かつて大手チェーンストアの一角にあった西友は、2000年以降業績悪化に見舞われ、資本関係も二転三転。昨年7月には九州地盤のトライアルホールディングスの子会社となった。以来9カ月、トライアルが西友をどう立て直すかの絵図が見えてきた。文=ジャーナリスト/下田健司(雑誌『経済界』2026年6月号より)

九州地盤のトライアル 関東地盤の西友の補完性

 2025年7月にスーパー大手の西友を買収したディスカウントストアのトライアルホールディングスが、買収効果を生み出すための店舗施策を本格化させている。西友の大型店舗にトライアル流を取り入れた改装や、西友の既存店舗から商品を届ける小型店舗の出店などだ。九州を地盤とする新興のトライアルは西友を立て直せるのか、小売業界で注目が集まっている。

 西友は経営再建のため、02年に米ウォルマートと包括的業務・資本提携し、08年に完全子会社となった。その後、ウォルマートの日本撤退に伴い、21年に米投資ファンドのKKR傘下に入った。KKRは、イトーヨーカ堂を経て食品スーパーやドラッグストアのトップを務めた経験を持つ大久保恒夫氏を社長に起用し再建を図ってきた。24年には北海道と九州の事業を同業に売却し合理化を図った。

 25年に入ると、米投資ファンドのKKRが保有する西友株式の売却を検討していることが明らかになった。イオンや、ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス、トライアルなどが買収に名乗りを上げた。買収を決めたトライアルは3826億円を投じ25年7月に西友を完全子会社化した。

 西友を傘下に収めたトライアルは北海道から九州まで店舗を展開し店舗数は300店舗を超えるが、地盤の九州が約4割を占め、関東は約60店舗にすぎない。西友は関東・中部・東北・近畿で200店舗超を展開するが、関東が約130店舗と過半を占める。トライアルと西友の店舗数を合わせると600店舗を超え、関東は約200店舗となり、全体の約3割を占める主要エリアとなった。

 トライアルの25年6月期連結業績は売上高8038億円、営業利益211億円。西友を取り込んだ初年度となる26年6月期は売上高1兆3225億円(前期比64・5%増)、営業利益254億円(20・3%増)と売上高、利益とも大きく伸びる見通しだ。傘下の事業会社の業績は、トライアルカンパニーが売上高8698億円、営業利益315億円、西友が売上高4527億円、営業利益114億円を見込んでいる。

 西友買収で全国的な知名度を高めたトライアルは、1974年福岡市で開業したリサイクルショップを祖業とする。後の成長につながる店舗展開を始めたのが90年代だ。92年にディスカウントストアの1号店、96年にウォルマートをモデルにスーパーセンター1号店を出店した。

 2000年代に入ると、総合スーパー撤退跡への居抜き出店を拡大、店舗網を全国に広げていった。低コストがメリットの居抜き出店が原動力となり急成長を遂げ、25年6月期まで25期連続で増収を達成している。

M&A(合併・買収)については、08年に北海道のディスカウントスーパー、カウボーイを買収し店舗網を拡大。16年に総菜製造・開発の明治屋(現・こはく本舗)を買収し総菜強化に乗り出している。23年には青森県の食品スーパー、佐藤長から18店舗の事業を譲受した。

 近年、取り組んでいるのが生鮮・総菜の強化だ。生鮮では、生産者と直接契約して青果を仕入れるほか、魚市場からの直接仕入れや精肉の店内加工で鮮度を維持する。総菜では、プロの料理人によるレシピ開発や、九州特有の商品販売もある。

トライアル

流通業界で一歩先行くトライアルのIT化

 小売業界で異色と言えるのがITへの強いこだわりだ。87年にPOSシステムの受託開発を手がけるようになったのが始まりで、96年に顧客データの蓄積・活用を始め、2003年には中国でソフトウエア開発拠点を立ち上げた。10年前後には、データベースや店舗システム、決済機能付き買い物カートなどを自社開発するほか、店舗データをメーカーと共有するデータプラットフォームを稼働させている。18年にはレジを通さずに商品を購入できる決済機能付き買い物カートの販売や、買い物客の行動を分析しマーケティングに活用できるAIカメラのシステムを提供する子会社を設立している。こうした自前のIT開発は、ITエンジニアだった創業者の永田久男会長が推し進めていった。

 現在、300店舗を超える店舗数のうち、主力は店舗規模約4千平方メートルで衣食住の必需品を扱うスーパーセンターが約6割を占める。このほか、スーパーセンターの約2倍の規模を持つ大型店や、1千平方メートル前後の小型店などを展開する。

 トライアルは西友改革の一つとして取り組み始めたのが、既存店舗の「トライアル西友」への転換だ。トライアル西友では、西友の大型店舗を改装し生鮮・総菜を強化した。25年11月に1号店となる「花小金井店」をオープンしている。

 花⼩⾦井店では、⽣鮮・総菜・日配・一般食品から⾐料・⽣活⽤品まで幅広いカテゴリーの約2万5千品⽬を扱う。「みなさまのお墨付き」など西友のPB(プライベートブランド)に加え、トライアルのPB「おいしくなれ!」も揃えた。

