他稿でも触れているように、核融合にはいくつもの方式がある。しかし投入エネルギー以上にエネルギーが確認できたのはレーザー型のみだ。それを実用化するために誕生したのがEX-Fusion。トカマクなど他の方式とどこが違うのか。レーザー型だからできることは何か。松尾一輝CEOに聞いた。(雑誌『経済界』2026年6月号より)
松尾一輝 EX-Fusionのプロフィール
まつお・かずき 岐阜県出身。大阪大学大学院理学研究科物理学専攻。大阪大学レーザー科学研究所の藤岡慎介教授のもと、高速点火方式核融合の研究に注力後、米カリフォルニア大学サンディエゴ校博士研究員。2021年7月EX-Fusionを共同創業者として設立、CEOに就任した。
起業で得た機動力とスケーラビリティ
―― 松尾さんは元々大学の研究者です。それが自らEX-Fusion(EXフュージョン)を立ち上げています。なぜ経営者を目指そうと考えたのですか。
松尾 当社は2021年7月の創業です。私自身はそれまで大阪大学、そしてカリフォルニア大学で一貫してレーザー核融合の研究に没頭してきました。転機となったのは、指導教官であった大阪大学の藤岡慎介教授からの「民間ベンチャーキャピタルがこの分野に強い関心を持っている」という一本の連絡でした。正直、それまでの私は「スタートアップ」や「資金調達」という言葉とは無縁の世界にいましたが、この分野が学術領域を脱し、社会実装へ向かうタイミングだと確信し、立ち上げを決意しました。
―― 大学のラボで研究を続けることもできたはずです。会社を興すことで何か決定的な違いがあるのですか。
松尾 最大の違いは「機動力」と「スケーラビリティ」です。大学という組織は、教授や准教授のポスト数が決まっており、プロジェクトの進展に合わせて急激に人員を増減させることが構造的に難しい。しかし、核融合の実装フェーズでは、膨大なエンジニアリングの課題を解決するために、多様な専門家を迅速に雇用する必要があります。
また、レーザー核融合の特質も大きく関係しています。磁場閉じ込め方式(トカマク型など)は、装置全体が一体不可分で巨大なため、実験機1つに数兆円規模の投資が必要です。対して、レーザー型は「モジュール」が可能です。スタートアップが数百本のレーザーモジュールを同時につくることは不可能でも、究極のレーザーモジュールを1本完成させることなら、現実的な研究開発資金だけで可能です。1つのモジュールが完成すれば、あとはそれを並べるだけで商用炉へとスケールアップできる。このモジュール性こそが、レーザー型で起業した最大の論理的根拠です。
―― 核融合にはいくつかの方式があり、それぞれに研究が進んでいます。その中でレーザー型が他の方式より優れているところはどこなのでしょうか。
松尾 端的に言えば、すでに科学的に実現している唯一の方式だからです。核融合の世界ではQ値が議論されますが、22年に米国のローレンス・リバモア国立研究所が、レーザー型により世界で初めてQ値1・0を超える純利得を達成しました。現在はQ値は4・13倍にまで到達しています。磁場閉じ込め方式には1980年代からの着実なデータがありますが、まだQ値が1・0を超えてはいません。
―― なぜレーザー型だけがQ値1・0超えを実現できたのですか。
松尾 レーザー型は、2016年頃から指数関数的にデータが伸びてきました。これは燃料を極限まで圧縮して点火させる物理過程の理解が進んだためです。すでに「燃焼プラズマ(核融合反応を自律的に維持するプラズマ)」だけであり、科学的な確度という点では圧倒的にリードしています。
―― トカマクやヘリカルでは、強力な磁場によってプラズマを制御します。レーザー型はどう制御するのですか。素人的には制御できないと水爆のような巨大なエネルギーが放出されるのではないかと不安になります。
松尾 確かに水爆も核融合反応です。そしてあまりに巨大すぎて制御不能です。それに対してわれわれが取り組んでいるのは制御核融合です。水爆が加えたエネルギーの「何万倍」という出力を目指すのに対し、われわれは燃料のサイズを調整し「100倍」程度にしてエネルギーを取り出そうとしています。下から登るのではなく、既知の物理理論に基づき制御可能な範囲に下ろしてくるアプローチなので、エネルギー生成の物理としては極めて確度が高いのです。
小型で柔軟性がレーザー型の魅力
―― 米国の国立研究所が大きな成果を出している中で、EXフュージョンはどこで差別化を図るのですか。
