昨年11月、核融合に1千億円の予算が下りた。これは第7次エネルギー基本計画に基づくものだが、そこに大きく関与したのが衆議院議員の山際大志郎氏。経済安全保障の重要性が増す中、エネルギーの自給率を上げることは喫緊の課題で、その一つの解決策が核融合だ。Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年6月号より)
山際大志郎 自民党衆議院議員のプロフィール
やまぎわ・だいしろう 1968年生まれ。山口大学獣医学科卒、東京大学大学院獣医学博士課程を修了。2003年の総選挙で初当選、以来連続8期。自民党選対委員長などを経て22年岸田内閣で経済再生担当大臣として初入閣。半導体戦略推進議員連盟会長を務めている。
ITER議連発足時のチャーターメンバー
―― 山際さんは自民党の科学技術・イノベーション戦略調査会「フュージョンエネルギープロジェクトチーム」の座長も務めるなど、政治家の中で核融合にもっとも詳しいと言われています。なぜ核融合に取り組むようになったのですか。
山際 僕は23年前に国会議員となって以来、一貫して経済、とりわけエネルギー分野のことをやってきました。その中の一つが核融合でした。20数年もやっていると、行きがかりでいつの間にか〝長〟を務めるようになっていた、という感じですね。
―― 20年前の核融合というのはどのような状況だったのですか。
山際 日本には「JT-60」というトカマク型の実験装置があるのみでした。そしてやはり20数年前に「ITER」計画が始まります。一つの国では資金的にも難しいので日本を含む世界7極(国や地域)が共同で核融合実験炉をつくろうというものです。それに伴い自民党内に「ITER議連」が発足しますが、僕はそのチャーターメンバーです。
とはいえ当時は今のような社会的な盛り上がりはなく、エネルギー政策に携わる一部の専門家や、技術・テクノロジーに明るい限られた人間が議論する「知る人ぞ知る」分野でした。社会実装というよりは、まだ「遠い未来の技術」という認識が強い時代でした。
―― 昨年11月、発足したばかりの高市政権は、2025年度の補正予算で核融合開発に1千億円を計上しました。高市首相は就任前から核融合には熱心でしたが、なぜこのタイミングで支出を決めたのでしょう。
山際 大きな理由は、エネルギーの「自給自足」と「経済安全保障」への危機感です。ホルムズ海峡の情勢不安など、日本はエネルギーの大半を中東などの外部に依存しており、この構造を打破することが喫緊の課題となっています。また、以前はITERなど国際協力で開発を進めてきましたが、その技術的蓄積もあり、アメリカや中国など、一つの国、あるいは民間企業でも核融合に挑戦し始めた。そこで日本でも独自の取り組みが必要だということになり、予算に結び付きました。
―― しかもこれまで核融合は文科省予算だったのに、今度は初めて経産省予算となりました。
山際 政府は3年に1度、エネルギー基本計画を策定しています。その第7次計画は、昨年2月に決定されています。この計画には僕も関わったのですが、この中で、核融合を科学技術という文脈ではなく、エネルギーの文脈として位置付けようと働きかけました。そして実際「早期実現と産業化を目指し」「世界に先駆けた発電実証を目指し」などの言葉を盛り込むことができました。
これが予算にも結び付いたのですが、何を意味するかというと、核融合が「文部科学省の科学技術予算」から「経済産業省のエネルギー・産業政策予算」へとステップアップしたということです。つまり「学問的な研究対象」から「社会に実装すべき実用エネルギー」として国に認められたということです。エネルギー基本計画の中に核融合が明確に位置付けられたことで、国を挙げた産業化への「ギア」が一段上がったといえます。
実用化が見えてくれば民間資金は自ずと集まる
―― 今後、開発はどのように進んでいくのでしょうか。そのロードマップとはいかなるものなのでしょうか。
山際 これまで核融合は「逃げ水」と言われてきました。ITERは当初20年に初プラズマと言われていたのに、その後25年となり、今では34年が目標です。しかしその間に30年代に発電実証を行うと宣言する民間企業が、日本やアメリカでたくさん出てきました。国際競争が激化していますが、その分切磋琢磨することで技術は進化していきます。しかもかつてはトカマク型だけだったものが、ヘリカル型やレーザー型、リニア型など、複数の可能性が出てきました。それぞれの方式の間でも切磋琢磨が起きる。それが最終的な商用化を早めるのではないでしょうか。
―― 1千億円という予算規模はどう評価しますか。
山際 今は実験室レベルから実験炉の作成に取り掛かっている段階ですから1千億円というのは必要十分な予算だと思います。しかし今後実証炉を建設するとなると兆を超える資金が必要になります。そうなると国の予算に加えて、民間からも資金を集める必要があります。