 強化した生鮮については、トライアル流を持ち込み、ネタの旬や鮮度にこだわった⽣⿂を使った寿司を導⼊。精肉では鮮度を重視しセントラル加工から店内加工に変更したほか、1頭買いで希少部位も販売する。福岡発の小売業として、九州ならではのアイス、調味料、カップ麺などのほか、トライアルで人気のロースかつ重やチキン南蛮なども揃えた。

 さらに、トライアルの決済機能付き買い物カートや顧客ニーズに合わせた情報を提供するデジタルサイネージなどのデジタル機器も導⼊している。

 トライアル西友の1号店がオープンした11月には、都市部を対象にした小型店「トライアルGO」の都内1号店「⻄荻窪駅北店」もオープンしている。

 コンビニエンスストア並みの限られた売り場面積の中で生鮮・総菜、一般食品を販売する。近隣の西友既存店舗を拠点に、出来立ての総菜や弁当などを高頻度で届けるのが特徴で、バックヤードが不要となるメリットがある。一方で、セルフレジ、顔認証決済、リモート年齢確認などで決済の省人化を図るなど、ITを活用した効率運営にも取り組む。トライアルGOは、今後3年間で累計100店舗の新規出店を計画している。

 トライアルは西友買収の効果をどれくらい見込んでいるのか。

老朽化した西友店舗の改装が買収成否のカギ

 26年2月に公表した中期経営計画(27年6月期〜29年6月期)では、最終年度の29年6月期の連結数値目標として、売上高1兆6300億円、営業利益640億円、連結営業利益率3・9%を掲げる。事業会社別では、トライアルカンパニーが売上高1兆500億円、営業利益612億円、営業利益率5・8%、西友が売上高5800億円、営業利益180億円、営業利益率3・1%の計画だ。

 中計3年間の平均成長率で見ると、トライアルカンパニーが売上高6・5%、営業利益24・6%と高い伸び。主力のスーパーセンターを年間2ケタ出店するとともに食品強化で既存店を伸ばし売上成長を図る一方で、PB強化・粗利益率の改善・コスト効率化で収益力を引き上げるという。

 西友についても、売上高8・6%、営業利益16・4%と大きく伸ばす。新規出店は最小限にとどめ、トライアル西友への転換を軸に既存店のテコ入れによって売り上げを伸ばす考え。それによる固定費吸収とトライアルとのシナジーで販管費率を低減し収益性を改善する計画だ。

 買収効果については、売上総利益の押し上げとコスト削減で合わせて600億円超を見込んでいる。

 即効性がある施策として挙げるのが、仕入れ条件の統一と帳合統合だ。両社で異なる仕入れ条件を統一するとともに、卸売業者や仕入れルートを一本化する。これにより、26年6月期下期から27年6月期まで累計130億円の売上総利益の押し上げを見込んでいる。

 最も大きな効果を期待するのが、商品・売り場の改革や物流再編による効果だ。PBの相互販売や開発強化、棚効率を改善する棚割改革、高収益のハード・アパレル強化、加工センター・セントラルキッチンの再編などにより、29年6月まで累計450億円の売上総利益の押し上げを計画する。

 このほか、商品や会計のシステムをトライアルのシステムに一元化することで、29年6月期に20億円のコスト削減を見積もっている。

 西友は好立地にあるが多層階の老朽化した店舗が多い。それだけに、西友立て直しの課題となるのが店舗改革だ。中計では、3年間で大型店30店舗をトライアル西友へ転換するほか、中小型店60店舗で改装を実施する計画だ。

 店舗改革にあたっては、モデル店舗と位置付ける都内3店舗での成功事例を他店に拡大し全店の底上げを図るという。モデル店舗では、トライアルの名物商品導入、トライアルの棚割の適用、生鮮強化・店内加工商品の拡充、PBの販売強化、売り場レイアウトの最適化などの施策を行い、効果を見定めている。

 西友の大型店は売り上げがダウントレンドにある。これを増収基調に反転させるのは簡単ではないが、トライアル西友は転換3年目で転換前の60%増を目指す強気の計画だ。中小型店では、これまで停止していた7年に1度の定期改装を再開。モデル店舗の成功事例を取り込み、売り場や商品を刷新するという。

 西友と同じように店舗の老朽化で立て直しに苦しんできたのがダイエーだ。15年にイオンの完全子会社となったダイエーは、首都圏と京阪神での食品スーパーに専念し経営再建を図ってきたが、26年3月イオンが食品スーパー事業を再編し、ダイエーの関東事業、マックスバリュ関東、イオンマーケットを統合。ダイエーは首都圏から撤退した。

 西友はKKR傘下にあった22年に、老朽化が進んでいた「赤羽店」の再開発を決定。23年5月に赤羽店を閉店し不動産を売却し、再開発事業者が建設する新しい建屋に新たな店舗として再オープンする予定だ。中計にはこうした店舗改革は挙げられていないが、成功すれば大型店改革の一つとなりえる。

 西友は過去にも老朽店舗の改装を行ってきたが、全体の業績を伸ばすほどの成果は上げられていない。トライアルは居抜き出店による店舗再生で成果を出してきた。西友買収を成長につなげられるか。トライアル流の店舗再生が成否を握る。