松尾 われわれが注力しているのは、科学実証の先にある連続運転(定常運転)の技術です。1回の反応で大きなエネルギーを出すのが国立研究所の役割なら、それを「1秒間に10回(10㎐)、24時間365日」繰り返させるのがわれわれスタートアップの役割です。1回打てば終わりではなく、1秒間に10個の燃料ターゲットを炉内に送り込み、そこに精密にレーザーを当て続ける。これには「レーザーの除熱技術」や「燃料供給装置(インジェクター)」、そして「高速トラッキング制御」という、科学ではなく極限のエンジニアリングが必要になります。23年に当社が発表した「1秒間に10回の連続照射実証」は、この連続運転への第一歩として世界初の試みでした。
―― 連続運転において、レーザー型はメンテナンス性が高いと言われます。その理由はどこにあるのでしょう。
松尾 これは非常に重要なポイントです。レーザー核融合炉は、エネルギーを生む炉とレーザーを出す装置が物理的に切り離されています。
トカマク型などは炉そのものに巨大な超電導コイルが組み込まれており、中性子放射化した際、装置全体をメンテナンスするのが極めて困難です。
しかしレーザー型なら、放射化するのはシンプルな構造の「炉」だけで、高価なレーザー装置は安全な場所に配置できます。この分離構造により、商用炉としての稼働率や保守性を飛躍的に高めることができる。これは電力会社が導入を検討する際、極めて強力なメリットになります。
―― 実用化に向けた具体的なスケジュールと、直面しているハードルを教えてください。
松尾 30年代の発電実証を目標に掲げています。まずは発電検証装置を完成させ、40年頃には発電炉を実現させたい。
ハードルは大きくわけて2つあります。1つ目は長時間運転のマネジメント。1時間の連続照射から、24時間、そして365日へと時間を延ばす過程で、各コンポーネントにかかる熱負荷をどう制御するか。もう一つはレーザーモジュールの大型化です。現在は小規模なモジュールですが、これを数百本束ねてメガワット級の出力を得るためには、1本当たりの出力を引き上げる必要があります。
―― 将来のエネルギー市場において、レーザー核融合はどのようなポジションを占めると予想していますか。
松尾 磁場方式がベースロード電源を目指すのに対し、レーザー型はピーク電源(調整電源)としての価値も持っています。1秒間のレーザー照射数を変えることで出力を調整できるため、太陽光などの再生可能エネルギーの変動を補完したり、火力発電を完全に置き換えたりすることが可能です。また、高速点火方式という改良技術を使えば、従来よりはるかに小型で効率的な炉が作れるため、データセンターに直結した分散型電源としての活用も期待できます。
レーザー核融合による「エネルギー変換の環」
―― 巨額の投資が必要な事業です。失敗した時のリスクも大きい。経営者としてはリスクヘッジを行うことも必要です。
松尾 そのために核融合一本足打法ではなく、光の極限技術を応用した多角的な事業展開を行っています。レーザー核融合に求められる技術は、光の技術の中でも最高峰に位置しています。その開発過程で生まれる副産物を、すでにビジネスにつなげています。
例えば、京都で展開しているレーザー加工事業は、切削が難しい素材の精密加工などでニーズがあります。また、経済安全保障分野での活用も進めています。これにより、核融合という長期的な目標を追いかけながらも、足元で着実に売り上げを立て、企業としての生存力を高めています。おかげで投資家からも「ベースラインの時価総額を応用事業で担保しつつ、核融合で巨大なアップサイドを狙う二段跳びの構造」として評価していただいています。
―― 30年度のIPOを目指しているそうですね。
松尾 核融合は1社で完結できるものではありません。重工メーカーや電力会社といった、既存の巨大産業と組む必要があります。なぜIPOを目指すかというと、上場することで社会的な信用を勝ち取り、透明性を確保することができるからです。それにより「オールジャパン」の座組みをより強固なものにする狙いがあります。
―― 核融合が実用化されたとします。その時、社会はどう変わるのでしょうか。
松尾 核融合発電はCO2を一切排出しません。生成される放射性物質の量も、原子力発電よりもはるかに小さい。でもだからと言って「環境に優しい」「地球温暖化を食い止める」ことだけを目的にこの事業を行っているわけではありません。
人類の歴史はエネルギー変換の歴史です。熱から蒸気をつくり、それでタービンを回し電気をつくってきました。その電気によって光をつくってきた。レーザーもその一つです。レーザー核融合とは、その光を使って再び熱を生み出すものです、しかも投入した以上のエネルギーをつくることができる。この「エネルギー変換の環」が閉じたとき、人類はエネルギーの制約から完全に解放されます。
そうなれば資源の奪い合いがなくなります。食料や水の問題もエネルギーがあれば解決できる。エネルギーが無尽蔵にある社会で、人類が何を選択するのか。その想像もつかないほど自由な未来を、この手で手繰り寄せたい。それが私のモチベーションとなっています。