そのためにも「目に見える形」での実証が必要になってきます。今はまだ霞をつかむような話ですが、今後「プラズマができた」「熱を取り出して電気が灯った」となる。そしてQ値が1を超えて入れたエネルギー以上のエネルギーが出せるようになる。こうしたステップを踏むたびに、確実に資金の出し手は増えてくると思います。
ラピダスだってそうでしょう。今年、ラピダスに対して民間企業が1670億円を出資することが決まりました。当初の予想は1300億円でしたが、これを大きく上回ってきた。それというのも、ラピダスが2ナノのチップの製造に成功したからです。日本企業はやはり多少保守的です。利益を生むかどうか分からないものに対しては二の足を踏んでしまう。その代わり、実用化が見えてくれば状況が変わる。核融合もそれと同じ道をたどると見ています。
―― 研究者に話を聞くと、現段階で日本の技術は世界の先頭にいるけれど、現在、中国が莫大な国家予算を使って研究を進めている。これは脅威だ」と言っています。EVや太陽光パネル、半導体のように、日本がかつてはリードしていたのに、気がつけば市場を奪われていることになりかねません。
山際 EVや太陽光パネルはすでに汎用化しています。核融合は違います。それに極端な言い方をすれば、個人的には中国の核融合炉が優れているのなら、その技術を輸入してもいいとも思っています。原子力発電も、最初はアメリカの原子炉を輸入していました。そこから日本企業が学んで、自分のものにしていった。それと同じではないでしょうか。
―― 当時と違って知的財産に対する縛りがものすごく強くなっています。技術輸入の代償として膨大なパテント料が流出してしまうかもしれません。
山際 核融合に力を入れる目的はエネルギーの自立を手に入れるためです。そのためにはいろんな選択肢があります。純国産の技術でなくてもいいし、あるいは核融合でなくてもいいかもしれません。要はいかにして目的に到達するか。道は一本ではありません。
85年前、日本が太平洋戦争に突き進んだのは、ABCD包囲網によってエネルギーを止められてしまったからです。その状況は今も全く変わっていません。輸出国が供給を止める、あるいは国際情勢によって原油やLPGが入ってこない状況がいつ訪れるか分かりません。それに振り回されないためにもエネルギー自立が必要です。だからこそ僕はこれまでエネルギー分野に力を入れてきたし、僕らの世代の政治家の責任だと思っています。
無駄ではなかったサンシャイン計画
―― 1973年に第一次オイルショックが起き、石油価格が跳ね上がったあとにも、エネルギー自立の機運が高まり、サンシャイン計画という新エネルギー開発計画がスタートしました。しかし結果的には化石燃料依存を変えることはできませんでした。
山際 技術開発にはつきもののことです。商用化までには「死の谷」を乗り越えなければならないし、新しいブレイクスルーも必要です。だからといってやらなければよかったということではありません。それにより花開いた技術はたくさんあります。例えばソーラーパネル発電もそこから始まった。ビジネスとしては中国に取られてしまったけれど、世の中を変えたことは間違いありません。あるいは風力発電もそう。風力は今厳しい状況となっていますが、一定比率をこれで賄っていくのはあるべき姿だと思います。
―― もしエネルギー自立に成功すれば、社会は、日本はどう変わるのでしょう。
山際 仮に核融合が実用化したとします。燃料は重水素と三重水素ですから、海水中に無尽蔵にある。そのため燃料コストは実質的に無視できるほど低くなるため、エネルギーを安い価格で手に入れられるようになるわけです。そうなると、レアメタルやレアアースのような地域的に偏在している一部の資源を除けば、すべて自分たちでつくり出すことができるようになります。そうなると社会のあらゆるコスト構造が変わります。
例えば食料。地球温暖化やそれに伴う異常気象で農業を行うには難しい時代になりました。しかしエネルギーが安くかついくらでも手に入れば、電気代を気にすることなく植物工場を稼働することができます。これにより天候に左右されない食料生産が可能になる。つまりエネルギー自立だけでなく食料自立も達成できるのです。
現在、石油からつくられているプラスチックなどの素材も、炭素や水素などその構成要素は空気中や水中、あるいは土の中にある。これを取り出して組み合わせれば代替できる。
そしてこうした技術によって日本が世界をリードするなど一定の役割を果たしていけば、国際社会における日本の発言力はより強くなります。そうなれば、世界に対してより正しいことを発信できる。日本の存在感は間違いなく増していきます。それが日本の未来の姿となると信じています。