からコンタクトがあり、まずは投資家として、そして最終的には「この事業に人生を賭けて飛び込むことが、日本と世界の未来を最も変える」という確信を持って経営に参画しました。三菱商事が担う「グローバリゼーション」も重要ですが、私は「テクノロジーによるイノベーション」で世界を塗り替えたいと思ったのです。

優位性を支える日本のものづくり

―― KFは「炉の形式にはこだわらない」とも言います。どういう意味ですか。

世古 世界中のスタートアップが「トカマク型」「ヘリカル型」「レーザー型」など、プラズマをどう閉じ込めるかという「方式」の覇権を争っています。しかし、われわれはそれらの「どの形式でも必ず必要になる周辺装置(プラント)」を提供するという、極めてユニークな戦略をとっています。

 航空業界に例えるなら、機体メーカーを目指すのではなく、それら全てに不可欠な「高性能エンジン」を供給するメーカーを目指しているのです。

われわれが保有する主要技術は主に3つあります。

まずはジャイロトロンと言われる加熱装置。1億℃以上のプラズマを維持するための「電子レンジ」のような装置です。これだけの熱を安定的に供給するこの技術をKFは有しています。すでに億円単位で海外へ輸出しており、利益を上げています。

 2つ目はブランケット。 核融合反応で生じた高速中性子を受け止め、それを熱エネルギーに変えて発電に回す「炉の壁」です。これがないと、核融合が起きても電気を取り出すことができません。

そして3つ目が、燃料サイクルシステム。燃料となるトリチウムは極めて希少で高価です。これを炉の中で自給自足し、循環させるシステムが必要ですが、この技術を商用レベルで開発しているのは、世界でもほぼKFだけです。

 「真ん中のプラズマの方式は問わない。ただし、それを使って発電所にするには、われわれのプラント技術が必要ですよね」というのがわれわれのスタンスです。

―― KFが圧倒的に優位であると言える根拠は何ですか?

世古 日本の製造業サプライチェーンという、巨大な基盤を持っていることです。核融合炉は、1千℃の高熱に耐える特殊素材、巨大な超伝導マグネット、極低温システムなど、極限技術の塊です。イギリスにはロールスロイスのような名門企業がありますが、周辺を支える中小から大手までの中間層が相対的に限られています。アメリカもAIや設計能力は高いですが、実際に「ものを形にする」現場の力は近年縮小傾向にあります。

日本には三菱重工、IHI、東芝、京セラ、フジクラといった、世界最高水準のものづくり企業や部材メーカーが多数存在します。KFはこうした「ものづくり大国・日本」のサプライチェーンを束ねるインテグレーターなのです。 「設計・AI・データはアメリカ、ハードウェアのインテグレーションは日本」という日米同盟を組めば、国家資本で猛追する中国にも十分対抗できます。われわれは核融合界におけるNVIDIAのような存在を目指しています。

―― 実用化に向けてどのようなスケジュールを考えていますか。

世古 具体的なスケジュールとしては、2029年頃に発電実証プラントの設計を固め、立地を決定・着工。35年には建設を終え、実際に核融合で電気をつくり、統合システムを証明し(発電実証)、40年代前半には商用プラントの稼働を目指します。

 2035年というタイムラインは、世界的に見てもトップ集団に踏みとどまれるギリギリの線です。技術で勝っている日本が、ビジネスと政策で負けないための正念場が今なのです。

最大の課題は人材と規制の大幅見直し

―― 炉形式にこだわらないと言いつつ、スターライトエンジンという子会社ではトカマク型炉の開発を進めています。

世古 日本の、そして人類の「最短の勝ち筋」を確実にするためです。世界を見渡すと、中国、アメリカ、イギリス、韓国といった主要国が国家戦略として選んでいるのは圧倒的にトカマク型です。トカマク型には数十年分の実験データがあり、シミュレーションと実機のギャップが最も小さい。これに対し、ヘリカル型など他の方式は、サイエンスとしては非常に興味深いですが、実用化のフェーズではトカマクに比べてデータの蓄積や経験、またこれまでの出力パフォーマンスが3桁レベルで遅れています。

 世界中で「火星(発電実証)に行こう」という議論をしている横で、「いや、木星や土星(正味発電で安定稼働)を目指すべきだ」と主張するのは、サイエンスやエンジニアリングを軽視しており、エネルギー政策としては極めてリスキーです。日本国内にトカマク型をリードする民間企業がないことは国家的な危機であると考え、あえて会社を設立しました。

―― 30年代の実証、40年代の商用化。その道筋にある最大の壁は何ですか?

世古 資金調達もさることながら、私は人材と規制が最大のボトルネックになると見ています。

 商用化を現実にするには、今後10年で5千人から1万人規模の核融合エンジニアが必要です。しかし、日本では震災以降、原子力を志す若者が激減し、講座すら閉鎖されました。われわれは現在、東京大学や京都大学などと連携し、核融合に特化したカリキュラムを構築しようとしています。給与面でも、海外の年収2千万円といった水準と戦えるレベルまで引き上げていく必要があります。

 規制に関しては、核融合は、連鎖反応が起きないため原子力発電と異なる技術です。しかし現在、日本では明確な法体系がなく、既存の厳しい規制が適用されています。これでは実用化が10年遅れます。科学的事実に基づいた、合理的かつ独立した規制の枠組みを早期に構築することが不可欠です。

―― 核融合が当たり前になった時、そこにはどんな景色が広がっていますか。

世古 エネルギーが水と同じようにあって当たり前になり、そのコストが限りなくゼロに近づく社会。それは人類が「生存のための競争」から初めて解き放たれる瞬間です。

 エネルギーが安価になれば、海水の淡水化も容易になり、食料生産も安定します。気候変動に怯えることも、資源を巡って戦争をすることも、本来は必要なくなるはずです。そうなったとき、人間は何をするのか。スポーツ、アート、あるいは宇宙への探求など、人間本来のポテンシャル、脳の機能を最大限に発揮できるフェーズへと進化すると考えています。

 また私は、日本からグーグルやテスラ、スペースXに並ぶ、いや、それらを超える「偉大な会社」をつくりたい。核融合はそのための手段であり、同時に人類の文明を次のステージへ進めるための「唯一の鍵」だと信じています。

東京都大田区にある京都フュージョニアリングの実験施設
東京都大田区にある京都フュージョニアリングの実験施設